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Double.第四部  作者: Reliah
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4.緋色の騎士


 どさり、大柄な男が一人倒れる。警戒しながら振り返れば、休憩所の入り口に明らかに場違いな男が立っている。

 キアよりももっと燃えるような、緋色の髪。同じ色の鋭い瞳が、赤という色に反して冷たさを感じさせる――。

 濃い緋色の騎士装束に身を包んだその男の外套には、留め金のように鳩のエンブレムが飾られている。それを見て、彼が何者か解らない人間はあまりいないだろう。


「て、てめえ――クライストの軍人か!」

 盗賊の一人が、焦りを帯びた声で叫ぶ。それを気に留めたふうでもなく、男は騎士団の紋章が彫りこまれた剣を抜いた。


「こんな解りやすい所で何度も悪事を働いていて、見つからないとでも思ったか」


 無表情――それしか表現できないほどに彼の表情は冷めている。隙が一切見られないその姿勢に、鈍感な盗賊たちも彼の実力を推し量ったのだろう。

 しかし、キア達を除けば相手はたった一人。それに尻尾を巻いて逃げ出すのは、彼らの僅かなプライドを大きく傷つけるのだろう。盗賊たちのうち、一人がクラウディスめがけて襲いかかった。


「きゃっ!?」

「こ、この女がどうなってもいいのか!?」


 騎士の登場ですっかり油断していたのか、クラウディスはあっさりと盗賊に捉えられる。

 月並みすぎるその台詞に、緋色の騎士は一瞬表情を変化させた。公人である彼にとって、一般市民はたとえどんな理由があっても救出するのが義務――となると、手出しを出来ようはずもない。

「――へへっ、どうせ掻っ攫っていくつもりだったんだ、丁度いいぜ」

 おおよそ上品とは言い難い、どちらかと言えば下品選手権でトップを争えそうな笑い声。それに合わせて、他の盗賊も勝機を見出したのか余裕の表情をし始める。

 ――が、その油断は長くは持たなかったようだ。


「――さわらないで、ください!」


 ゴスッ。


 何かが何かを殴る、鈍い音――それは、クラウディスの手にしていた小ぶりの杖と、盗賊の頭から発せられていた。幸いにも杖を手放していなかったために、当たれば痛そうなとがった部分で思いっきり殴りつけたのだ。

 これには、人並みであればどんな人間も悶絶しないはずがない。悶絶してその場に頭を抱える盗賊からさっさと離れ、クラウディスはほんのりと怒りをあらわにする。

「女性の扱いがなってませんわ」


 彼女にしてはドスのきいた、怒りの囁き。

 正直な話、その場の誰よりも恐ろしい相手かもしれなかった。冷や汗をかきながら、キアは改めて剣を構える。

「――悪人に、運は無かったらしいな」

 あまり抑揚のない声で、緋色の騎士が片手で剣を構える。隣を見れば、ややおっかなびっくりとしながらもソカも短剣のようなものを構えていた。





「協力感謝する。――俺はクライスト騎士団所属、カイ・ヤードだ」

 微笑みもしないで名乗った騎士は、縛り上げた盗賊たちを一瞥して軽く溜息を吐いた。

 落ち着いて見てみれば、彼が笑みすら浮かべないのは性格のようにも思える。こちらに対して興味がなければ名乗る事もしないだろうし、そのまま捕まえた盗賊たちを連れて軍にでも直帰するのだろう。

「――旅人か?怪我は……ないようだな」


 先程盗賊に拘束されたクラウディスを見つめて、カイは安堵した様子で――それも無表情なのだが、何となくそう見える――呟いた。それから、この盗賊たちが数日前からこの休憩所で悪事を働いていたという話をはじめた。

「お前達のように身を守る術がある旅人ばかりではないからな。とはいえここ最近になってから、クライスト領全域でこんな奴らが増えている。旅を続けるなら気をつけた方が良い」

「わかりました。……どうも、ありがとうございます」


 見た目の愛想のなさとは反対に、カイはそれなりにこちらを気遣っているらしい。騎士団に属している上に一人で盗賊退治に駆り出されるくらいだから、冷たい人物ではないようだ。

 とはいえ、盗賊を叩き起こして歩かせる姿は随分と冷たい。犯罪者には容赦なし、という所らしい。


「そいつら、クライストまで連れて行くんですか?」

「……ああ。その後どうなるかは知らんがな。せいぜい更生施設行き程度だろう」

 淡々と答えるカイに、キアはなるほどと頷いて盗賊たちの繋がれた縄を掴む。カイの表情がやや訝るように変化した。

「目的地が一緒なら、街に行くまでは手伝います。一人じゃ大変そうだから」

 キアの申し出に、カイは初めて面食らったような――驚いたと言っても間違いはない表情になる。恐らく、はじめて大幅に表情が変化したのではないだろうか。

 それから、ほんの少しだけれど笑うような表情を一瞬見せる。

「――なら、街まで"護衛"を頼もう。協力感謝する」


 おおよそ護衛などいらないはずだが、実際ひとりで五人もの男を連れ歩くのは大変なのだろう。快く提案を受け入れ、カイは休憩所から足を踏み出す。

 クライストまで、あとほんの半日ほどだった。




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