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南の魔物

 翌朝、昨日と同じように外へ出る旨を侍女へ告げ、屋敷の外へ。進路を南へ向け、昨日よりもスムーズに山の麓に到達した。


『動きもずいぶん良くなったな』

「さすがに昨日みたいな失敗はしないよ」


 何度か転びそうになったけど……ともあれ、問題なく山の中へ。南の山は北と同じく岩山で、薬草とかもないため人の出入りはほとんどない。

 ただ、一応山頂へ進むルートは存在する……砂利と石ばかりの道を進み、俺は目的の魔物へ近づいていく。


 しかし途中で、俺はあることに気付いた。


「……なあ、ジャノ」

『うむ、貴殿も気付いたか』


 ジャノも把握していた様子。そこで俺は確認のために、


「魔物以外に……何かいるよな」

『人間だな。しかも複数人』


 なおかつ、その人達は明らかに俺達が目指している魔物へと突き進んでいる。


「討伐隊、か?」

『その可能性が極めて高い』


 俺はジャノの返答に沈黙した。ただそれは、人間がいることがまずいと思っているわけではない。


「……普通、例え人がいない場所でも領内にいる魔物の討伐をするなら、連絡が入るはずなんだけど」


 魔物討伐には二種類ある。一つは傭兵達の仕事を斡旋するギルド――通称冒険者ギルドに所属する傭兵などが行うパターン。そしてもう一つが、騎士団など主体となって動く、国が主導的に動くケース。


 ただし前者、ギルド所属の人間が討伐を行う場合は、まず魔物討伐依頼を誰かが行う必要がある。領地内に魔物がいて退治して欲しい場合は、領主が依頼を行う。けれど俺はそんな依頼をしていないし、忠臣から依頼したという報告もない――というか、ジャノの力を得るまで魔物がいることすらわからなかったのだ。依頼できるはずもない。


 では騎士団が動いているのか、という話になるわけだが、その場合は事前に連絡が来るはずだ。魔物討伐を行う旨を領主に知らせる。例えば「森の中にいる魔物を討伐する」と連絡がくれば、領主はそこに人が近寄らないよう処置をする。

 それに勝手に領地に入り込んだら混乱を招く。いくら国が主導していると言っても、何の通告もなしに騎士団が動けば何事かと思う。よって、普通なら領主の俺へ連絡が来るはずだ。


 けれど、それもなかった……ということは――


『可能性は二つだな』


 俺が推測する前にジャノが声を上げた。


『一つは単純に魔物が移動してきた。我らが活動する前の時点で隣の領地にいたが、討伐準備をする間にルディン領に入り込んできてしまった』

「それなら連絡がないのもわかるけど……」

『昨日と魔物の位置が異なっているので、おそらくそういう可能性が高そうではあるな』

「……ちなみに二つ目は?」

『密かに活動している……つまり、秘密裏に魔物討伐を行っている』


 魔物の凶悪さを考えれば、下手に領主へ知らせれば混乱を招くかもしれない。そういう可能性もゼロではない、か。

 けれど、もしそういう理由であったとしたら、討伐を行う人間は精鋭だろう。だとするなら、魔物へ向かっている人の中に――


『セリス皇女がいる可能性もありそうだ』

「……セリスとは月一の頻度で会っているけど、さすがに魔力の質までは判別できない。本当にいるかどうかは、肉眼で確認しない限りわからないな」


 人の気配はどんどん魔物へと進んでいく。俺はそれを追いつつ、ジャノへ一つ問い掛ける。


「確認だが、距離を開けていれば俺が気付かれることはないか?」

『魔力を閉じる方法を解説しておくか。ちなみに閉じていても最低限の防御能力は維持できるから、心配はいらない』


 俺は道中でジャノから指導を受ける。そして目標の魔物に近い場所まで到達した段階で、どうにか魔力を閉じることができるようになった。


『これで気付かれる可能性は低くなったはずだ……さて、いよいよだな』


 その時、魔物の咆哮が響いた。空気を震わせる声量であり、それが人間が近づいたことによる威嚇だと俺は確信する。

 そして――俺は岩場の陰に隠れながら、魔物と討伐部隊を目にした。討伐隊は俺に背を向ける形で武器を構え、剣を持つ者達が既に戦闘態勢に入っている。


 一方で、魔物は……体長は俺が倒した獅子と変わらないが、その姿は白銀の虎。ただ、瞳の色が昨日倒した獅子と同様に赤く、人間達を見据えるその視線はあまりに不気味で、射抜かれただけで失神しそうなほどの圧力を感じる。

