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Double.第四部  作者: Reliah
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13.学問都市モルガ



「いきなりすまんかったね、不躾な質問して」


 かちゃかちゃと何かの機材を整備しながら、ケイマが呟く。簡素なベッド――手術台にも似たそれに座ったまま、キアは頭を振った。

 よかった、と安心した様子でケイマは微笑む。そのまま、今まで整備していた機材――帽子型で、頭の形に合わせて作られたものをキアの頭に被せて、何かの紐のようなものとつなげていく。


 食事の後連れてこられたこの部屋は、ケイマの執務室の本棚の裏にあった隠し部屋。地下に作られていたその広い空間は、たくさんの機材や薬品棚が並び、奥の方には幾つかの部屋も用意されていた。

 曰く、ここが彼の住居兼研究室だという。城の外にも家というべき場所はあるが、そこはほぼ使っていないらしい。

 キアの身体に起こった変化を調べるための研究員として紹介されたのは、ほかならぬ彼だった。神官長だと聞いていたのに、こんな設備の整った研究室まで持っているというのはとても意外だ。確か、商人のローブを身につけていたときもあった。あのローブは、ギルドの試験をクリアできないと支給されないものだから嘘ではないのだろう。

 改めて、目の前の人物のとんでもなさを目の当たりにする。何のために、彼は神官になり、商売人になり、研究者として日々を過ごしているのだろうか――。


「今から二十年くらい前まで、学問都市と言われていた国があったんよ。モルガっていう、小さな国なんだけどもね」

 紐同士を何かの器具で繋ぎながら、ケイマは淡々と語る。同じ色の金色の瞳、それは彼と自分が近しい存在であるということを示していた。


 キアは、幼い頃ヴィントの村の入り口で見つかった赤ん坊だった。そこをグラーニア夫妻に保護され、今まで育ててもらっていたのだが――。

「モルガは学問や魔術の研究に優れていて、そこで生まれ育った純血のモルガ人は金色の目をしているんよ。俺も、モルガ人なんやけど――

 予想はつくと思うけど、二十年前、モルガはレディエンスに壊滅させられたんよ」

 ほんの少し目を伏せて、ケイマはキアの頭につけられた機材から手を離す。

 彼の話が間違いでないなら、同じ色の瞳である自分は、モルガ人なんだろうか。

 けれど、普通の人間でしかない自分と、ケイマにどういう障害があったというんだろうか。


「モルガ人は長命種族なんよ。人間の倍以上は寿命があって、けれど不老じゃない。――普通の人間には無いはずの金色の目も、種族的な特徴やね。おまけに、国境沿いに街があった――レディエンスに狙われるのも頷ける」


 隣の椅子に座り、ケイマはまた違う機材を整備し始める。よく見れば、自分の頭についている機材と紐で繋がれていた。

「キミは十九才なんだっけね。次の誕生日まであとどれくらい?」

「……二か月」


 二か月――それで成人を迎えるとすれば、今から二十年前のモルガの陥落と、時期は酷く合致した。

 確定にも近いのだろうが、自分が長命種族だなんて、実感すらわかない。

「血液検査とかすれば、俺のと照らし合わせて種族も判別できるはずやけどね。でも、この検査でも解る可能性はあるんよ」

 でも今はこっちの調査しないといかんね――なんて言いつつケイマは微笑む。同じ種族かもしれない相手に出会えたという事が嬉しいのかもしれない。


「……これ、何ですか?」

「……ああ、脳の働きを見るための装置。君とクラちゃんの話を聞くに、感情に左右されて何らかの魔力が放出された……て思うのが一番自然だから」

 クラちゃん、だなんて。慣れ親しんだかのような呼び方に乾いた笑みを浮かべつつ、キアはそうなんですかと相槌を打つ。

 ケイマの言っている事は、キアには難しくてよく解らない。ようは思考が影響しているかもしれない……という事らしいが。

 弄っていた装置についていたボタンを幾つも押し、ちょっと横になってねと指示される。言われるままに横になり、顔にタオルをかぶせられて目を閉じた。


「暫く横になってて。楽にしてていいから」

 かちゃかちゃと、何かを弄る音。そんな作業がしばらく続き、十分ほどたっただろうか――ふと、起きていいよと声がかけられた。

 頭についていた機材とタオルが取り去られ、ゆっくりと起き上がる。こんな短時間で何をしたのだろうと顔を上げると、ケイマが無心で何かメモをとっている。


「――何、やってるんですか?」

 質問しても、ケイマは答えない。かなり真剣な表情で、メモをとっている。結局、メモをとる間は話しかけてはいけない気がした。

 そのまま、しばらく沈黙が続き――


「……ん、このくらいかね。――特に異常は無しやけど、二つほど解った事があるんよ」

 メモ帳を閉じて白衣のポケットにしまうと、ケイマは若干言いづらそうに視線を逸らす。

 一体何が解ったのだろうか――悪い事でなければいいのに、彼の表情はなんとなく不穏なものがある。


「一つは、脳の発達の仕方がモルガ人特有のもんだった、てこと……あとは、脳自体の活性化率が、普通の人間より高いように思えるんよ。……悪い事とも良い事ともちょっと言いづらいけど、もしかするとこのあたりがキミの不思議な力と関係してるかも」

 まだよくは解らないけど、調べてみるんよ――そう言って、ケイマは苦笑いを見せた。


「――モルガの事くらいなら、話す事は出来るんよ。調査については、文献ひっくり返して調べるしかないから……なんか解ったら報告する。

 ……さて、今日の所はここまで。せっかくだから、散歩でもつきあってな」


 すぐにいつもの笑顔に戻り、ケイマはずれていたモノクルを上げ直す。散歩の誘いにはどうしようかと思案するも、正直この後は特にやる事もなく暇なだけ。

 いろいろ話を聞くのも悪くない――散歩も嫌いではないし、大人しく彼につきあう事にした。




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