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Double.第四部  作者: Reliah
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11.ひと時の休息



 公園から出ると、急に周りが明るくなった。それまで真っ暗だった事に、何故気付かなかったのだろう――?

 後ろを振り向けば、公園内は街灯で照らされている。そして――あの、二人の姿はどこにも見当たらなかった。


「……どうなってるんだ?」


 今まで起こっていた事が夢みたいに、公園の中は何も存在しない。へたり込んでいる代行者に聞く気はしなかったが、そちらもほぼ動く事が出来ないのか、荒い息を吐いて項垂れている。

 自分を懐かしむように見つめた黒い瞳、逃げろと叫んだ少女――あれは、現実だったはずだ。それなのにリアリティが全く感じられない。争っていたはずの代行者が、今は足元で半泣き状態という事実だけが、夢ではない証明だ。


「――異空間バウンダリィに引き込まれていたんだよ」


 本当に今日は唐突な事が多い。もう驚く事もなく、背後からの声に振り向いた。

 蒼い髪の、背の高い青年――その後ろには、心配そうにこちらを見るクラウディスが居た。


「ばうん――なんだって?」


 青年の素姓よりも気になる単語に、キアは思わず尋ねた。先に聞くべきことはたくさんあるはずなのに。

 それにさして不快にも思わなかったのだろう、青年は「異空間バウンダリィだ」と答える。

「――他人には見えない空間の歪みだ。特定の種族にしか使用できない強力な魔術で生成される――君達がどうやって抜け出してきたかは知らないが、無事でよかった」

 優しい笑みを浮かべ、青年は紫の瞳を細めた。それから手袋をはずして右手をさ差し出す。


「私は、リュシカオル・クライスト――皆からは、ルカと呼ばれている。クラウディスが随分世話になったらしいね」


 青天の霹靂とは、こういう事を言うのだと思う。思わずその手を握って、キアはまじまじと相手を見つめた。

 マントを留めている金のレリーフに、同じ紋章が施された剣。服装がさして華美ではないために実感はないが、持ち物のいくつかは明らかにただの貴族が持てるような代物ではない。そして、クライストの名に、覚えのあるファーストネーム。

「驚かせてしまったようですまない。ひとまず、場所を変えようか――そこの代行者も確保しなければならないからね」


 ルカの尤もな提案に、キアははっとして振り返る。未だに震えながら――いや、完全に泣きべそをかいている代行者の姿に、不覚にも呆れてしまった。

「……ま、あえて何があったか今は聞かないけど、異空間を作るような相手に遭遇して怖くないはずはないだろうね」


 苦笑して、ルカが呟く。事実恐ろしいものを見た自分としては同意せざるを得ないところだが、腰が抜けたままの男を引きずるのはとても気が向かない作業だった。





 騎士団に代行者を引き渡し、客間に通される。クラウディスの話では、丁度公園を出た瞬間に自分たちを訪ねに来ていたルカと出くわしたのだという。

「戻ろうとしたら、キアの姿どころか、誰もいなくて……けど、あの場所に何かがあるのは解ったんです」

 そして、奇跡的にキアが戻って来た――正直な話、ルカは半分悲観的だったようだ。どうやって出てきたのか――その問いに、キアは最後に起こった事だけを詳細に話した。あの、蛇の青年の意味不明な行動はどうしても話す事が出来なかった。


「ペリドットと、アーズライトだな――」

 眉を潜め、ルカが呟く。彼はどうやら、あの二人に覚えがあるらしい。どういう事かを聞こうとすると、昔の事だよとはぐらかされた。


「――だが、アーズライトには気をつけた方が良い。うちの部下も一度手痛い目に遭わされている」

 ルカにとっても良い思い出ではないらしい、その部下と言うのは一体何をされたのだろうか――考えると、ぞっとしない話だ。

 何せ、怯えて戦意を失った相手に攻撃するような相手だ。何をするか全く分からない。


「今日はもう遅い、君達には明日、揃ってここに来てもらうつもりだったんだが……部屋を用意させるから、泊まっていくと良い」


 指摘されて時計を見れば、既にもう深夜と言って差し支えない時間だった。――この数時間で、本当にいろんな事があった気がする。

 しかし、いきなり城で寝ろだなんて言われても、そうそう眠れるはずもない。それに、宿に荷物も置きっぱなしだ――。


「宿の方には騎士団から信用ある人間を使いに出しておくよ。――君達、カイという男と面識はあるだろう?」

 その名前が出てきておかしいという事はないのだが、昼間に会ったばかりの相手の名を聞いて、クラウディスと共に顔を見合わせた。

 やはり、騎士団に所属しているような人間とは顔見知りのようだ――彼の身分を考えれば当たり前ではあるが。


「騎士団の幹部クラスの人間だ。クラウディスと会った後、彼から君達の話を聞いてね。名前も合致していたからわかったんだけれどね」

 彼にも礼の一つをさせてやってくれ――そのルカの頼みに、キアは小さく頷いた。




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