外れスキルの無能で無双 〜クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で、召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能はすべてを無にする最強のチートスキルでした
「おい、小日向。ちょっとパン買ってきてくれよ」
「う、うん、わかった」
黒崎 陸斗が俺に小銭を差し出す光景は、もはや日常の一部となっていた。
「ありがと。いつものでよかった?」
「ああ、いつもの焼きそばパンな」
我ながら何がありがと、だと思う。
パシリで買いにいかされるのに何もありがたくない。
全く奴隷根性を染みついてしまっている自分が嫌になる。
俺の名前は小日向 悠。
趣味のゲームや漫画、小説が生きがいの高校2年生だ。
2年になって黒崎と同じクラスになってからは、いじめターゲットにされて日常的にパシらさせている。
最初こそ拒否していたが、機会を見て人気のないところに連れ込まれ、そこでぼこぼこにされて心をへし折られてからは黒崎のいいなりの従順な奴隷になっている。
「ちょっと止めなさいよ、黒崎君。毎日毎日小日向君をこき使って。お昼くらい自分で買いに行ったら?」
クラスの学級委員長の大村 香織が黒崎を咎める。
「別に命令してるわけじゃねえんだ。お金は渡してるし、小日向は俺の友達で、ついでに買いに行ってくれるんだよ。なあ、お前もパン食いたかったんだよなあ、小日向」
黒崎は俺と肩を組み、肩を組んだその腕に力を入れる。
「う、うん」
「ほらみろ」
大村は納得していなさそうだったが、黒崎の言葉にしぶしぶ引き下がる。
黒崎の気性は荒く、些細なことで怒りを爆発させ、問題になることもしばしばだ。
だが、恐喝にならないよう、パシらせる時にクラスのみんながいる場合、必ずお金を握らせる。
彼が停学や退学に至らないのは凶暴な反面、このような狡猾な振る舞いもできるところが大きい。
大村は正義感で言ってくれているのだろう。
だがその程度の指摘で黒崎のいじめが止まることはない。
逆にいじめを助長させているともいえる。
はっきり言って大村の善意はありがた迷惑だった。
「嫌なら嫌ってはっきり言えばいいのにね」
「しょうがないじゃん、意気地なしのヘタレなんだからさ」
女生徒たちはそう言った後、俺の方を向いてクスクスと笑っている。
彼女たちは黒崎と仲良くしている、所謂不良グループの一員であった。
その様を見て、ニヤニヤとする黒崎。
「おいおい、あんま俺の友達を悪く言ってくれるなよ。なあ、小日向」
「な、なんのこと?」
俺は聞こえないふりをする。
これでもプライドの一欠片は持ち合わせているのだ。
「どーん!」
「ゔっ!」
黒崎は俺に腹パンをしてきた。なんの脈絡もなくいきなりだった。
「じゃあ、頼むぜマイフレンド」
「ゔっ、だって、だっさ笑」
「な、なんのこと〜、だって笑。黒崎さあ、ほんとに小日向のこと友達だと思ってるの?」
「思ってる訳ねえだろ、あんなゴミ。奴隷だよ奴隷。ギャハハハハッ!」
クラス内に黒崎たちの笑い声が響く。
他の生徒たちから憐れみの視線が向けられているがわかる。
ああ、またやられてるよ可哀想、という憐れみの視線だ。
こんな地獄のような日常がずっと続いている。
最近では精神が摩耗し、食欲もどんどんなくなってきた。
俺が逃げるように教室を離れようとした時のことだった。
教室内が突如として眩しい光に包まれる。
女子たちの悲鳴が響き渡り、パニックが広がる。
光が強まり、目も開けていられなくなって数秒後。
俺たちの周りの世界は一変した。
「陛下成功いたしました、召喚が成功したのです!」
女性は、荘厳な椅子に座る男性へと向かって興奮を隠しきれずに報告する。
金髪の長い髪を美しくなびかせ、幻想的な白いドレスを纏った彼女は、見る者を魅了するほどの美しさを誇っている。
その完璧なスタイルと美貌は、街を歩けば誰もが振り返るほどだった。
「素晴らしい! 活気あふれる若者たちを大勢召喚できたか!」
男性は、その口元に赤髭を蓄え、頭にはきらびやかな冠を輝かせている。
ローブのような華やかな衣装を身に纏い、そのふるまいからは自然と威厳が漂っている。
周りには俺たちを取り囲むように兵士が配置されている。
地面は石畳になっており、石造りの建物のようだ。
俺たちはほんの数秒前まで教室にいたはずだった。
ドッキリか? なら一体どんなトリックを使ったんだ?