 それに対峙する人達は……俺は、その中の一人に注目した。もしかしたら、と思っていたが――


「……セリス」


 後ろ姿ではあったが、わからないはずがない。数日前に来訪したその姿で、杖を構える彼女がそこにいた。


「――来るぞ!」


 そして前衛にいる男性が叫んだ。その人物は長い金髪を持っており、神々しささえ感じられる金色の刀身を持つ剣と、白銀の鎧を着ている。俺はその姿について――前世の記憶を頼りに誰であるかを思い出す。あの人物は、漫画にも出てきた勇者だ。


『勇者だな』


 ジャノもまた声をこぼす。俺は頷きつつ勇者の周囲にいる人物を目に留める。一人は斧を構え赤い全身鎧を着た男性。その装備でよくぞこんな山の中までやってきたと思うほどに重装備だ。

 加え、三人が同じ白を基調とした鎧を着ている……シンプルなデザインのそれは帝国において騎士に支給される装備。名前などはわからないが、セリスや勇者と共に戦う以上、騎士の中でも精鋭クラスの技量を持つ人達で間違いない。


 加え、後衛にセリスが控え、彼女と共に複数人黒いローブ姿の女性がいる。彼女達は全員が魔法を操る存在――魔術師だろう。

 そこまで確認した時、魔物が動いた。見た目は違うが、俺が戦った魔物のように、セリス達へ突撃を仕掛けた。


 その勢いは凄まじく、前衛の勇者達だけでなく、後方にいるセリス達さえも飲み込もうというくらいだった。助けに入った方がいいのか――と一瞬迷ったが、俺が動くより先にセリスが反応した。

 ヒュン、と杖を軽く振ると襲い掛かる魔物の真正面に光の壁が生まれた。半透明で魔物の姿自体は確認できるそれは、結界魔法の類いであることは推測でき、前衛の勇者達を守るために生み出した。


 だが、魔物の突撃を防げるのか――壁に魔物が激突した。ズウン、と一つ大きな音を上げたが、光の壁はビクともしなかった。

 魔物の攻撃を防ぎきった――その直後壁が消え、前衛の勇者達が反撃を行った。


「仕留めろ!」


 勇者が叫びながら魔物へ接近する。さらに戦士や騎士もそれに追随し、先んじて勇者の刃が魔物へと届く――

 だが、この攻防は魔物の方が一枚上手だった。光の壁と激突したことによって怯んだ魔物だが、すぐさま立て直し大きく飛び退いた。その俊敏さは勇者達が追随できないほどであり、魔物が持つ身体能力の高さが窺える。


 あっという間に後退した魔物は、うなり声を上げながら勇者達をにらむ。一方で勇者達もその動きに警戒してか、仕掛けようとはしなかった。


「……思った以上に、厄介だな」


 勇者の声が聞こえた。次いで彼はセリスへ一度振り返り、


「魔物の動きを拘束することはできるか?」

「……難しいかもしれませんが、やってみます」


 頷くセリス。それに対し勇者は「頼む」と短く告げ、魔力を高めた。


 それと共にセリスもまた魔力を集め、杖へと収束する……そういえば、今まで俺はセリスの戦いぶりを見たことがなかった。それでいて、漫画の知識はある。今から見せるのだが、そういった魔法なのかどうか……俺は固唾を飲んで見守る。その間に魔物は再び突撃するべく前傾姿勢となり……次の瞬間、先んじて動いたのは――セリスだった。


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