最終決戦
エイテルの宣言と同時、彼女と銀髪の男を取り囲むように動いていた騎士達が一斉に武器を構え戦闘態勢に入る。セリスは杖を構えいつでも魔法を放てるよう準備を整えており、今まさに最終決戦が始まろうとしていた。
その中で俺は――
「ジャノ、俺は――」
『……あの銀髪の男』
俺が声を発する間にジャノは呟いた。
『何も語らずエイテルの傍に控えているが……内に眠る力の大きさは、かなり大きいぞ』
「あの男も既に人間を辞めているということか」
『おそらくエイテルを守護する役目があるのだろう……気配は薄いため、油断していると危機的状況に陥るかもしれん』
そうジャノは言ったが――さすがに騎士達も警戒はしており、少なくとも無策で突撃するようなことはなさそうだ
『もしエルクが出るとしたら、先にあの男を倒すべきだろう』
「……エイテルと比べれば力は持っていないが、それでも脅威になるってことか」
『うむ』
「わかった。なら、俺は――」
ジャノと話し合いを進める間に、セリスとエイテルは互いに一歩詰め寄る。いつ戦いが始まってもおかしくない状況だが――
「魔物のような姿にはならないのですね」
ふいにセリスが問う。それにエイテルは笑い、
「別に変わってもいいのだけれど……まあこの姿の方が戦い慣れているから」
「後ろの男性も同じですか?」
「彼? まあそうね……セリス、あなたの視線が私と彼を行き来しているのはわかっているわ」
エイテルはそう述べると、笑みが含みのあるものへと変わる。
「相当警戒している様子……ま、当然か。ここまで来てさすがに単なる人間だとは考えにくいでしょうし」
「この場にいる以上、何者であるか問うことはしません。どちらにせよ人を捨てているのなら、私達は倒すまでです」
「そう……私の方も準備は万端だけれど、気になることと言えば戦場を大いに混乱させた人間の存在かしら」
と、エイテルは一度周囲を見回した。
「どこかに組織の陣地へ押し入って、組織の構成員を倒して回った人間がいるでしょう? 周囲の騎士はどうやらそれが何者なのかわからない様子だけれど……あなたは間違いなく知っている」
俺のことだ。エイテルは最後まで、俺の存在を明確に気付くことはなかった。
「その人物もここにいるはず……気配を断っているみたいだけれど、顔を出す気はないのかしら?」
「……あなたでも、気付くことができないのですね」
セリスが言う。途端、エイテルの表情が変わる。
「どういう、意味かしら?」
「それだけ膨大な力を持っているのであれば、当然能力も上がっている……気配を察知する能力だって上がっていることでしょう。けれど、あなたは陣地内をかき回した存在を明瞭に捉えてはいない……力を得たことで気配を感知する能力は下がっている? あるいは」
と、セリスはどこか挑発的に告げる。
「力を得てもわからない以上……能力面であなたを上回っているのでしょうか」
「ずいぶんと安い挑発だけれど、乗るつもりはないわよ。ただ、そうね……邪魔をしてくれた存在であることは確かだから、もし姿を現したのであれば最優先で叩き潰すわ」
気配がさらに濃くなる……エイテルはセリスを見据え、さらに続ける。
「組織の構成員は正直用済みだったし、この戦いが勝利に終わっても処理するつもりでいた。その手間をなくしてくれたのはありがたいけれど、予想外の攻撃であったのも事実。遠慮なく私がこの手で処断してあげるわ」
「そうですか、よほど気に障ったようですね」
ピクリ、とエイテルは反応する……セリスとしてはあえて挑発しているように見えるが――
「あなたの言う通り、私は戦場をかき回した人物が誰なのか知っています……そしてこの事実を把握していなかったことこそ、あなた達組織が負けた原因です」
「可能な限り対策をした上で、ちゃんと切り札を用意していた……といったところかしら。思った以上に想定外のことがあったのは認めましょうか。しかし」
エイテルの気配がさらに……加え、彼女の後方にいる銀髪の男からも、凶悪な気配がこぼれ出す。
「どれだけ足掻こうとも、結末は変わらない。ここまで圧倒されるとは思っていなかったけれど、帝国が勝利するシナリオも描いていた。残念ながらきちんと想定しているの。そしてセリス、あなたの末路も」
セリスは何も答えない……俺は静かに呼吸を整える。勝負は――間違いなく一瞬だ。
「ジャノ、まずは――」
『うむ、銀髪の男を仕留めるぞ』
俺は足に力を入れる。姿を隠したままであるため全力ではないが……それでも距離が近いため、俺はエイテル達の下へあっという間に接近できる。
俺の存在をわからないなりに把握している以上、奇襲が来ることも想定しているはず。ならば、後はどれだけ俺の能力を活かして敵の予想外を引き出せるか……剣を握りしめる。そして、
「終わらせてあげる……ここで全てを」
エイテルが告げると同時、俺は地を蹴り最終決戦の戦場へ飛び込んだ。




