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クワンティエンの夢  作者: 多谷昇太
吉野の桜

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九(ここの)の子らやかまけておらむ

「はしけやし翁の歌におぼほしきここのの子らやかまけておらむ、よ」亜希子が和歌を一首出す。「何ですかあ?それ」と郁子が訊き「やべ」とたちまち恵美が逃げ腰になる。どうも匡子の指摘が正しいらしい。「年長者を見下すような私たちは情けないってこと。現実には私たちヒヨッコじゃ何につけ、かなわないってことよ。むこうから歌合わせしたいって云うくらいだから、慶子が云う通りそれ相当の歌を詠むんでしょうよ。人生経験の違いから云っても、奇しくも聖地吉野で得た御縁だ、ということからしても、私は頼んででも御一緒すべきだと思うわ。とにかくもうそろそろバスが来るわ、バス停に移動しましょ」打ち切るように云うのに「何が聖地で、何が御縁よ。万葉集でしょ?その歌。だったらあたしは〝否もうも欲りするままに許すべきかたち見ゆれば我も寄りなむ〟とは云わないからね。だいたいあんたあやしいって思わないの?あの爺さんを。吉野のどこに高級車で来たんだか知らないけどさ、西行庵にお参りだなんて出まかせだよ、たぶん。道がわからないなら運転手に来させればいいのに、自分が出て来たりしてさ。恵美が云ってることあたりが恐らく正解よ。あんた責任あるリーダーでしょ?みんなの安全とか少しは考えなさいよ」などと梅子がもの申す。

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