これが仏縁やったんや!
「まあほんまに、一面識もない初対面の身で、何とあつかましい爺やと、皆はん、さぞやあきれてますやろ。無理もありまへん、私自身でさえそうなんやから…ふだんやったらこんなこと私はようけしませんし、また出来まへん。節度は人一倍心得てますさかい。はい。実はな…いや、ハハハ、こんなこと云うたらなお奇人あつかいされるやも知れまへんが、思い切って云うてしまいます。実は…昨晩夢を見ましてな。夢枕にどなたか知らん、西行はんでっしゃろか、とにかくお坊はんが立ちはりまして、‘吉野へ参れ、仏縁に触れるべし’とおっしゃられますんや。ちょうど今日という日は女房から竹林院での茶会に誘われてた日で、ほんまは行く気なかったんやけど、何となく気になって付いて来てみたら…ドンぴしゃでした、これが。はい。吉野山駅前であなたがたの姿を見た途端、これや!と思いました。これが仏縁やったんやと…」。
しかしここで梅子が「なぜ私たちを見ただけで、それも遠くから、そんなことを感じたんです?女子大生のハイカーたちなんかそこらじゅうにいるでしょう?それとも関西には女子大生はいないんですかね」などと思わせぶりにに訊く。「そんなアホな、ハハハ、そりゃようけおりまっしゃろ。確かにおっしゃる通りやけど、そうやのうて…何ちゅうかこう、ぐーっと目が引きつけられましたんや。まるで夢で見たお坊はんがあなたがたのそばに立って、手招きでもしてるように思われて。矢も楯もなく運転手に‘おい、止まれ’と命じて仏縁に順じてもうた次第です、はい」と一気呵成に語って見せた。




