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Double.第四部  作者: Reliah
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3.休憩所の罠



 街道を歩く、大小三つの影。近寄って見れば、それがごく普通の旅人であるのが良く解る。赤い髪の剣士風の少年と、緑かかった金髪の少女。そして、異国の装束に身を包んだ黒髪の少女――

 彼らがどういう経緯で集まったか、見かけた者は思案する事だろう。あまり関連性がなさそうな集団は、仲良くお喋りをしながら街道をひたすら歩いている。


「ここからまっすぐ山を登っていくと、クライストらしいな」

 赤い髪の少年――キアが、後ろをついてくる二人を振り返る。片手に地図を持って、道を確認している辺りあまり地理には自信がないようだった。


「くらいすとは、山の上にあるでござるか?」

 訛りの強い異国の少女が、真っ先に質問する。ソカと名乗るこの少女は、二日ほど前に出会ったばかりだ。

 彼女の故郷ではこの地方の言葉は発音しにくいのか、若干ぎこちない訛りがある。それでも、しっかり聞き取れるから問題はないが。

「ちょっと違うわね。クライストは山と海に囲まれた半島にあるの」


 彼女の隣を歩いていた金髪の少女――クラウディスが、優しく説明を始める。クライストの街は、この地方一帯を統括する首都に当たる大きな都市で、山の中腹を越える辺りまで街が作られている。

 今現在三人が上っている山を越えると、中腹に作られた街まで辿り着くわけだ。


「むむ……ということは、すんごく大きな街ではござらんか……!?」


 黒い瞳をまんまるにして、ソカは解りやすいリアクションを返す。異国から来たのであれば、そういう反応も珍しくはない――納得して、キアは頷いた。

「クライスト領の主都だからな。けど、今まで通ってきた街は全部一つの国なんだよ」


 クライストをはじめとしたクライスト領に存在する街は、ほとんどがクライストと同盟を結んでいる小さな国々だった。小さな村などについてはそれぞれの国に属しているため、国境を越える事がなければ全てクライストに属している事になる。

 これはレディエンスも同じことで、クライストよりも若干数は少ないが属国は複数存在している。とはいえ、レディエンスの場合は自らその属国を幾つも滅ぼしているのだが――。


「勉強になるでござるなあ……」

 簡単な地理の説明を終えると、ソカは少し混乱しているのか、メモをとったりしている。歩きながら器用な事だ。


「キアさん、休憩所がありますよ」


 いつのまにか前の方を歩いていたクラウディスが、前方を指し示す。やや古い屋根つきの、吹き抜けの建物が視界に映る。風通しはよく、傍に大きな木がたくさんあるのでとても涼しげだ。

 時計を見れば、もう昼をかなり回っている。食事も兼ねてそこで休憩をとる事に決め、三人は手入れの良くされている建物に足を踏み入れた。


 こういった施設がある所も、クライスト領の良い所だ。街道の整備や馬車の連携等も国単位でしっかり管理されているため、キアの故郷のような田舎でなければ快適な旅が出来る。

 とはいえ、このあたりは馬の負担が大きい坂道が続くため、上りの馬車は基本的に出ていない。馬車用の街道を作るという案も何十年か前にあったのだが、移動距離が無意味に増えるだけなので実現はしていないのだ。


 休憩所に足を踏み入れ、備え付けられた椅子に腰かける。携帯食料を取り出そうと鞄を開けようとすると、急に周囲に複数の気配が生まれた――。


「――!?」


 慌てて、キアは背後を振り返る。休憩所の吹き抜けた場所から、数人の男がキア達を取り囲むように現れた。恐らく五名ほどの男たちは、代行者かと疑ったもののどちらかと言えば良くも悪くも盗賊らしい風体だ。

「――だれ!?」


 クラウディスが、持ちなれない杖を構える。慌てるソカを二人で挟むようにして守り、キアは腰の剣に手をかけた。

「誰って、見りゃあわかるだろう?盗賊さまよ」

 自分にわざわざ様をつけるほど馬鹿なやつはいない、なんて昔父親が言っていたが本当らしい。あまり教養はなさそうなその男が、どうやらリーダー格のようだ。お世辞にもセンスが良いとは言えないが、それなりに良い服を身につけている。どうせそれも盗品なのだろうが……。


「暢気なもんだぜ、何も警戒せずにこんな襲われやすい場所で休んでくれるんだからよ」

 下品に笑いながら、リーダー格の男が剣を抜く。彼らの実力は知らないが、人数の差と状況は脅威でしかない。逃げ道である入口はしっかり塞がれているし、まんまと盗賊の狩り場に飛び込んでしまったのだ。

「皆の使う休憩所で待ち伏せなんて、卑怯にもほどがあるでござるよ〜!?」

 多少落ち着いてきたらしいソカの抗議に、男たちはげらげらと笑いだす。彼らに対して卑怯という言葉は、基本的に褒め言葉だ。


「いいねぇ、裕福で純真なお嬢ちゃんは。卑怯だろうがなんだろうがこれも生きていくためでなぁ?」

「そうそ、おじちゃんたちにちょーっとほどこしておくんなませ」


 がはは、とやはり下品な笑い声。いい加減それもうざったらしいなんて思いながら、キアは剣を抜こうと構える。とはいえ、この状況下で自分一人が戦うのはややハンデが多すぎる。クラウディスも戦えないわけではないが、杖では殴ったらちょっと痛いだけ。良くも悪くも、彼女の腕力はあてにならない。ソカについても、戦い慣れていない上に腰が引けているようで――


 改めてまずい状況と再認識して、キアは冷や汗をかく。お世辞にも、自分はそこまで強いとは言えない。二人か三人程度なら何とかなるだろうが――。


「全く、働きたくないだけの奴らが良く言うな」


 いきなり、だった。唐突な声とともに、背後にいた盗賊が悲鳴を上げた。




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