これほどの演出を可能にする技術がこの世に存在するのか?
「これでようやく戦力強化が見込めるな。そなたには苦労かけた。だがこれから先が重要だ。引き続き、我が国のために尽力をよろしく頼むぞ」
「勿体ないお言葉。必ずや我が国を勝利へと導くべく、全力を尽くします!」
女性は片膝を地につけて深く頭を垂れた。
男性は陛下と呼ばれれていた。
であれば、あれは王座で男性は国王ということなのだろうか。
「おい、ふざけんじゃねえぞ、てめぇらぁ! なんのドッキリだこれは?」
黒崎がひどい剣幕で、前方の女性と男性に詰め寄っていく。
「許可なく陛下に近づくな!」
血相を変えた兵士たちが何人か、前に進み出るが、王は片手を上げてそれを制する。
王は視線を女性に向けると、女性は頷き前に歩み出て黒崎と対峙し、鋭い視線を向ける。
黒崎は身構える。なにが起こるのかと息を呑んだその時。
女性は頭を深く下げた。
「この度は突然の召喚、誠に申し訳ございません。私、エスペリア王国の宮廷魔術師筆頭、セリーナ・エリザベータと申します」
身構えていた黒崎は拍子抜けしたように肩の力が抜ける。
「お目にかかっているのがエスペリア王国のアルドリック・エスペリア陛下でございます。今回は皆さま方のお力添えをいただきたく、異世界召喚をさせていただきました」
「異世界召喚? なんだよ漫画かよ。いいからさっさとネタバレしろ! たいして面白くもねえんだよ!」
「冗談だとお考えですか? ですが、残念ながらこれはれっきとした事実でございます」
「いいから、さっさと元に戻せよ!」
「異世界召喚は一方通行です。元の世界へ戻ることはできません」
「はあ、ふざけんじゃねえぞてめぇ!!」
瞬間湯沸かし器のような黒崎が、セリーナに掴みかかろうとしたその瞬間――
突如、閃光が走り、爆発音が響き渡る。
黒崎とセリーナの間の地面が一瞬にして黒焦げになり、その場には焦げた匂いが立ち込める。
黒崎は衝撃と驚きで地に尻餅をつく。
「て、てめぇ」
わなわなと怒りに震えながら黒崎が立ち上がる。
クラス内にどよめきが走る。
「今、元の世界に戻れないって言ったよな」
「えっ、ドッキリじゃないのこれ。異世界から戻れないって本気?」
「もう止めるんだ、黒崎君」
そこにクラスメイトの風間 翔太が割って入ってきた。
「うるせぇてめぇは引っ込んでろよ!」
「そういう訳にはいかない。君の行動はクラスのみんなを危険にさらしている」
黒崎は嘲笑う。
「ああ、危険だあ? こんなドッキリになんの危険があるんだよ」
風間は落ち着いて反論する。
「ほんとにドッキリだと思ってるのか? 僕たちは強い光で目を閉じてはいたけど、それはほんの数秒のことだった。そんな短い間にこんなにも多くの人々を配置し、環境を変えるなんて、ドッキリでは不可能だ」
「だったら……」
「セリーナさんが言った通り、これは異世界召喚だ。信じ難いが、僕たちが今置かれている状況から、それを受け入れるしかない。そして、この事実を受け入れるなら我々の運命はここにいる最も権力のある者、すなわち陛下の手中にある。軽はずみな行動は控えてくれ」
「そうよ、風間君のいう通りよ」
「そうよ、そうよ」
黒崎は風間の取り巻きの数人の女生徒たちに睨みをきかせる。
女生徒たちはすぐさま風間の背後に隠れる。
「ちっ、仕方ねぇわかったよ……」
黒崎は最終的には渋々引き下がった。
その様子を見たエスペリア王は満足そうに微笑みを浮かべる。
風間は優れた学業成績に、スポーツの才能を誇っている。
おまけにイケメンで名門の家柄ときている。
クラス内では当然のように複数人の女性ファンが形成され、素行もいいので次期生徒会長の最有力と目されていた。
世の中は平等でないとその存在で体現してくれている完璧超人。
それが風間 翔太という男であった。
もちろん彼はクラスのヒエラルキーの最上位に属している。
だから先ほどは黒崎も風間の言うことに渋々ながら従ったのだ。
