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禍々しい力

 エイテルが滅んだ直後、俺は剣を握り直して彼女がいた場所の奥――そこに存在する天幕を見据えた。

 ジャノが先ほど言った通り、禍々しい気配は消えていない……俺はセリスを見た。彼女もまた俺へと視線を移し、


「……進もう」

「周囲にいる騎士達はどうする?」


 俺は騎士を見ながら問う。現在彼らは魔物を倒してから動きがない。というより、動けないと言った方が正しいか。

 どうやら彼らも天幕にある気配に息を飲んでいる……今まではエイテル達の存在がいたため気付かなかったものが、滅びたことで明確になった。


 むしろなぜ今までわからなかったのか、と思うほどなのだが……ただこれはエイテル達が目立たせないようにしていた、と解釈することができる。

 というのも、エイテルや銀髪の男は他者を威嚇するように常に魔力を発し続けていた。それによって、後方にあった天幕の力も彼女達が発したものであると誤認した面もあった。


 さらに言えば、禍々しい力は人間に敵意を向けているわけではなく、少しずつ魔力が漏れ世界を侵食していくかのように、極めて静かに気配を発している。その大きな違いによって、ここまでどれほどの脅威であるかと悟らせなかった。

 では、エイテルが滅ぶ寸前に言葉を残すほどの力は何なのか……少しして、セリスは天幕を見ながら俺の問い掛けに答えた。


「ひとまず、天幕から離れるように指示を出すよ。少し待っていて」


 そう言って彼女は騎士達へ呼び掛けた。その間も禍々しい力は天幕から発せられているが、突然襲い掛かってくるというわけではない――


『エルク』


 ふいにジャノが声を上げた。


『天幕の中に存在する力だが、どうやら生物の類いに宿っているわけではない』

「生物じゃない……ということは、例えばジャノが封じられていたような、道具に魔力が?」

『その可能性が高い。ただ、少しずつだが露出する力が増えている』

「……どういうことだ?」


 問い返すとジャノは自身の見解を述べた。


『先ほどエイテルが語っていた役目、というのは天幕の中にある力を抑え込む役割ではないだろうか』

「わざわざ力を抑え込む……?」

『それをしなければ、際限なく力が漏れ出し暴走する……組織はその強大な力を研究し、力をつけたという話ではないだろうか』

「仮にそうだとしたら……天幕の中にある力は、組織の根源と呼べるもの、ということか」

『だろうな』


 俺は一歩天幕へ近づく。それだけで気配を大きく増したような気がして、さらに進むことすら躊躇われるほどだ。

 俺自身、ジャノの力を宿している以上は、世界を滅ぼす力に対し耐性なんかもあるはずだ。よって、魔力に触れただけでは体に異常など生じないのだが……そんな俺でも進むことに二の足を踏んでしまうほどの魔力。それが、天幕の奥に存在している。


 そしてジャノの言う通り、少しずつ気配が増しているように思える……それはコップから水が少しずつ溢れ出す程度の増え方ではあるのだが――


『放置しておけば、それだけで世界の災厄となるな』

「……今この場で決着をつけることができればそれで解決だが……少しずつ魔力が漏れ出ているとなったら、放置も難しいか」

『例えば丸一日放置した程度ではそれほど大きな変化はないだろう……だが十日、一ヶ月となれば何かしら被害が出てもおかしくはなさそうだ』

「そういった事例を防ぐために組織は活動していた……?」

『力が漏れ出ているということは、それを抑えながら出てくる力を利用、研究もできる。組織は世界を滅ぼす力を自分達で独占し、力を得るために隠し、抑え込んでいたというわけだ』


 ……ジャノの推測通りだろうな。強大な力が暴走するのを防ぐ、というよりはこんな凄まじい力があるのなら、自分達だけで利用してやろうという意図があったに違いない。


「ジャノ、止めるにはどうすればいい?」

『力の根源を止めるか破壊するしかあるまい。しかし、何の考えもなくやっても力が暴走してしまう可能性がある……まずはどういったものか確かめ、その上で対策を立てる必要がある』

「対策……問題はそれをやる時間があるかどうか」

『ミーシャ王女もいる。ある程度動くことはできると思うが……果たして我々に対処できるのか――』

「エルク」


 ジャノが語っていた時、セリスが騎士達に指示を終えて俺の所まで戻ってきた。


「騎士達は下がるよう指示をした……次は、天幕の中にあるのか確認しないと」

「そうだな……俺が先頭で進む。いいな?」


 セリスはコクリと頷く。よって俺と彼女は、天幕へ向け歩き始めた。


 念のため天幕周辺を警戒しながら……漏れ出た魔力により魔物なんかが生まれてもおかしくはない。とにかく安全を確保しつつ……剣を握る腕に力が入る。緊張感が生まれ、俺もセリスも無言となる中、それほど経たずして天幕の前へと辿り着いた。



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