組織の検証
俺はジャノの提案に従うことを決断し、岩陰から飛び出すタイミングを窺う。魔人達は最前線に到着しつつも、向かい合うセリス達と対峙した状態でにらみ合いを続けている。
組織側としては帝国にプレッシャーを与え、さらなる攻撃手段を探ろうとしているようだ……その間にジャノはさらに状況を探る。組織側の陣営において、他に動きがないかを再確認する。
もしセリス達の戦いが始まれば、最悪俺が介入するのも手だが……魔人を倒すことができるにしても、それでは最前線の状況を有利にできるだけだ。組織の狙いなどを暴くことはできず、さらに俺という存在を認知されてしまうことにより、後は正面突破しか手段がなくなる。それは厳しい戦いになるだろう。
『……推測だが』
と、ふいにジャノが発言した。
『エルクの存在を認識していないながら、組織は帝国に切り札が残されているのでは……そのように考えているのかもしれん』
「現状はその確認をしている、ということか?」
『組織側は決戦までに自分達が保有する世界を滅ぼす力……それを帝国側も保有し、それによって拠点が潰されたことはわかっている。では誰がその力を持っているのかを徹底的に検証した、ということなのだろう』
「その結果、複数人力を持つ者がいる……と判断した?」
『セリス皇女やミーシャ王女が拠点を潰したのはわかっている。それがどのような力なのかは組織もわかっていなかったはずだが、決戦までに皇女についてはエイテルが調べ、力を持っていないことは確認したはず。であれば消去法でミーシャ王女が力を持っている……リーガスト王国側で組織の摘発が進んだ事実を踏まえると、その可能性が高いと判断したに違いない』
そうジャノは断言する。
『リーガスト王国側で組織の人員が捕まった……拠点から情報を得たことで動いたわけだが、反撃だって多少は行っただろう。しかし、逃げた者もほとんどいない……ミーシャ王女が力を持ち、それを利用し速やかに組織の人員を捕まえた、と考えれば納得がいく』
「それに加え、決戦における情報収集……本来力を持っていないはずの騎士やセリスが力を利用し魔物を倒し、魔人すら撃破した」
『その事実から、王女が持つ力は他者に付与できると組織は結論づけ……決戦前までに推測していた内容を、この戦いで補強した形だな』
ジャノがさらに解説すると、俺は一つ納得したように頷き、
「つまりエイテルを含め組織の人間は、まだまだミーシャに力を与えられた人間がいる、と考えているのか」
『うむ、組織はまず帝国側の戦力を完全に暴こうとしている……そこは確かだな』
「この状況で俺が出た場合は……」
『王女が力を与えた人間か、それとも別の力か……検証を余儀なくされるな。とはいえ、本来力を持たない皇女の婚約者がこんな所まで出張ってきたのだ。組織側としてもこれ以上何かを隠している可能性は低い、などと判断してもおかしくはない』
「実質、俺が出た時点で組織は総攻撃を開始すると」
『そうだな』
……にらみ合いはまだ続いている。セリス達の手の内を可能な限り明かそうとしている組織側の行動。なんというか、かなり慎重ではある。
組織としても後がない状況であるため、石橋を叩いて渡るくらいの気持ちなのかもしれない……俺は帝国、組織双方の状況を考察する。襲い掛かる魔人に対しても帝国は対応した。反面、着実に手の内を明かしており、一方で組織側の本陣は動きがなく、ただ禍々しい気配を発しているだけ。
情報戦では組織側が上回っている。そして帝国側が用意したものを全て暴いたと判断すれば、いよいよ組織は帝国を倒すため蹂躙を始める。
組織側本陣には、その戦力が揃っている……ということか。
『エルク、確認だが』
作業をしているジャノが俺へ問い掛ける。
『決戦におけるエルクは、自由に動くということでいいんだな?』
「ああ、皇族を含め帝国側は俺が参戦することをそもそも考慮に入れていない」
――ルディン領で修行をしている間に手紙で色々と確認をしたのだが、最終的に俺は独断で動くということに決定した。理由は二つある。一つは俺のことを知る人間が少数であり、騎士達へ説明ができない点。
決戦へ向けて組織と関わりがない人物達を動員するのは間違いないが、俺のことを話すと情報が漏れる危険性がゼロではない……徹底的に俺のことは秘匿し決戦を迎えると皇族は判断し、俺のことを知る人はいまだ極一部。これでは当然作戦に組み込むのは難しい。
もう一つの理由は、作戦に組み込むと俺の存在を認知していなくても敵に動きを読まれ何かが来ると予測されるという懸念。セリスは達人なのでさすがに挙動から狙いが読まれるとは考えにくいが、相手がどういった能力を持っているのかわからない以上、俺のことを秘匿するためにはそもそも考慮に入れない方がいいという結論。
つまり、理由としては俺のことを隠し通すため……それは逆に言えば俺の立ち回りが非常に重要であることを意味していた。




