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クワンティエンの夢  作者: 多谷昇太
鳥羽老人と歌合わせ

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34/80

乞食僧を追う亜希子

やや上げた笠の下からは不精髭をあごにはやした、陽に焼けた5、60くらいの男の顔が見える。その風体と異臭で僧形とは云え男の身分のほどが容易にうかがえたがしかしそれよりも、そのいかにも人懐っこい目に亜希子は強く引かれた。一瞬デジャビュを感じる。どこかで会っただろうか?思い出せないままに立ちすくんでいると男に見竦められていると勘違いした鳥羽が財布から一万円札を出して「おおきに。けっこうなお経でしたな。これでご精進ください」と云って差出しながら、目とあごの動きで立ち去るよう托鉢僧をうながした。それまでどこか威厳ありげだった僧の顔にいやしげな表情が浮かび、「こ、これは…」と押しいただいて鳥羽に何度もお辞儀をしながらそのまま場を離れて歩き出した。思わず呼び止めようとする亜希子に「あかん、あかん」と首をふって目付きで男の何者であるかを教える鳥羽だった。ほかの娘たちは失笑したり鳥羽に感心したりしている。しかしこの時ふたたび一陣の風が吹いた。身のみならず亜希子の心の中にまでそれは吹きわたる。金峯神社で感じた昔を、古代をしのばさせるせちなる風が。去って行く僧の背に誰かを、なにかの祈りを感じる。亜希子は僧を追って走って行った。「あ、あの…どうか、どうかしばらく…ちょっとごいっしょしませんか?いまの法話の続きをお聞かせください。そ、それに、お食事でもいかがですか?」と呼びかける。するとなぜか僧の顔に再びの威厳がたちまちのうちによみがえり、おうように亜希子にうなづいてはこちらへと共に歩を返しはじめた。あきれ返る鳥羽の顔が、また梅子の『も、もう、どうにでもしてよ。つぎはだれ呼ぶの?誰を。熊?』とでも云いたげなふくれっつらが亜希子の目に近づいて来た…。

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