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クワンティエンの夢  作者: 多谷昇太
吉野の桜
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狂歌の名人?恵美

ここで恵美が慶子らへの反発代わりにみずからの歌才を披露した。「これじゃあさあ、源実朝の〝音に聞く吉野の桜咲きにけり山のふもとにかかる白雪〟じゃなくって、〝音に聞く吉野の桜冬枯れて山にかかるはホントの白雪〟じゃないのさあ」と歌を詠み「な、加代?」と妹分の加代に賛美を求める。「うめえ、恵美」とその加代。お人好し風の郁子も「うまいですう。狂歌の名人」とほめたのか皮肉ったのかとにかく一言。しかし各々に云わすだけ云わしておいてからリーダーの亜希子が断を下した。

「慶子の云う通りよ。私たち白河女子大歌道部は和歌の研修に来たのよ。人混みじゃあ歌境も湧かないでしょ?私たちの聖地、西行庵まで行って、そこで歌合わせするんだからね。みんな歌を考えといてよ」。そう云ってはみたものの内心では梅子ら一党の云うとおりと思わぬでもない。観光には確かにあいにくの天気だったが、しかしどうしても今日と促されるような何かを心中に感じてもいたのだった。自分たち以外の誰かが待っているような、説明不能の何かを…。

 観光案内板を9人で占拠するような形になっていたのだが、その輪の外に最前より来て案内板を見るふりをしながらその実娘たちの会話に相好をくずしている人物がいた。それを見て亜希子が「ちょっと織枝と絹子、うしろにいる人を通してあげて。私たちが邪魔をしているのよ。どうぞ、こちらへ」と云ってその人物に声をかける。「へえ、すんまへんね、ほなちょっとだけ…」と云いながら前に出て来て「えーっと、西行庵はどこやったかな」と云いながら案内板に見入るのだが、しかしそれよりは横にいる亜希子の存在が気になる様子だった。年のころ70前後の、頭に白髪が目立つ、人品あやしからぬ紳士然とした人物である。

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