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やるべき事

 ジャノの話を聞き、俺は驚くと共に……漫画の中には一切なかった事実であったため、思わず叫んだ。


「待てって……そんなの聞いたこともないぞ!?」

『転生前の漫画内では、という話だろう?』

「そうだけど……急に設定を生やすなよ……」

『生やす、と言われても事実である以上受け入れるしかあるまい。それに、貴殿が読んでいた漫画はあくまで英雄となる冒険者を主人公とした物語だろう? 邪神が世界を滅ぼすべく動く様子を事細かに描写したわけではないだろう?』


 言われ、俺はさすがに沈黙した。


『我と同質の力を用いて魔物が生まれているのであれば、おそらく公爵と繋がりのある存在が、研究などを目的に魔物を作り出していたのだろう』

「……つまり、邪神の力を用いて色々やっていた組織があって、公爵はその一員だったと?」

『そうだ。そして公爵は貴殿を操った場合、我と同質の力を持つ魔物を倒して回り、世界を滅ぼす力を得た』

「公爵は俺を意のままに操れるようになって、組織に反逆し力を奪い取った?」

『そういった可能性が高そうだ』


 ……はた迷惑な組織もあったものだ。


『しかしこれで当面の目標が明瞭となったな』

「もしかして、他にもいるのか?」

『うむ。距離はあるが今でもどの方角に同質の力を持った魔物がいるのかわかるぞ』

「残り何体だ?」


 五十体いるとかだと、さすがに気が遠くなるんだけど……。


『貴殿の屋敷から南の山に一体、西の山に一体だな。南の魔物は少しずつ移動しているが、西の個体にはそれがない』

「南はまあいいとして、西は厄介だな。国境に面した場所とかだと、国際問題に発展する可能性もある」

『詳細な位置はさすがに近づかなければわからないため、ひとまず当該の場所へ向かうしかないな』


 ……やることが増えた。しかし領内の秩序が脅かされている以上、やることは一つだ。


「ジャノ、魔物を全て討伐する。手を貸してくれ」

『無論だ。おそらく同質の力を持つ魔物を倒せば倒すほど、貴殿はさらに強くなれる……戦いやすくなるな』

「いや、世界を滅ぼす力を得るんだろ? 怖いんだけど……」

『力は使いようだからな。それで世界を救えばいい』


 というか、別に世界の危機とかそういう状況じゃないんだけど……まあ、放置していたらとんでもないことが起こる、かな?


「わかったよ。たださすがに今日は無理だ。明日、今日と同じように外へ出ると屋敷の人には伝えて、同じ時間に動こう……魔物が動いたのなら、都度どうするかは相談ということで」

『わかった』


 ――ちなみに現時点でまだ昼前。このまま急ぎ足で帰れば昼食には余裕で間に合う。

 帰ったら何をしようか……訓練、といってもさすがにこんな無茶な力を屋敷内で扱うのは危険だし、とりあえず明日までおとなしくするしかないか。


「それじゃあ帰ろう」


 言って、俺は元来た道を戻る――そして、下り坂で移動を始めた結果、危うくバランスを崩して転げ落ちそうになりつつ、どうにか屋敷へと戻ったのだった。






 ――夜、俺は眠る準備を済ませ後はベッドに入るだけの状況、となって窓の外へ近寄りつつ、ジャノへ話し掛けた。


「……なあ、一ついいか?」

『ん? どうした?』


 屋敷へ戻ってから声一つしなかったので、たぶん今の今まで眠っていたのだろう……なんというか、声も気持ち寝起きのように思える。


「現在、観測できている魔物を全て倒したら、俺は『クリムゾン・レジェンド』において降臨した邪神と肩を並べることができると思うか?」

『正直、その辺りはわからん。今日、貴殿は大きな力を得たと思っただろう。それをさらに二度繰り返し……微妙なところではあるな』

「ということは、もしかして他にもいるってことか」

『可能性は十分ある』


 ……知らない内に、領地に危機が迫っていたということだろうか。


『漫画では公爵が動き、魔物を取り込んだ……という解釈でいいとしたら、情報がいるよな』

『力を好き放題している者達の、か』

「ああ……ただ、俺一人では無理だ。公爵と手を組んでいるような組織……しかも裏組織だろうし、俺だけではどうにもならない」

『情報源が必要ということだな……しかし、当てはあるのか?』


 ……漫画の知識も当てにならない。漫画の主人公は別に裏組織みたいな所と関わりがあったわけじゃないからな。

 だとすると国に頼るほかないが、その場合は当然ながら俺が力を手にした理由を語る必要がある。当然、皇帝陛下の弟が関わっている以上、非常に面倒な話になる。


「……まずは、自分にできることをする。目先の魔物を倒して、そこから先は倒した後で考えよう」

『消極的だな』

「残る魔物は二体だろ? なら、そいつらを倒した時点で敵側が何かアクションを起こす可能性もあるし」

『うむ、確かにそうだな。では明日は二体目の魔物を倒す……南と西、どちらへ向かう?』

「俺は何も感じ取れないんだが……両方とも動いていないのか?」

『夜に入っても南の魔物は少しずつ動いている。西側が一切動きがないな』

「なら南だ。明日は南へ向かう」


 決断と共に、寝ようと俺はベッドに入ろうとする。

 しかしその寸前、


『先ほど、情報源についてどうしようもないと語っていたが……貴殿は事情を話せないため誰かに頼ることも難しい、と考えているようだな?』

「ああ」

『それはセリス皇女のことも入っているのだな?』


 確認するような問い掛けに、俺は小さく頷いた。


「昨日も話し合ったけど、力の制御が先だよ……セリスにちゃんと説明できる状況になって初めて、話を通せる」

『そうか。では残る二体の魔物を倒し、力を得た段階で改めて制御の訓練を行うとするか。世界を滅ぼす力であるが故に、場合によっては山の形が変わったりするかもしれないが、構わないか』

「いいわけないだろ……穏当なやり方を考えておいてくれ……」


 ため息をつきつつ俺は言う……なんというか、性格が漫画とだいぶ違うな。


「なあ、ジャノって漫画と比べ性格的にずいぶんと軽くないか?」

『貴殿の記憶が影響しているな』

「俺の……? というか、前世の記憶か?」

『うむ、そうだ。貴殿も前世の記憶により色々と変化しているのだ。我も変化があってしかるべきだろう』

「……俺、変わっているのか?」

『我は貴殿の記憶を持っているためそう判断できる。とはいえ、他者が気付くようなレベルではないから屋敷の者と接していても問題にはならないだろう』


 ならいいけど……。


「最大の懸念は、今の状態でセリスに会うことか。魔力面で何かが起こっていると悟られる危険性が高い……とりあえず制御をきちんとできるまでは隠し通したいな」

『次にここへ来るのは一ヶ月後……いや、他ならぬ皇女がもっと早く来ることができると語っていたな』

「ああ、一ヶ月以内……魔物を片付け、きちんと力を制御できるようにする。可能な限り急いだ方がよさそうだ」


 とにかく、まずは明日の魔物討伐から……俺はそこでようやくベッドに入る。

 さすがに疲労が溜まっていたか、横になったらすぐ睡魔がやってきた。明日、不安もあるけど……色々と考えながら、俺は眠りに就いたのだった。


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