美人は殿方にとっては慈悲なのです
美人であればあるほど世間は、その人物の難点欠点をさがしたがる。これは畢竟美人という名の排除であり、ねたみの壺なのです。このことがひとつ。次には…」と云いかけたところで恵美が「なげえ」とたまらず茶々を入れた。端こそ別人然とした豹変に気を飲まれて静聴していたが、話ぶりと雰囲気が次第に祭りの口上士じみて来るにつれて、むくむくと再びの猜疑心と持ち前の反骨心が湧いて来たのだった。場や雰囲気を壊してみせるなどなんでもない娘である。いっちょうこの男を…などとぶっそうな気配が見え隠れし始めた。「えへん」とばかり大きく咳払いをしてその恵美を制しつつ男もなかなか負けてはいない(このことに本人が感心している…)。「次には、その、観音ですが…(亜希子に)あなたのような美しい方は世の殿方にとってはそのまま慈悲なのです。観音なのです。(恵美をちらっと見ては)ブスは災難ですが…いやこれは余計ですが、とにかく、慈悲と救済を求めて衆生が観音に寄るように、あなたを求めて殿方が寄って来る。蓋し、観音の慈悲は広大無辺だがあなたの身と心はひとつだけ。すべての殿方に捧げるわけには行かない。さあ、そこでです。さて、お立合い…」「ほう、だいぶ調子出て来ましたな」恵美に負けず鳥羽も男の(いやこれ以降は僧と云うべきか、裏に隠れた僧を‘空の僧’とでもしておこう)容子をはかりながら徐々に反撃の機会をうかがい出した。年甲斐もなく亜希子をめぐって僧と争うような心持ちになっているのだが、それでいて鳥羽本人はこれを認めたがらないでいる。




