組織の弱点
気配を極限まで消す魔法を使用したことにより、魔物や魔人に気付かれることなく俺は組織側の陣地へ入ることができた。この時点で既に剣を握りしめ、俺は臨戦態勢に入る。
陣地内は多数の天幕が存在し、その中や外に人間がいる……その顔つきはどこか生気がなく、中には虚ろな目をしている者もいる。
そんな顔で動き回っているのだが……非常に不気味である。
『本陣以外の人員は全て傀儡としているようだな』
そうジャノは告げる。
『その方が組織にとって都合が良いという話なのだろう。まあ、帝国の騎士が間近に迫ったら逃げる可能性があるからな。それを防ぐためのものでもあるのだろう』
「幹部クラス以外の人間は、全て捨て駒というわけか」
俺はそう呟きつつ、目を凝らす。魔人の気配は確かにある……俺でも理解できる。
「間違えずに倒すことはできそうだな……ジャノ、魔人になる前に仕留めたら、それで終わるってことでいいんだよな?」
『それは間違いないだろう』
「わかった……帝国と組織は双方まだにらみ合いが続いている。ここで動くぞ」
『ああ……組織の策略を潰すぞ』
俺は周囲を見回し魔人のいる位置を確認。陣地内の状況を把握し、どう動くかを頭の中で確認する。
呼吸を整え、俺は静かに魔力を剣に込める……そして、
「ジャノ、組織本陣の調査を頼む」
『ああ、任せろ』
作戦開始。俺は手近にいた魔人の気配を持つ人間を――斬った。
刹那、相手は呻き声を上げながらゆっくりと倒れ伏す。その間に体は塵へと変じていく。
その間に俺は別の人間へ斬撃を決め二体目を撃破する。続けざまに三体目を倒し、その時点で組織は誰かが奇襲を仕掛けた――それを認識したらしい。
俺はまだ気配を消す魔法を継続しており、果たして組織側は俺のことが見えているのかどうか……そして、俺が動いたことは帝国側にも伝わったはず。
直後、後方で雄叫びが聞こえた――組織側がどうやら動き出した。次いで魔力が生じ、帝国側も応戦を開始する。
戦いが始まった……俺はそれに構わずさらに魔人を斬っていく。するとここで陣地内にいる魔人も反応を始め、その体が変化を始める。
しかし、俺は即座に機先を制するように変化していく魔人を斬った。どうやら組織は魔法によって魔人に変化するよう命令をしているみたいだが、それは一体一体指示を出しているため、魔人は同時に変化はしていない。
よって俺は魔人になろうとしている敵目がけて剣を振るう。組織側が命令を出すよりも、俺が倒すペースの方が早いらしく、陣地内で交戦するよりも前に数を減らしていく。
さて、組織側としては想定外の動きだろう……後詰めに用意していた魔人から倒されている状況。前線にいる魔人だけで帝国を倒すことができれば良いと考えるだろうが……ここで、後方の魔力が一際強くなった。
一瞬だけ振り返ると、結界が構成され、さらに大地の力を利用した魔法によって魔人が数体まとめて吹き飛ばされていた。
加えてセリスの魔法によって別の魔人も消えていく……どうやら帝国が用意していた戦術が、上手くはまっているらしい。
『……組織本陣を探ると共に、帝国側についても調べているが』
と、俺がなおも魔人を斬る間にジャノが発言した。
『帝国側の防衛網を魔人が突破できていない』
「それは……大地の力を利用しているため?」
『どうやら最初の交戦については、帝国側もある程度加減していたらしい。組織側はそれを本気と見ていたため、半数の魔人でもある程度被害を与えることができると踏んだが』
「その目論見は外れた、と」
『……今、エルクが魔人を倒しているように、組織はこの奇襲と帝国の構成に対して後手に回っている。ここから考えるに、組織側には予定外のことが起きた際の緊急対応ができないのかもしれん』
「できないって……どういうことだ?」
『戦略は立てられているが、指揮を上手く執れない……エイテルを含め、魔物討伐の経験はあるだろうが、人間同士の戦いについては経験が少ないのかもしれん』
「なるほど、な……経験の少なさが今の状況に繋がっているのなら、俺が陣地内で暴れればそれだけ向こうはさらに混乱するだろうな」
『うむ、ならばもっと派手に動く……とはいえまずは、魔人を倒してからだな』
そこで、魔人にならない人間が魔物を生み出し始めた。陣地内で魔物を生成すれば、無茶苦茶になるだろうが……それにも構わず、大暴れしている俺を倒すことを優先するということだろう。
周囲では魔物が生じ、いよいよ攻撃を開始するのだが……気配を消している俺を見つけることができず、魔物は無差別に周囲にいる人間を襲い始めた。一体どういう命令をしているのか……ジャノの言う通り、奇襲によって組織本陣は混乱しているのかもしれない。
ここに来て、組織側の明確な弱点が判明した……が、組織はいずれ立て直すだろう。それより前に、魔人を片付ける……そう思いながら、俺は混沌とする陣地の中で剣を振るい続けた。