先ほどまではクラスの雰囲気はどちらかと言えば黒崎寄りだった。
エリーナや国王に向かって、黒崎と同じように怒気とヤジを飛ばしていた生徒もいた。
だが風間の登場と説得により完全に空気が変わる。
風間は国王に対し、一礼をする
「陛下、この度の突然の召喚で起こった混乱につきまして、心よりお詫び申し上げます」
随分と大人びた話し方をする奴だ。
「よい、突然の召喚に混乱が発生するのは無理のないこと。気にするでない」
「感謝いたします。では、我々をここへ召喚した目的について、伺ってもよろしいでしょうか?」
「ここから先は私から説明させていただきます」
エリーナが話を引き取る。
「我々が皆様を召喚したのは、召喚された者が特別なスキルを獲得する可能性が格段に高いためです。中には、数万人に一人という確率で、非常に強力なレアスキルを授かる方もいます。これらのスキルを持つ者は、戦場で圧倒的な力を発揮することができます。現在、我が国は周辺国のある国と緊張状態にあり、これからの戦争において皆様の力を借りたいと考えています」
その言葉に部屋内は一時の静寂を迎えたが、その後ざわめきが広がった。
顔を青くしているものも多い。俺たちは平和な日本の高校生だ。
いきなり戦争だなんて言われても、引いてしまうのは当然だった。
「しかし、まずは皆さんがこの世界でどのような立場にあるのか、自身のスキルとステータスを確認していただきたいのです」
セリーナは穏やかに続けた。
「ステータスオープンと唱えていただけますでしょうか? それによって各人のステータスウィンドウが表示されますので、各自でステータスとスキル欄をご確認ください」
生徒たちの間からはじめはためらいがちに確認の声が上がり、次第にその数を増やしていった。
「ステータスオープン」という言葉と共に、空中に浮かぶ透明なウィンドウが一つ、また一つと現れては消えていった。
「なあ、セリーナさんよ。俺のスキルとステータスってどうなんだ?」
先ほどまで不機嫌そうに不貞腐れていた、黒崎が声を弾ませて問いかける。
セリーナは黒崎のステータスを覗き込み、目を見開く。
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《名前》 黒崎 陸斗
《レベル》 1
《種族》 人間
《生命力》 90
《魔力》 50
《攻撃力》 45
《防御力》 40
《魔法攻撃力》 20
《魔法防御力》 20
《俊敏》 40
《知力》 25
《スキル》 剣聖
《魔術》 なし
================
「まあ、剣聖ですね! 数万人に一人という大変レアなスキルになります。ステータスは……どれも初期ステータスとしては標準より大変高くなっております!」
「そうか、じゃあ剣士の最上位ってわけだな。まあ悪くねえか」
そこで風間の周りの女子から嬌声が響く。
「きゃー、勇者よ!」
「きゃー凄い!」
瞬時に嫌そうに顔しかめた黒崎を置いて、エリーナが風間の元へと向かう。
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《名前》 風間 翔太
《レベル》 1
《種族》 人間
《生命力》 95
《魔力》 80
《攻撃力》 40
《防御力》 35
《魔法攻撃力》 45
《魔法防御力》 40
《俊敏》 50
《知力》 45
《スキル》 勇者
《魔術》 光の剣、治癒の光
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「まあ、勇者。陛下、勇者が出ました! ステータスも大変素晴らしいです!」
部屋がどよめく。
風間のとりまきたちの嬌声がうるさい。
だが本人は至って冷静で、当然のことのように受け止めているようにも見える。
風間にとって人より抜きん出て優秀であることは、最早既定路線で驚くべきことでもないのだろうか?
