帝国の力
極論、俺の出番がなく帝国が用意した戦術で勝てるというのなら、それで問題はない。セリスだってその方が良いと考えているに違いない。
俺のことを考慮に入れないというのは、組織側に俺の存在をバレないようにするという理由もあるだろうけど、彼女としては俺が戦わないようにしたい……これは帝国自身が戦うものだという認識もあるためだろう。
けれどどうやら組織側の戦力はまだまだあり、おそらく可能な限り準備をした帝国側の戦力では勝つのが難しい……組織は帝国の準備についてどの程度分析できていたのかは不明だが、覆せないだけの準備を済ませていた、という話なのだろう。
よって、組織に露見していない俺の存在がより重要性を増した……動き出せば組織は相応の対処をしてくる。よってどう立ち回るかは、バレていない今決めなければならない。
『……情報収集は完了した』
やがてジャノが告げる。現段階でも最前線にいる魔人は動かず、帝国側も戦闘態勢を維持しつつ、いつ来ても戦えるよう準備を進めている。
『まだ組織側には魔人と思しき存在が複数いる……具体的な人数まではわからないが、最前線にいるのは半数程度か』
「残り半分はまだ後陣に控えている……か。例えセリス達が最前線にいる魔神達を倒せたとしても、残る半分で押し込もうとしているってことか」
『それに加え、組織側の本陣にいる部隊……というより、エイテルを含めた幹部クラスの者達か。そうした存在が動くことによってトドメを刺す……三段構えといったところか』
「他に敵がいる可能性はあるか?」
『現時点で観測できる範囲にはいない……が、さらに二重三重と策を持っているのであれば、わからない』
……正直、どれだけ調べても絶対はない。組織が持っているのは世界を滅ぼす力。しかもそれを研究していた以上、気配を隠蔽するような技術だって、開発していてもおかしくはない。
とはいえ、こちらも――考える間にジャノが話し続ける。
『エルク、気配を消す魔法を使用し、敵の陣地まで侵入。魔人を倒していこう』
「そうだな、後詰めが倒せば帝国の負担が軽くなるのは事実だ……けど、最前線にいる魔人達は……」
『帝国側がどれだけ戦えるかが勝負だな。理想としては魔人達を迎撃できれば望ましいが、エルクが動いている間、耐えてもらえれば……』
「……どちらにせよ、ある程度は戦ってもらう必要がある、か」
『帝国側がどれだけの想定をしていたのかわからないが、魔人が一体や二体いても対処できたことを踏まえれば、多少なりとも戦えるとは思うぞ』
今は帝国の力を信じるしかないか……。
「ジャノ、組織の陣地にいる魔人達を倒した後はどうする?」
『帝国側の戦況がどうなっているかで立ち回り方を変えるべきだな。危機的状況であればそのまま援護に入る。耐えている、もしくは勝っている状況ならば、そのまま陣地内を荒らし続ける』
「さすがに本陣に攻め込みはしないか」
『いくらなんでも危険すぎるな。少なくとも本陣にいる戦力がどの程度なのかを、しっかり見定めてからではないと』
そこまで語った後、ジャノは少し沈黙した後、
『だが、陣地内に侵入した時点で本陣側についても多少なら調べられるだろう……エルクが戦っている間に調べることができたなら、それを踏まえて動くことも選択肢に入れていいだろう』
「……戦いながら調査、か。ジャノ、新たに得た技術を活用するためにジャノの力を借りる必要があるけど、調べながら可能か?」
『そこは問題ない』
「わかった、なら陣地へ侵入しよう」
俺はセリス達を確認。まだ魔人達は動いておらず、双方が動きを止めている。
この膠着状態がいつまで続くかわからないが……俺が組織側の陣地に侵入して暴れ始めれば、確実に戦闘が始まるだろう。後はどれだけ短時間で魔人を倒すことができるのか。
「ジャノ、魔人との戦闘について、新たに得た技術を活用して一気に倒すべきか?」
『いや、あれは魔力を一気に放出しながら強化する手法であるため、長期戦には向かない。それなりの時間戦えるようにしてあるが、さすがに最初から使うのは得策ではないだろう』
「ならまずは、気配を消しつつ通常の状態で戦うと」
『とはいえ、今のエルクならば苦戦はしないだろう』
ジャノは言う……それはつまり、鍛錬を続けた今の俺はラドル公爵と戦った時よりも強くなっている、と言いたいわけか。
「気配を断つ魔法については発動後、我が制御する。エルクは思う存分やってくれ」
「……わかった。なら、気合いを入れて戦うよ」
俺はまず魔法を使用。それにより限りなく存在を消す……これを用いながら戦えば、本陣にいるエイテル達にどういった存在なのか悟らせないまま戦うことができるはず。
とはいえ陣地内で魔人が減れば前線は動き出す……そこからは状況に合わせて動く。そして俺は組織の陣地へ向け動き出した。




