魔人集結
戦場は新たな局面を迎え、俺もそれに対抗するべく動き出す。組織側では新たな魔人が動き出そうと集結を始めており、
『かなりの人数いるな』
ジャノが俺へ向けそう告げた。
『魔術師達の魔法で一人、セリス皇女が二人倒したわけだが、そこから人数を増やして今度こそ殲滅する……十数人は少なくともいるな』
「これで全部だろうか?」
『わからん。しかしこれだけ戦力を注ぐのであれば、さすがに威力偵察というわけではないだろう』
ジャノの言葉に俺は「そうだな」と同意しつつ、
「けれどエイテルはまだ出てこない……攻撃を仕掛ける魔人を全部倒しても、まだ組織側には戦力を温存している、ということなのか?」
『そういった可能性はある……が、さすがに魔人を殲滅できれば組織側も余力がなくなるのは間違いないだろう……とはいえ』
ここでジャノは懸念を示す。
『最悪、これだけ戦力を傾けても打開できると考えているのか……』
「エイテル他、幹部クラスの人間が動けば勝てると考えているとか?」
『あるいは魔人によって帝国側に大きな被害を出した後、追い打ちとしてエイテル達が動く、という戦術か。これなら魔人が負けても打開できる』
その可能性が高そうだ……ならば俺達がやるべき事は――
「魔人との交戦に対し、帝国側に犠牲が出なければ組織側の思惑から外れる、と考えてよさそうだな」
『うむ……エルク、ギリギリまで近づいて魔人のいる場所を探るぞ』
「何か調べるのか?」
『他に変化していない魔人がいるか調べることにする……先ほどまでの場所では距離があったためできなかったが、距離は近ければ探れる可能性はある』
「わかった、なら可能な限り近づこう」
俺はジャノの言葉に返答しつつ、気配を殺しながら戦場へと近づいていく。その間にも魔神達は最前線へと近づいていく。
その動作はゆっくりなのだが、おそらくこれはセリスや魔術師達の動きを警戒しているためだろう。組織が帝国側の情報を得たのは間違いないが、帝国側の戦術が全て出てきたとは限らない。
もっと他に、魔人に対抗できるだけの手段があるのではないか……とはいえ罠などを警戒しつつも、個人個人の圧倒的な戦力で押し切ろうとしている。使うのは貴重な戦力ではあるが、おそらくこの決戦ならば捨て駒にしても構わない……そうエイテルは考えていそうだ。
その中で俺はどうすべきか……思考しつつ戦場に近い岩陰に俺は隠れる。
「ジャノ、この距離だとどうだ?」
『うむ、調べることができそうだ。少し待っていてくれ』
「わかった」
ジャノの声に応じつつ、俺はじっと戦場を見やる。魔人はとうとう前線に到達し、それに対抗するようにセリスや騎士、魔術師達が布陣する。
ゆっくりとした動き騎士達は動じることなく武器を構え臨戦態勢に入っている……と、ここで魔人達が立ち止まる。距離を置いて、セリス達の動向を観察する様子だ。
「……魔人達は、エイテルが指揮しているのだろうか?」
『不明だが、帝国側の戦い方や戦力を見定め、観察している……エイテル自身に指揮能力があるのかわからない以上、判断はつかないな』
「指揮官は別……か?」
『かもしれん』
俺は組織側の本陣を見る。まだ動きはないが、幹部クラスが何人もいるのは確実だろう。
禍々しい魔力も相変わらずだが、そうした魔力の中に魔人を操っている人間がいても不思議ではない。本当なら組織側本陣に奇襲でも掛ければ、被害を出すこともないと思うのだが……さすがにリスクが高い。
『うむ、おおよそわかった』
考えていると、ジャノがふいに声を上げた。
『組織側の本陣付近に似たような魔人の気配がある。だがその一方で現在最前線にいる魔人達がいた場所には、同様の気配は感じられない』
「今出現した魔人で打ち止め……いや、最前線へ送ることができる魔人は今いるだけ、ということか」
『そのように我は推測する』
……ならば、俺はどうするか。戦場の最前線はにらみ合いをしつつ動きを止めている。何かをきっかけに、戦いが始まる……その前に、俺もまた動き出さなければならない。
「ジャノ、俺は――」
『少なくとも組織側に後詰めの部隊はいない。ならば皇女と合流し戦うか、それとも単独で組織側へ近づいて暴れるか」
「……セリスと合流した方がいいか」
その方が被害が出ることを防げるし……俺はセリスのいる場所へ足を向けようとしたが、
『エルク、一つ提案が』
「どうした?」
『危険ではあるが、敵の狙いを引き出すための手段がある』
「本当か?」
『ただし策を実行している間は、最前線にいる魔人達の相手を皇女達がやってもらうことになる』
「……リスクが大きくはないか?」
『最終的な判断はエルクが決めればいい……ただここまでの戦いぶりから、皇女達もある程度耐えることができるだろうと我は思うが』
「耐えてもらっている間に俺達が動くということか……具体的には何をする?」
俺の問い掛けに――ジャノは答えた。
『我々で戦場をかき乱すことができれば……敵も相応に動く必要に迫られる。そこでようやく、組織側の本腰だって見れるかもしれない――』