そこに横槍を入れるように一人の女生徒が質問を投げかける。
「ちょっとすみません。私のステータスも見ていただいてもよろしいですか?」
エリーナに声をかけたのは、美月 紫苑だった。
俺が密かに女帝と心の中で呼んでいる女生徒だ。
美月はそのきつい性格と計算高い行動でクラスのヒエラルキーを巧みに操り、女子生徒たちを支配下に置いていた。
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《名前》 美月 紫苑
《レベル》 1
《種族》 人間
《生命力》 85
《魔力》 90
《攻撃力》 30
《防御力》 30
《魔法攻撃力》 50
《魔法防御力》 45
《俊敏》 40
《知力》 50
《スキル》 賢者
《魔術》 治癒魔法、防御魔法、知識の光
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「まあ素晴らしい、賢者ですね。こちらも大変レアなスキルになっております。流石は賢者、初期ステータスも素晴らしいですね!」
「あら、そうですの。まあ、体を動かすのはさほど得意ではないので、魔術師でよかったかもしれませんね」
美月は黒髪の長髪をなであげながら応える。
風間に美月、それに黒崎。
クラスのヒエラルキーの上部に属する人間たちが、軒並みレア以上のスキルを獲得している。
異世界に来ても元世界の理不尽な階層構造は変化しないのか?
恵まれた人間、運ゲーの覇者たちは異世界に来ても勝者のままなのか?
まさか現実世界を投影してるんじゃないだろうな。
そんな不吉な考えが脳裏に浮かぶ。それなら俺に未来はない。
「すごいです、美月さん!」
「賢者なんて羨ましいです!」
美月が配下のように従えている女生徒から称賛の声が上がる。
「そんなこと……」
美月が言葉を続けようとしたところ、また別の場所から歓声が上がる。
「きゃー、聖女よ!」
「信じられないわ、葵が聖女だなんて!」
エリーナは今度はそちらに向かう。
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《名前》 春日部 葵
《レベル》 1
《種族》 人間
《生命力》 85
《魔力》 100
《攻撃力》 20
《防御力》 25
《魔法攻撃力》 45
《魔法防御力》 50
《俊敏》 30
《知力》 50
《スキル》 聖女
《魔術》 癒しの光、聖なる結界、浄化の息吹
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「聖女! さすが、賢者にも負けず劣らずの素晴らしいステータスですわ!」
「よかったわね、葵!」
「おめでとう、葵!」
彼女の友達が称賛を送っている。そこへ遅れて美月が到着した。
「へぇー、私に負けず劣らずですって。よかったわね、春日部さん」
「え……ええ、ありがとう」
春日部は美月と目を合わそうとはせずに遠慮がちに応える。
彼女とその友達も同様に、先程までの嬉しそうな表情はともに影を潜めていた。
「も、もちろん私の力はクラスのみんなのために使わせてもらいます」
「そう、よろしくお願いしますね。お互いレアスキル同士、頑張りましょう」
「は、はい、わかりました!」
まるで女王が配下に命じる如き言葉に、春日部が従順に応える。
俺は知っている。
春日部は元々クラスの上位ヒエラルキーに属していた。
成績優秀で、何より彼女の控えめな性格と内面から溢れ出る優しさから好感を得て、多くの友人を抱えていたからだ。
しかしそんな彼女は美月の嫉妬を買うことになる。
友達との分断工作をしかけられ、ありもしない噂を流されて、クラスの底流へと追いやられてしまったのだ。
ほとんどの男子はこの事実を知らないと思う。
表面化しないように非常に巧妙に策が巡らされていたからだ。
だが俺はいじめられっ子という立場上、そういった事には敏感で気づくことができた。
春日部は底辺に追いやられた後も執拗に美月からいじめ、嫌がらせを受けて、すっかり美月のことを恐れてしまっている。
だが、これは一筋の光明だった。
現実世界のヒエラルキーがそのままスキルに投影されるわけではなさそうだ。
であれば俺だって凄いレアスキルを得られる可能性だって大いにある。
怖くて言えなかったその言葉をようやく紡ぐ。
「ステータスオープン」
俺は期待を胸に表示された画面を眺める。
「嘘だろ……?」
思わず言葉が漏れる。
モニターに表示された文言が信じられなかった。
こんなことがあるのか?
