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戦いの先

 瞬間的に増幅した俺の剣が、銀髪の男へと届く。相手は俺の姿を目で捉えると同時に驚愕しながら対抗すべく剣を構えた。

 刹那、俺の剣は男の剣を容易く両断し――その体躯までも、斬撃を叩き込むことに成功した。


「――は」


 小さな声と共に、銀髪の男がゆっくりと倒れ始める。次いで体の手足が崩れ始めるのを確認した矢先、俺の矛先へエイテルへと向けられた。

 間合いを詰める速度は増幅によって大きく上昇しており、エイテルに攻撃されるよりも先に俺は剣を振った。気配を断って正体を隠していた相手が俺であると知り彼女もまた驚愕した様子であり――目を見開く一瞬の動作の間に、俺の剣が相手へと届いた。


 エイテルは俺の動きに対応できず、なおかつセリスのことも気にしていたためか、身じろぎ一つしなかった……結果、刃を受けたエイテルは大きく後退。なおも驚愕しながらその身に受けた傷に手で触れる。

 出血はしていなかった。人を捨てた以上、最早その体は構造からして人外のものとなっているのだろう。


「……なるほど、隠していた理由は明らかね」


 そして距離を置いたエイテルは俺とセリスを見据えながら、告げた。


「まさかセリスの婚約者がいるとはね……なおかつ、ここまで隠れていた理由も明白ね。本来、戦闘能力を持たないあなたがここにいるのなら、それは何か特別な役割があると考えられる……セリスにとってあなたは信用できるし、ね」


 傷に触れながらエイテルは告げる。


「そして今ならわかる……あなたはセリスが持つ力とは根本的に違うものを持っている……あなたこそが切り札だった、というわけか」


 ……彼女の体が、少しずつ崩れ始める。増幅の力を利用した渾身の一撃は、エイテルにとって致命的なものとなったらしい。

 ここでセリスは杖を振った。天へと掲げられた杖先から魔力が生まれ、光が空へと伸びた。


 次いで光がある程度の高度まで到達すると、光が拡散し雨のように降り注ぐ。それは周囲にいる魔物達を狙ったものであり……矢のように降り注ぐ魔法は的確に魔物を射抜き、大きなダメージを負わせた。

 魔法によって滅ぶ個体もいたがそれはごく少数。とはいえ騎士達に対する援護としては十分であり、魔法を受けて体勢を崩した魔物達へ、騎士達は猛攻を仕掛けた。


 結果として押し込まれていた騎士達は反撃で魔物を駆逐し始めた……俺達の、完全勝利であることは間違いない。


「……私達の、勝利です」


 セリスが言う。それに対しエイテルは体が崩れていく中で、小さく笑みを浮かべた。


「ええ、私の方は力を手にしたはずなのに、それを上回る存在によって、叩き潰された……全てを手にすれば、帝国の戦力も叩き潰せると思っていた。けれど、それはどうやら間違いだったようね」


 悔しさを見せるようなこともなく……ただ淡々とエイテルは考察する。


「むしろ、あなた達にとっては数が多い方が良かったかしら。その方が騎士達の動きを制限し、なおかつ魔物の対処によって持久戦に持ち込める。魔力を削った方が、セリスもあなたも効果的だったでしょうからね」


 ……エイテルは元々の計画から、全ての力を得ようと動いた。その目論見は成功して彼女は目的を果たしたわけだが、その結果戦力は大きくダウンした。

 その戦力ダウンが致命的な結果を引き起こした……俺達としてはエイテルが言う通り、持久戦になった方が犠牲が増える可能性もあったため、俺だって援護に回りその姿を晒す可能性が高かっただろう。


「ふふ、完全な敗北ね……帝国の秩序は守られた。そして、組織は潰え戦いは終わりを迎える」


 そう語るエイテル……だが、その顔から笑みが消えないのは、一体なぜ――


「そうあなた達は思っているでしょうね」

「……何?」


 俺は聞き返す。崩れている体からは魔力が漏れ、エイテルは今まさに消滅しようとしている。これ以上何かをやるような力はないはずだが――


「ふふ、この戦いの結末を見ることができないのは悲しいけれど、それならそれで仕方がないわね……あなた達に一つ教えてあげる。組織は確かに崩壊し、あなた達が勝利したのは間違いない。けれど、まだ終わっていない……組織には、ある役目があった。その役割は私が滅ぶと同時に消滅する……あなた達は、その役目を担うことができるのかしら?」


 何を言っている……? 疑問に思ったが、その回答はジャノの言葉によってもたらされた。


『……エルク、奥に存在する天幕にある禍々しい気配は、消えていない』


 何……? 俺は目を天幕に移す。そこにある魔力が一切変わっていないのを確認した時、


「あなたは気付いたようね」


 エイテルが口を開いた。


「あれを見てどうなるのか、目にすることができないのは残念だけれど……絶望する顔を想像しながら、消えるとするわ。さあ、楽しみなさい」


 そう言い残し、エイテルは消え失せた。


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