増幅の力
「先ほどの魔法でわかったわ。あなた自身は、私が得た力を持っていない……他者に付与されたもの。ミーシャ王女の力かしら?」
エイテルの問いにセリスは何も答えなかった……が、エイテルは沈黙が肯定だと受け取ったか、
「借り物の力でよく私に対抗できるわね……直接戦って私に勝てないと確信したでしょうに」
「わかりませんよ?」
セリスは軽い口調で応じる……その一方で俺は銀髪の男と対峙し、にらみ合いとなる。
仕掛けてもいいが、可能であれば銀髪の男を倒した流れでそのままエイテルにも仕掛けたい……男の魔力を間近で探れば、ジャノの言う通り倒せるが、上手いことやらないと戦いが長引く恐れがある。
(ジャノ、男を倒した流れでエイテルへ攻撃という形で持って行くこととか、できないだろうか?)
『であれば、目の前の男を一撃で葬る必要があるな……ならば、増幅の力を用いるほかあるまい』
(最終決戦なんだ、ここで使わなければいつ使うって感じだろう)
『わかった……可能な限り気配を隠しながら準備をしよう。幸いながら、まだ時間はあるようだからな』
銀髪の男は動かない。今もなお気配を断つ魔法の影響で俺という存在を明確に認識できていないため、警戒し続けている。
あちら側から仕掛けてくる可能性は低そうに見えるし、エイテルとセリスも至近距離で魔法の撃ち合いを始めるという雰囲気でもない……おそらくエイテル達は時間を稼ぎ、戦況を好転させようとしている。
周囲にいる騎士と魔物達との戦いは互角といった様子だが、少しずつ魔物の方が押し込み始めている。騎士達は辛抱強く踏ん張っているのだが、時間を掛ければ確実に不利になるのは帝国側。それがわかっているからこそ、エイテル達は慌てない。
まずは戦況を有利にした後、俺とセリスを仕留める……あるいは、騎士達が窮地に陥った際に助けたければ言うことを聞け、という交渉材料にでもするのか……どちらにせよ、このまま俺とセリスが動かなければ組織側に戦況は傾く。
だが、時間稼ぎは俺達を有利にできる要素でもある……周囲の騎士達が窮地に陥るほど待つ必要はない。ジャノの準備が整い次第、決着をつける。
そしてセリスはおそらくわかっている……なおかつ、このまま魔法の撃ち合いを始めれば自分が不利になることも。よってエイテルの時間稼ぎに付き合い、俺が攻撃するのを待っている。
「ところで」
と、エイテルはふいに話し始める。
「肝心のミーシャ王女はどこかしら? この戦場にいるのかしら?」
「……私達の本陣で待機してもらっています」
「なるほど、幾度か騎士を入れ替えていたけれど、王女が力を付与し直していたわけか」
そう述べるとエイテルは笑った。
「おそらく本陣にいる騎士達が来るのを待っているのかもしれないけれど……さすがに後詰めの部隊を待つほど悠長にするつもりはないわよ」
セリスを一歩追い詰める言葉……の、はずだがそれは彼女も理解している。
「あなたも、そして気配を断ち私達に姿を見られないようにしているそこの人も、魔物が暴れ騎士を倒していくのを待っている、というのはわかっているようね。その一方であなた達は後詰めを待つ……ただ、さすがに魔物が周囲を制圧する方が早いわ。そもそも、後詰めの部隊はいまだ本陣にいて、状況に気付いていない可能性は高いのでは?」
セリスは何も言わない……ミーシャあたりが何かしらの手段で情勢をつかんでいる可能性は高いのだが、部隊がこないというのは、そもそも本陣が奇襲されることを警戒しているのだろう。
決戦は終始帝国側が有利に戦いを進めたが、それでも組織の力は侮れない……石橋を叩いて渡るくらい慎重に、少しずつ進んできた。残る敵がエイテルと銀髪の男だけだとしても、何が起こるかわからない以上、全ての戦力をここに投じるわけにはいかない。
セリスは声を発さず、杖を構えいつでもエイテルと相対できるようにしている……そんな態度を見てエイテルはどこか呆れたように、
「真面目すぎるわねえ……戦い方もまっとうだし、奇策といったものもない……いえ、あるとしたら気配を断つそこの人、かしら。とはいえ、彼一人で情勢を覆すことができるのかしら?」
『――エルク、いつでもいけるぞ』
ジャノの言葉。俺は小さく頷くと――剣を握り直した。
「来るか」
銀髪の男が言う。するとエイテルはこちらを見て、
「なるほど、先に動くのはそちらの方か……彼を倒せなければ、セリスの援護もできないわ。果たして、勝てる?」
その疑問に対し、俺は行動することで応じた。銀髪の男へと駆ける。一瞬で間合いを詰め――相手もそれに応じるように魔力を高めた。
勝負は、あっという間に決まる……俺はそう確信を抱きながら、魔力を発揮。増幅したその力が、斬撃に乗って銀髪の男へ放たれた。




