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クワンティエンの夢  作者: 多谷昇太
クワンティエンの伝説

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僧の豹変

おそらくたまたま行き合った昼食中の一行から一膳でも得ようとして、覚えていた難解な密教の一語なりを披露したのに違いない、などと皆が思うにいたる。しかしこんどばかりはさすがに僧も顔を赤くして、心外なる胸の内を述べようとするが、あいにくその為のボキャブラリに不足していた。「た、たまたま通りかかって…こちらのお方(亜希子)の見たこともないような、う、美しいお顔に、その、見とれてしまい…茫然自失した途端にですな…」などと云いつくろうが皆の目にはやはり珍妙としか写らない。必死の真摯さだけは伝わって来るがもはや(男への歓待は)これまでと一致したようである。しかしこのときまるで男の窮状をいたわるように、男とはまったく別格の、別人然とした、泰然悠然なる人格が表に現れ出たようだ。目に、声音に、途端に力がこもる。

「…茫然自失した途端にですな、ハハハ、要らぬ老婆心を起こされまして、斯く託宣申し上げたわけです。生ける観音像がごときあなたの様に‘誰かよく気を尽くさざるや。難転迂回さすこそこれ僧の務めなり’などと、ハハハ、つと(=急に)心得たがゆえです。邪淫戒を悉皆心得ぬような拙僧の不節操はお許しあれ。彼の小野小町の美にただ従順だった、僧遍上に習ったまでのことです。ハハハ」と屈託なく笑う。

雲に閉ざされて陰鬱だった風景がみるみる壮大なパノラマに変り行くような奇跡の豹変に、誰もが目を見張って言葉もない。これに誰よりも意を強くした亜希子だったがしかし一言異を唱えざるをも得なかった。

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