ショックで呆然とする。
それを目ざとく見つけた黒崎が背後から近づいてきていることに気がつかなった。
「ぎゃはははははは! おい、みんな見ろよ! 小日向のスキル、無能だってよ!!」
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《名前》 小日向 悠
《レベル》 1
《種族》 人間
《生命力》 35
《魔力》 20
《攻撃力》 15
《防御力》 15
《魔法攻撃力》 10
《魔法防御力》 10
《俊敏》 20
《知力》 25
《スキル》 無能
《魔術》 なし
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スキルが『無能』という事実にクラスメイトたちからだけでなく、兵士たちからもどよめきが起こる。
俺は何もできずにその場に無言で突っ立っていた。
「ほんとに無能じゃん」
「え、そんなことあんの?」
「ちょ、笑っちゃ悪いって」
「でも無能だぜ、無能!」
好奇と馬鹿にした視線が俺に集まる。
「お前にぴったりな外れスキルじゃんか、よかったな! なあ、セリーナさんよ。無能なんてスキル授かることあんの?」
「聞いたことありません。ステータスも低めのようですね」
セリーナは俺に冷たい目を向けて吐き捨てるように応える。
先程の風間や美月に向けていた、期待の視線とは明らかに違っていた。
「じゃあ、逆にレアスキルなんじゃね?」
「ポジティブに考えるとそういう見方もできるかもしれません。ただそういう見方をしたところで外れスキルは外れスキルで現実は覆せませんが」
「おい! 小日向、よかったなレアスキル授かったってよ! 最高じゃん、お前にぴったりなレアスキル授かってよ!」
黒崎は馴れ馴れしく俺の肩を組み背中をバンバンと叩く。
クスクスと笑い声があちらこちらから起こる。
俺は肩を組んできている黒崎の手を強引に振り払う。
「なんだよてめぇ!」
「うるさいんだよ、クソ野郎が」
「ああ!…………」
黒崎は俺の顔を見ると、驚いた顔をして引き下がった。
もうどうでもいいという気持ちだった。
現実世界でも何をやっても人並み以下で、才能には恵まれなかった。
酷いいじめまで受けて異世界でもこれだ。
気力ややる気といったものがマイナスまで下がっていた。
あるのは理不尽な現実への強烈な怒りだけだ。
しばらくするとパンパンと、セリーナが柏手を打つ音が部屋に響く。
「はい、皆さんよろしいですか! ステータス確認どうもありがとうございました。おかげさまで全員のステータスを確認することができました。今回はなんとレアスキルとして勇者と剣聖、賢者に聖女を授かった方がおられます。皆さん盛大な拍手で祝福をお願いします!」
部屋に拍手の音が響く。
俺はその音をまるで他人事にように聞いていた。
「残念ながらレアスキルを授かれなかった方々もいらっしゃいますが、平均に比べれば有用なスキルにステータスも高めで、十分な戦力になります。ご安心ください。ただ一人を除けばになりますが……」
そこでみんなの視線が俺に集まる。
だからなんだっていうんだという気持ちだった。
「残念ながら無能スキルを授かった小日向さんは戦力外という扱いになります」
「じゃあ、元の世界に帰らせてくれるとでもいうのですか?」
「先ほども申し上げた通り、残念ながら召喚は一方通行で元の世界に帰ることはできません」
そこで他の生徒たちからも落胆の声が上がる。
「もうしわけありませんが、これはどうしようもありません。ですが、皆さんはこの後の戦いで、活躍していただければ英雄として貴族に叙せられます。身分も今後の生活も保証されます!」
セリーナの言葉に対する反論はなかったものの、納得している様子の者は誰一人としていなかった。
それもそのはず、突如異世界へ召喚され、元の世界への帰還が叶わないという現実は、まるで生きたままこの世を去ったかのような衝撃だ。
元の生活に対し、一抹の未練や後悔すら抱かない者はほとんどいないだろう。
ある女生徒は直面した事実に衝撃を受けて、涙を流している。
一方で、怒りと反発心を抑えきれずに顔を歪める生徒もいる。
しかし、兵士に囲まれたこの状況。
生徒たちは無力だった。
部屋内はしばらくの間、沈鬱な雰囲気が漂った。
「この後の戦いというのは何か訓練などは受けられるのでしょうか?」
その空気を打破しようしたのかどうなのか、風間から質問が飛ぶ。
