表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

流れ星の海を泳いで

作者: 小畠愛子
掲載日:2021/12/18

 星間村は街灯もほとんどない、いくつかの集落でできた、小さな村でした。そのため夜になると、手の届くところに浮かんでいるかのように、星がくっきりと見えるのです。しかし、この村の名前の由来は、夜空の美しさだけではありませんでした。




「ねぇ、泳がない?」


 星間村出身のソラが、居間でスイカを食べていたぼくにそういいました。


「泳ぐったって……もう日が沈みそうなのに、危なくないか? それに、海まで車でけっこうかかるだろ?」


 皮の部分までむしゃぶりついて、ぼくはふぅっと一息つきました。ソラのお母さんが、くすくすと笑います。


「ソラったら、大地くんはこの村の出身じゃないんだし、泳ぐっていってもピンとこないわよ」

「わかってるわよ。だから、せっかくだし教えてあげようと思ったの」


 ソラがふくれっつらをします。ぽかんとしているぼくの手をとり、ソラは引っ張りあげました。


「ほら、行きましょ」

「いや、でも、夜に泳ぐなんて」

「いいから、ほら!」


 行ってきますとお母さんにいってから、ソラはサンダルをはきました。こうなるともう止まりません。しぶしぶぼくも靴をはきます。


「ダメよ、靴じゃ」

「いや、運転するんだから、さすがにサンダルじゃまずいだろ」


 今度はソラがきょとんとする番でした。それからすぐにあははと笑います。


「違う違う、海には行かないわよ。そこの小川。川の中を歩くから、サンダルじゃないと」


 ソラは懐中電灯を手にして、もう一度「行ってきます」といい、ぼくの手をとりました。


「まさか、小川を泳ぐってのか?」


 ソラの実家のすぐ近くにある小川は、泳げるほど深くなかったはずです。それにもう日も沈みかかっています。目を丸くするぼくに、そらはいたずらっぽく笑うだけでした。


「いいから、ほら、ついてきて」


 ぼくの手に懐中電灯を押しつけて、もう片方の手をしっかりにぎったまま、ソラは夜道を進んでいきます。懐中電灯がソラのうしろすがたを照らします。


「わたしは大丈夫だから、大地は転ばないように気をつけてよ」

「でも、川の中を歩くんだろう? 危なくないか?」


 ふりかえったソラが、得意そうに笑いました。


「昔は毎日のように歩いてたから、大丈夫よ」


 それは強がりでもなんでもなく、途中でけもの道を通って小川に降りても、ソラはすたすたと歩いていったのです。よろめきながらも、ソラの手をぎゅっとつかんでついていきます。すると、ソラはふと足を止めて顔をあげました。


「ほら、空を見てごらん」


 真夏の蒸し暑さも消えて、川の水音が耳に心地よく聞こえてきます。サンダルをはいた足元は、ひんやりとして汗が引いていきます。でも、いつもよりもソラの顔が不思議と輝いて見えて、胸はドキドキと早鐘のように打っています。


「もう、わたしじゃなくって、空よ、夜空!」


 日も沈み、暗くなった小川でも、ソラのほおが染まるのがわかりました。どぎまぎしながらも、ぼくはいわれたように夜空を見あげました。


「うわっ、すごい星の海だ……」


 小川を囲む森の木々のすきまから、天の川がはっきりと見えます。ソラの趣味であるビーズアクセサリーで使う、あの小さなビーズを空いっぱいにこぼしたかのような、輝きに満ちた夜空です。と、一瞬ビーズの一つがまたたき、そしてスーッと落ちていったのです。


「流れ星だ!」

「今日は流星群の日だったのよ。すごいでしょ」


 ほおを染めたまま、ソラはふふっと小首をかしげました。流れ星を探して、星が一つ落ちるたびに、ぼくはソラの顔を見ます。ソラも同じ動きをしていて、目が合うと二人して思わず笑ってしまいました。


「すごいなぁ、ホントに星間村って名前通りだ」

「ううん、違うのよ」


 ソラが首をふったので、ぼくはソラの顔をまじまじと見つめました。


「懐中電灯、消してみて」


 ソラにいわれた通り、懐中電灯を消します。夜空の星明かりがより一層強くなります。とはいえ街灯もない、森の中の小川です。あたりは一気に闇に包まれました。ソラの手をぎゅっとにぎると、ソラはそっとぼくに肩をよせてきたのです。


「待ってて……。もうすぐ、どうして星間村っていうのか、そして、わたしが『泳ぎに行こう』っていった理由がわかるから」


 いったいなにが起きるのか、目を見開いて空を見ていると、流れ星が急にいくつも落ちてきたのです。一つ、二つ、三つ……あとからあとから、落ちてきます。驚くぼくの肩をたたいて、ソラが耳元でつぶやきます。


「見て。流れ星たちが、落ちてきたのよ」


 びっくりして、ソラの顔を、そしてあたりに目を向けます。ハッと息をのむぼくの前で、ソラが手を離し、光の中で踊り始めたのです。黄緑色の光があたりをゆっくりとただよい、その中を泳ぐように踊るソラは、まさに『流れ星の海で泳いで』いるように見えます。


「ホタルが、こんなにいっぱい……」


 ソラのまわりには、何十匹ものホタルがゆらゆらと飛んでいたのです。空を見あげれば流れ星がいくつも落ちて、ソラを見れば、落ちた流れ星とたわむれるように踊っている……。星と星のあいだにある村、まさに『星間村』という名前にふさわしい光景でした。


「ね、大地も泳ごうよ!」

「……うん!」


 ホタルの光が二つ重なるように、ソラとぼくも身を寄せ合って、いつまでも星の中で泳ぎ続けるのでした。その間にも、星はいくつもいくつも降り注ぎ、落ちた星はホタルとなって、いつまでもいつまでも光り続けるのでした。

お読みくださいましてありがとうございます(^^♪

ご意見、ご感想などお待ちしております(*^_^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] すごく綺麗な光景です。おもしろかったです。 [一言] お話の舞台に街灯がないのがよかったと思います。 あれば街灯にホタル以外の虫が群がってて、雰囲気がぶち壊しに……
[良い点] 降り注ぐ星と、降りてきた星が蛍となって舞う、そんな中を泳ぐのってすごく楽しいでしょうね。 ソラと大地という二人の名前もお話にぴったりですね。 幻想的な光景が思い浮かぶ素敵なお話でした。
[良い点] 「冬童話2022」から拝読させていただきました。 「星間村」の幻想的な光景の描写と 「ソラ」と「空」を間違えて、頬を染めるシーンが良かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