夏
僕は夏というものが嫌いだ。
残酷なまでの陽射しが僕を殺そうとしている。目の前に広がる景色は何処を切り取っても夏色に染まっていて、嫌いなのに身体ごと吸い込まれてしまうような、そんな感覚に陥る。
このまま夏に溶けてしまうことが可能ならばどれだけ楽だろうか。僕そのものが夏になってしまえば人が感じる辛さなど何も感じなくなるだろう。人を殺すこともあるその暑さも、心を惑わすこともあるこの空気も、僕と同化してしまえばどれだけ心地良く感じられるだろうか……
僕の深く沈んでいく思考を現実へと引き戻したのは、耳を劈くほど五月蠅い僕の嫌いな蝉の声だった。聴覚に夏を感じると同時に汗ばんだシャツは触覚を刺激し、陽光が視覚に夏を伝える。
僕の目の前には先程と変わらない夏が広がっている。僕は何か変わっただろうか。
……いや、そんなことはどうでもいいか。
僕は夏というものが嫌いだ。
……僕は夏というものが嫌いだ。