「もちろんです。専用の教官がつき、理論から実践まで訓練いただくことになります」
「そこに俺は参加できないっていうわけですか」
「ええ、そうなりますね」
「じゃあ、どうなるんですか? 俺は」
「奈落へ追放という扱いになります」
「奈落に追放?」
「ああ、少し説明が足りませんでしたかね。みなさん少し小日向さんから離れていただいていいですか?」
セリーナのその言葉でクラスメイトたちは潮が引くように俺から離れていく。
それによって自然に俺を中心に円が出来上がるような構図になっていた。
なんだよ俺から離れろって。
「奈落というのはダンジョンになります。特殊なダンジョンでして……そうですね、正確に言えばゴミ捨て場ですかね」
「……はっ、そのゴミ捨て場に俺を追放すると?」
「ええ、その通りです」
貼り付けたような笑顔でセリーナは応える。
「ふざけないでください! いきなりそちらの都合で異世界に召喚した挙げ句、ゴミ捨て場のダンジョンに追放ですか!?」
「ふざけてなんかいませんし、冗談でもありません。あのね無能にも分かるように教えてあげますが、我々の召喚、他国に知られるわけにはいけないんですよ。ここはエスペリア王国でも辺境の秘密の場所になります。だから役立たずの無能だからといってこのまま解放するわけにはいかないんです。戦争が終わるまで飼うという手はありますが、戦争も長引く可能性があります。なら、それまで無能の役立たずのためにコストをかけるのか? いえ、我が国の財政は余裕があるわけではありません。無能の役立たずにお金をかけるくらいなら他の有望な国民にお金をかけるほうが余程、有用です」
「あなたたちが呼び出したんじゃないですか! 呼び出した側が責任を持つのは当然のことじゃないんですか!」
「もちろん我々は責任は負っていますよ。国民に対して、適切に国を導き、判断するという責任を。だからこその決断になります。陛下、この判断でよろしいか念のためご確認をお願いいたします」
「その判断で問題ない」
国王は間髪入れずにそう断じた。すると、重苦しい空気が部屋に流れる。
おそらくだが、これは見せしめの意味も含まれているのだろう。
国の役に立たなければ容赦はしないという。
「そ、その追放というのはなんとかならないんですか? 小日向君はこの世界に来てそんな時間も立ってないんだからいきなりダンジョンなんて飛ばされたら……その……最悪死んでしまうなんてことも。私頑張りますんで! なんなら私の分の食事の量を減らしてもらってもかまいません!」
春日部が声を上げる。
空気が少し変わり、「俺も、私も」と他にもぽつぽつと、声が上がりはじめたときだった。
「無能はゴミ箱行きで全然問題ねぇだろ。俺は少なくとも役立たずのために、俺の何かを少しでも分け与えるのはごめんだぜ」
「別に黒崎君に何かをお願いするつもりは……」
「不本意ながら今回は僕も黒崎君に同意だね」
春日部の言葉を遮るように風間が言葉を挟んだ。
「みんなここは俺たちが住んでいた平和な日本ではないんだ。戦争が行われ、実際に俺たちも戦力として駆り立てられる世界なんだ。つまりは適者生存。それがより強く反映された世界だ。元の世界にいたときとは考え方を変えなければいけない。小日向くんのことは残念だが諦めよう。それが陛下のご意思だ」
「なんだよ諦めようって。俺死ぬかもしれないんだぞ! わかってるのか!?」
風間は俺を見下したように一瞥だけすると、それ以上、こちらに視線を向けてくることはなかった。
元々いけ好かない奴ではあったけど、こいつの本性はこんな奴なのか?
「適者生存といっても助け合いや協力は大切ですわ。ただ施しを与えるにしても最低限度というものがあります。小日向くんは残念ながら、その最低限度すら満たせないということでしょう。私も陛下のご意思に従いますわ」
風間に黒崎、そして美月。
クラスヒエラルキーの上位に君臨するものたちの意見は一致した。
これは追放判断の大勢は決したということを意味していた。
詭弁だろうがなんだろうが、この世界は力あるもの。
結局は声が大きいものの声が通るのだ。
「追放するということは俺を殺すということ。それと同意義と見なすぞ!」
「しつけぇんだよ。じゃあさっさと死ねや!」
「男なら男らしく奈落のダンジョンとやらに、さっさと飛び込んでは如何ですか?」
その時、エリーナが満足げな笑みを浮かべながら拍手を送り、言葉を続けた。
