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Double.第四部  作者: Reliah
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12.思わぬ再会


 目が覚めて飛びこんできたのは、簡素な木の天井ではなくビロードの貼られた豪華な天蓋。飛び起きて一瞬、ここがどこかを思い出す。

 ――心臓に悪い。


 豪華な内装の広い部屋を見渡した後、頭を抱えた。こういう雰囲気は、庶民の自分には向かない――昨晩、もっと粗末な部屋で良いと頼めばよかったのかもしれないが、眠気に負けてそのままこの部屋で眠りについたのだ。疲れているときは自分の心情などお構いなしに、眠気はやってくる。ここに来て初めて知った事だった。

 ベッドに備え付けられた時計を見ると、もう朝が終わりかけるころだった。慌てて着替えてはじめ、愛剣を腰に提げた所で部屋の扉が叩かれた。


「――失礼しま……ってぇぇぇ!?」

 入って来たのは、メイドのようだった。しかし、素っ頓狂な声を上げ後退する――その容姿にはしっかりと見覚えがあった。

 漆黒の髪と瞳に、若干異国風を感じさせる顔立ち――

「ミスマルさん!王の大事な客人に、失礼ですわ!」

「そ、そ、そんなこと言われても!」


 次いで入って来た年配のメイドに叱咤され、少女――ソカは涙目で抗議する。キアとしても、彼女の言いたい事は理解できる。なぜ、こんな所にこの人が――それはキアにとっても同じことだった。

「彼女とは知り合いなんだ。――けど、どうしてこんな所に?」

 騎士団に知り合いがいるという話なら、その知り合いの所に居るのではと思っていたのだが――。

 当然の質問を浴びせれば、ソカは軽く視線を泳がせて頬を染める。彼女としても言いにくい事なのだろうか。

「し、知り合いには会えたでござる。でも、帰りの路銀が無かったので、仕事をあっせんしてもらったんでござるよ……」

「それでメイドって……」


 お世辞にも、ソカに対するイメージとメイドはかけ離れている。今だって、小さい子供がお手伝いをしているようにしか見えない。

 曰く、騎士団からの依頼を受けようにも怖い、料理は出来るが厨房の機材に手が届かない、神殿に行ったって音痴だから賛美歌が歌えない、補佐官をやろうにもこちらの字が書けない。出来ない事が多すぎて、結局掃除だけという名目でメイドにしてもらったのだ――と、恥ずかしそうに呟く。そして、いきなりキアと出くわしたわけである。

「知り合いに路銀を用立ててもらうのは、一度キア殿達に世話になった身、これ以上人様に縋るのは申し訳が立たんでござる……」

 すんすんと泣きはじめるソカに、年配のメイドが顔を引きつらせる。わたしは次の部屋に行きますからね!と言い捨て、その場に二人だけが取り残された。


 こんこんと、もう一度ノックの音。それから、金髪の少女がひょっこりと顔を出した。

「おはようございま……え?」

 ――タイミングは最悪である。ぐすぐす泣いているソカの傍で、立ち尽くす自分――クラウディスの目にどう映ったかは言わずと知れる。

 途端、蒼い瞳が怒りの色を見せる。――言い訳、できるだろうか……


 晴れ渡った空の下、クライスト城の一角ですさまじい打撃音が響いた。






 未だにずきずきする頬と頭に、キアは溜息を吐く。朝から平手打ちなんて経験したことがない。これも貴重な経験……と思いつつ頬をさすれば、目の前で申し訳なさそうに小さくなっている少女二人。

「……まあ、無実なのは理解してくれたんだから、もういいよ」

 用意された朝食――既に昼食に近いが――をつつき、フォローする。向かいに座るクラウディスとソカは、顔を見合わせた後お互いに真っ赤になった。


 五つ星のレストランでも行かないと見れないような食卓は、この三人には場違いにも思えた。着ているものも、一般的な麻の服、庶民が着る程度の可愛らしいワンピース、メイド服という取り合わせ。ソカについては、食事に同行してもらえるように頼んでここに居るのだが。

「ここは賄いも美味しいでござるが、お客さまに出す料理も特別美味しいでござるぅー」

 気を取り直しての食事中に、幸せそうなソカの声。食べるのがよっぽど好きなようだ。


「そういえば、知り合いって騎士団に居るんだっけ?」

 何となく彼女の知り合いというのが気になって、尋ねてみる。幹部クラスらしいカイの知り合いでもあるなら、その人もまたそれなりの地位に居るのだろうか。

「昨日、軍師殿の直属の部下だって話を聞いたでござる。里を出て行って五年くらいなのに、随分と出世したようでござるな……」

 遠い目をして、ソカはミルクのどっさり入った紅茶を啜る。紅茶ではなく牛乳に見えるくらい白いそれにもの申すのだけはこらえた。


「軍師……か、どんな人なんだろう」

 騎士団の人間や、王であるルカなどと面識が出来ても、彼らは必要以上に身内の事を語らない。それは数百年に及ぶクライストの政策にも通ずるところがあるのだろう。基本的に幹部といえる人間の容姿は、一般には非公開とされている。むやみやたらと身分を明かさないという体質が完全に出来上がっているのだ。

「今は任務で長期間不在にしている、とだけ教えてもらえたでござる」

 つまり、現状その軍師という人物を見かける事はないわけだ。軍師というからには剣の腕や統率力も群を抜いているのだろうが、いないというのは少々残念だった。


「――おはよう、よく休めたかい」


 遠く――食堂の入口の方から声がする。広い食堂の遠い入り口には、蒼い髪の青年と茶髪の青年。――ルカと、ケイマだったか。

 慌てて彼らのお茶を用意するメイドたちを尻目に、二人はすぐ傍の椅子に腰を下ろす。


「……頬、どうしたんだい?」

 不思議そうに尋ねてくるルカに、クラウディスが視線を逸らしたのが解った。ソカは苦笑いしながら、お茶が器官に入ったのかいきなり噎せはじめる。

 その様子に、ケイマの金色の瞳が意地悪に笑った。

「ははぁ、痴情のもつれってやつぅ?色男やねぇ」

「か、からかわないでください」


 けらけら笑うケイマに抗議するも、彼はたいして気に留めていないらしい。メイドの持ってきたお茶を啜ると、じっとキアの目を見つめた。

「――キミ、出身は?」

「え?あ……国境沿いの、ヴィントの村ですけど」

 ほんの少し意外な質問に、キアは面食らいつつも答える。

「……んー……もしかしてキミ、孤児だったんじゃないんか?」


 唐突とも言える指摘に、キアは目を見開いた。――自分と同じ金色の目が、やっぱりかと細められた。




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