ここぞ白峰
はからずも当たったようで。ははは」と軽くかわして「本音と建前、日本人の悪癖、そもそもそれを理解すらもしていない、むしろそれを使い分けるのが当たりまえ、としているような我々ですか…つくづく、慧眼の至りですな」と云うのに『そうよ。でも褒めてくれなくてもいいわよ。それより私がなぜそんなことを云ったか、それがわかるのかさ』と心中で問う梅子。しかしその心中の問いには答えずに「むべ祟り神とは人の云うものかな。人の無明のかく我を死なせしものを、いかでその無明明かさでおくものか。あーなかしこ、説、か、さ、せ、たまええ…ですな」と見栄を切って云うのに「ちぇ、東尋さんさ、なんでここでそんな歌舞伎みたいな調子になるのよ。古語、文語をのたまうのよ。私はさあ、文語が苦手でさあ…」と文句を云おうとする恵美を「しっ、黙って」と制し、こちらはなぜか思いっ切り僧の話に引き込まれる様子の梅子。強くうなずいて、次に「よし、ならば話をうけたまわろう」とでもするかのように、こちらも見栄を切るがごとく鷹揚にあごを上げては腕を組み、話の続きを要求する風を示す。だいぶ時代がかってきた…。
ところが僧は梅子ではなくまず郁子に「郁子さんとやら、云わずもがなで覚えているだろうが、今の、この梅子さんの云ったことを覚えておきなさい。今のあなたでは戸惑うばかりだろうけれど、いつか必ず心に沁みる時が来ます」と云いさし、さてここぞ白峰とばかり「いや、梅子さん、人には過去世というものがあります。




