師を慕う心
‘強引さ’でしょうか?百歩ゆずってもしそうだとしても、ではその強引さを呼んだものはなんですか。それは亜希子さんの師を慕う心ではないでしょうか」「師って誰よ。西行法師のこと?」「はい、だと思います。その慕う心には尋常ならざるものがあると、そう、私は拝見しました」と云っては僧はやさしげに亜希子に視線を送る。その様子を忌々しげに確認してから梅子は「ふん、なにかあなたが西行法師のような気がして来たわね。拝見するに、結構な、お美しい師弟の間柄じゃないのさ」と云うのに「梅子、言葉が過ぎる!」亜希子がひとこと釘をさす。「いやいや、とんでもない。千年前の西行がなぜここにいますか。わたしはただの乞食坊主で、はばかりながらわたしも西行を師と慕う身なのです。それは始めに申しました。お間違えになってはいけませんが、しかしそう云うあなたには失礼ながら師というものがいないように見受けられる。拝見するに、自分自身が自分の師なのではないですか?換言すれば自分が一番大事、自分以外は信じられないとなるが」「そんな感じでんな」とこんどは鳥羽がひとこと云い「そんな感じですう、いつも」と郁子が同意する。カッとばかり梅子が云い返す前にすばやく「ま、もっとも、これは梅子さんに限らず昨今のトレンドですから気になさることはありません、梅子さん」と僧が制してしまう。
ここに来て近づきつつあった雷雲と雷鳴がどこかに雲散霧消してしまい、雲間から心地よい日差しがもどって来た。それに合わせるかのように遠近の木々の間からウグイスのさえずりが聞こえて来る。