「大変素晴らしい決断力と適応力ですね。今回は本当に優秀な人材が集まったようです。少し不安に思いながら静観していましたが、皆さん大丈夫そうで安心しました。それではこの場にふさわしくない無能を奈落へ送りましょう!」
俺の足元にうっすらと光り輝く魔法陣が描かれはじめる。
おそらく転移魔法陣だろう。
「ころ……し……や」
「ああー、なんだって? 別れの言葉ならはっきり言えよな無能野郎!」
憤怒の炎が心の底から湧き出る。
こんなに強い怒りも、純粋な殺意も人生ではじめてのことだった。
「お前ら、殺してやるぅ!!」
「あはははは、まさか無能が勇者に剣聖、賢者に太刀打ちできるとでも! あなたはこの世界のスキルシステムの厳然たる力、その絶対性をまだ理解していないようですね!」
「やれるもんならやってみろや無能! 楽しみに待ってるぜ!!」
「負け犬の遠吠えは見苦しいですわよ!」
その時、地面に描かれた魔法陣から眩い光が溢れ出す。
周囲を吹き抜ける強風が、髪を乱す。
「絶対に、絶対にお前ら殺してやるぞぉーー!!!」
やがて、その光は圧倒的な輝きを放ち、目を開いておくことさえ叶わなくなる。
まばゆい閃光が全てを覆い尽くす中、俺の意識はゆっくりと深い闇の中へと沈んでいった。
気がつくとダンジョンの地面の上で横たわっていた。
どれくらいの時間かわからないがしばらくの間、気を失っていたみたいだった。
「ゔう……」
少し頭痛を感じながらその場を立ち上がる。
明るさは夜の歩道に街路灯がついてるくらいの明るさだ。
見えなくはないが、結構薄暗い。
どうやらダンジョン自体、壁や天井からほんのりと光が発せられているらしい。
フラフラと歩を進める。
体調は万全ではない。精神も落ち込んでいる。
しかし、心の奥底に燃える復讐の炎は決して消えることはなかった。
しばらく進むと道は二つに別れた。
最初は適当に左に進む。
そうやって適当に分かれ道をいくつか越えたころだった。
道の先に小さな物体が見えた
近づいて見るとそこには二本足で立ち上がっている、プレイリードックのような動物がいた。
立ち上がっても大型犬程の大きさもなさそうだが、横幅は結構あるのでデブに見える。
つぶらな瞳をこちらに向けて、顔を不思議そうに傾けてかわいい。
とてもじゃないが魔物には見えなかった。
「きゅー」と可愛らしい鳴き声を発している。
こんな動物がなんでこんなダンジョンにと思いながら、俺はその動物に無警戒に近づいていった。
すると一瞬でそのプレイリードックの表情が険しいものに変わったと思うと、その姿は消えて、次に感じたのは左腕の燃えるような痛みだった。
見ると腕には齧られたような後があり、そこから鮮血がほとばしっている。
そいつはいつの間にか俺の後方へと移動しており、目にも止まらぬ速さで移動しざま俺の左腕をかじっていったようであった。
魔物はくちゃくちゃと咀嚼した後、それを飲み込む。
先程の可愛らしい表情とは打って変わって、口元を真っ赤に染めて、魔物らしい醜悪な表情を浮かべている。
そこで先程の可愛らしい様子が擬態であることに気づく。
「くそっ!」
油断した。こんなダンジョンに可愛らしい動物などいるはずがないのだ。
また魔物の姿が消える。
今度は右足に熱を持った痛みを感じる。
また全く目視できなかった。
明らかにレベルが違う。
レベル1で対峙できるような相手ではないのだ。
魔物の歪んだ表情はどこか愉悦を感じているようであった。
いや、こいつは愉悦を感じている。
久しぶりの獲物なんだろう。
弱者をなぶり快感を感じているのだ。
勝てるわけがない。
俺は恐怖のまま、思わずその場から逃げ出す。
「キィキィキキッーーーー!」
魔物はうれしそうな鳴き声を上げる。
先程のスピードなら追いつこうと思えばすぐに追いつけるはずだが、追いついてこない。
狩りを楽しんで遊んでいるのだろう。
曲がり角を曲がった先、通りすがりに人が入れそうな横穴があったことを思い出す。
このまま走ってもその内、追いつかれてなぶり殺しにされるだけだろう。
俺は決死の思いで、その横穴に飛び込んだ。
「ギィギャァーーーギギィーーーー!!」
魔物は怒りの声を上げて横穴に入って来ようとするが、大きさから詰まって入ってこれない。
しばらく、凄まじい表情でこちらに向かって吠えていたが、いつしか横穴から見えるところからは姿を消した。
諦めたのか?
