第4話
「……つまり、頭の真上に満月が来るのは、ちょうど真夜中。今の時間ならば、まだ真上までは届かず、東の方の空にあるはずなのです」
「あっ……!」
一声叫んで、私は絶句してしまう。
なるほど、男の言う通りだ、と気づいたのだ。
小学生、いや中学生の頃だろうか。とにかく子供時代に学校で、理科の時間に習った内容ではないか。月の満ち欠けの原理を思い出せば、満月が空の中央に位置するのは真夜中。それは当然の話だった。
私が硬直している間に、男は右手を横に伸ばして、空の低い辺りを指差していた。
ゆっくりとそちらに顔を向ければ、丸く明るい月が視界に入る。本物の満月は確かに、まだ頭上というよりもむしろ地上に近い高さで、東の空に浮かんでいるのだった。
「こちらが本物の満月……」
言葉を取り戻して呟くと、
「そうです。本物の満月と、もうひとつの満月。二つの満月を楽しめるなんて、ちょっと得した気分になりませんか? 私たち同族だけの特権ですよ。フフフ……」
男は私に、仲間意識を向けてきたらしい。
改めて私が男の方に向き直れば、彼は満足そうに、ニンマリと笑っていた。それまでよりも唇の端を大きく吊り上げた笑い方であり、口の隙間からは白い歯も覗いていたが……。
男の犬歯は、ちょうど文字通り、まるで犬や狼の牙みたいに鋭く尖っている。私は得体の知れない恐怖を覚えて、ブルッと体を震わせるほどだった。