いや、流石にそれはないだろう。
きっと元の道、横穴から見えないところで俺を待ち構えているはずだ。
横穴の先は座って楽にできるくらいの空間はあった。
俺は衣服を破って齧られたところを痛みに耐えながら縛る。
ばい菌がとかいってられない。
このままでは出血多量で死ぬからだ。
詰んでいる。
前方後方に進路はなく、このままこの場に留まってもすぐに死ぬ。
死ぬのかこんなところで。
復讐を誓った矢先に何も成し遂げられず、命を落とすのは耐え難く悔しかった。
涙が頬を流れる。
「母さん……」
思わず、母への甘えの言葉が出る。
高校生にもなって恥ずかしいという余裕もなかった。
いつもなら家に帰ってゲームでもしている頃だろう。
それがなんの因果でこんなことを……。
「そうだ、あんなスキルのせいだ。あんなスキルを授かったせいで。異世界召喚しといて、無能ってふざけんなよ!」
涙声になりながらもステータスを表示させる。
「ステータスオープン! こんなもん!」
俺は無能のスキル欄を殴ろうとする。
すると画面が切り替わった。
「え?」
最初、訳が分からなかった。
だけどそれがスキルの詳細説明画面だとわかる。
わかりにくいが、それぞれの項目を選択することで詳細画面へと遷移する仕様のようだった。
無能スキルの詳細説明欄には以下の明記がされていた。
【手をかざして念じた範囲のすべてを無にする能力。自身の体積を超える範囲は連続して無にできない】
すべてを無にする能力?
ほんとだったらとんでもない能力だぞ。
俺は試しに、横穴の行き止まりの小さな範囲を無にするように念じてみる。
すると岩で構成されている壁は念じた範囲分、綺麗に何もなくなった。
「ほんとなのか……」
血を失いすぎて、少しフラフラしはじめていた。
何か打開策がなければ死んでしまう。
あの魔物も無にしたりできるのだろうか?
もう一度スキルの詳細説明欄を表示する。
【すべてを無にする】と明記してある。
一か八かやってみるか。
どうせこのままだと死ぬ。
俺は横穴から通路へ向かって慎重に顔を出してみる。
すると少し先に予想通り魔物の姿があった。
こいつが俺の体をかじったのだ。
悔しさにより自然と歯ぎしりが起こる。
獲物を目撃した魔物は、うれしそうにすぐさまこちらに飛びかかってこようとする。
それに対して俺は手をかざして念じる。
消え失せろ!
『無』
動く相手に対して念じるのは以外と難しかった。
全消滅とはいかず、右上半身だけの消滅だ。
だが魔物は戦闘不能で瀕死の状態になっている。
嘘のようだった。あんな強敵が一瞬で。
俺は思わず念じた自分の手の平を見つめる。
「キュキューー、キューーーー」
命乞いなのか、魔物ははじめてあった時のように愛嬌のある声で鳴く。
横穴から這い出て魔物を見下ろす。
目に涙を溜めて、必死に愛嬌を振りまいている。
しまいには俺の足を舐めだした。
「ふん、二度も騙されるかよ」
俺は魔物に手をかざす。
すると魔物は表情を変えて、俺に呪詛を吐くように断末魔の叫びを上げる。
「グギャギャギャギャャャーーーーー!!!!」
「じゃあな、あばよ!」
今度こそ魔物はすべて残らず無に化した。
すると、頭の中で何かの声が聞こえてくる。
『レベルが1から2へ上がりました』
「え、レベルが上がった?」
レベルアップ通知はすぐには終わることはなかった。
『レベルが2から3へ上がりました』
『レベルが3から4へ上がりました。状態異常回復魔法を覚えました』
『レベルが4から5へ上がりました』
「なんだ、いつまで続くんだこれ?」
『レベルが5から6へ上がりました』
『レベルが6から7へ上がりました』
『レベルが7から8へ上がりました。回復魔法を覚えました』
「今、回復魔法って!」
俺は急いでステータスを開いて回復魔法をタップして、詳細を表示する。
【回復魔法:快癒。体力を小回復する】
早速快癒を唱える。すると魔物に噛みちぎられた箇所からの出血は止まる。
安堵する。これでおそらく死ぬことはないだろう。
自分の死をこんなに身近に感じたのは、はじめてのことだった。
極度の緊張からの解放からか、どっと疲れが出てくる。
とりあえずこの横穴の中は安全のようなのでそこへ戻る。
疲れからいつしか目も開けていられないようになる。
俺は人知れず、横穴の中で気を失うように眠りにつく。
『レベルが20から21へ上がりました』
『レベルが21から22へ上がりました』
『レベルが22から23へ上がりました』
その時もレベルアップ通知は子守唄のように鳴り続けていた。
2024/03/16 追記
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