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castle of Brave  作者: 転々
16/24

16.辺境伯とお姫様

 夜を徹して行われた街道整備作業は――明け方には山の手前までは一部完成していた。

 オベロンの能力で森の木々をどけてもらい、アースゴーレムで気がどいただけのデコボコした道を平らに固めて整備させた。

 そしてストーンゴーレムに城の資源としてある石材を加工させ、無駄に大量に呼び出した召喚者達に並べさせた。

 ラージホーンブルの様な四つ足系の魔物が何体か召喚されていたので荷車を引かせて石材を運び、リザードマンやレッサーデーモンなどに街道用の石材を並べさせた。

 仕上げにアースゴーレムに石材と地面の隙間を埋めさせてた。

 幅三メートル程ではあるが、石畳の街道がトンネル手前までではあるが完成した。

 実際の街道は十メートル程あるのだが、時間も人でもないのでとりあえず今回は諦めた。

 

(というかさ、なんで国王である俺が徹夜までしてこんなことしないといけないんだよ!)


 と内心思っていたが、他の大臣などもストーンゴーレムに加工させる石の運搬などの指示を今までしていたのだから、流石に俺も文句を言うに言えないんだよね。

 そして作業が完了したことを皆に伝え「とりあえず休め!」と言って解散させた。

 大臣たちからは今後の話をしたかった者達も居たようだが、その辺りはバジル丸投げした。

 兵士や資材の使用権限、それとレア相当までのアイテムの使用権限だ。

 兵士は口頭で動かせるし前にバジルが資材の使用許可を貰いに来たように、許可さえ与えていれば勝手に使用できるのだ。

 アイテムの使用権限についても同様で、俺はコンソールを操作すると直接取り出せるが実際には保管庫という所にあるらしい。

 保管庫はゲーム時代からあった存在だったが、あの当時は略奪されない資源が保管されているだけだと思ったんだよね。

 それはさておき、流石に徹夜で眠すぎるのでさっさと部屋へと転移する。 

 部屋に転移した俺はそのままベットにダイブした。

 体の奥からやってくる疲労感と眠気に抗わず、俺はそのまま眠りに付くのだった。



「バジル様先程の件なのですが」


 バジルにと話話しかけるのは国務大臣の補佐官を務める役人だ。

 彼は上司である国務大臣の指示により、バジルへ許可を貰いに来ているのだ。


「ええ、構いません。相手が国賓である以上その程度は必要でしょう」


 いつもの優秀な執事然とした態度で補佐官に対応するバジル。

 執事長と言う肩書はあるが、本来であれば補佐官の方が立場は上のように思えるのは当然だろう。

 しかし、バジルに話をしている役人は己の上司と向き合うように丁寧に対応している。


「しかし、よろしいのでしょうか? これほどの兵を動かすとなれば本来直接ご許可が必要と思いますが」


「ええ、本来であればそうでしょう。しかし、今は陛下には休みが必要です。それに陛下があれだけの事をされた相手に何かあった場合問題になりますからね」


「畏まりました、それではこの書類を軍の方へ回してまいります」


 役人は丁寧にお辞儀をした後部屋を退出していった。

 彼が持っていた資料には俺の客――すなわち国賓である辺境伯と王女らの護衛と道中の安全のために必要な兵士の手配に関する者だった。

 通常このような話は軍務大臣と話すのが普通なのだが、兵士を動かく権限を持つのはこの城では唯一俺だけだ。

 そして、その権限を一時的に譲渡されているのがこのバジルであり、現在王の代理としての立ち位置にあるバジルに皆腰が低くなるのは当然なのだ。


 そしてバジルの元には次々と役人たちが入れ替わり立ち代わり面会に来て、バジルはその相手をしていくのだった。


 

 国務大臣であるウォルト=ケードは、自身の執務室で役人達とすり合わせをしていた。

 彼は先ほどまで国王と共に街道整備をしていたが、現在はその他の調整の為に戻って来ていた。

 当然彼も国王と同様に徹夜で作業をし、疲労を色濃く残した顔をしている。

 

「閣下、会食場の配置なのですが」


「それは執事長とメイド長の二人に任せてある」


「しかし、正確な人数が分かっていないのですが」


「そこは陛下に今回の件を任命された兵が部隊と合流した際に連絡してくる」


「それでは時間が……」


 国務大臣もそんなことは当然わかっており、苦虫を嚙み潰したよう顔をする。

 しかし、その担当は自分ではなく他の者の担当なのだ。


「大丈夫だ。バジル殿とポルジャー殿に任せておけば問題ない。人手が足りなければ宰相に連絡して確保するだろう」


「わかりました。一応こちらの方でも何人か人手を出しておきます」


「ああ、任せる」


 役人が退出するとケード大臣は引き出しから瓶を取り出し、ふたを開け一気に中身を飲み干す。

 すると見る見るうちに顔色が元に戻って行く。

 大臣が飲み干したのはゲーム内でポーションと呼ばれていたものだ。

 このポーションの効能は、体力回復と疲労回復の効果を持つ物だが――本来一般人に使うような物ではない。

 これは本来操作するキャラクターが戦争に負けたり、連戦して疲労した時に使う薬なのだ。

 そのような物を一般人が飲んだ場合……ブラック企業が喜びそうな超回復してしまうのだ。


「やはり疲れた時はこれに限るな。本当は休みたいのだがまだまだやることは多いからな」


 そんな愚痴を言っていると扉をノックして新たな役人が確認の為やってくる。


(やれやれ、この国にとって大事な客様と言うのは理解しているが、こんな急に参られると困ってしまうな)


「ケード大臣この件なのですが……」


 その後も大臣の元へは役人が幾人もやって来る。

 それが収まるのがいつの事やらと考えつつも、目の前の資料に目を通し役人たちに指示を出していくのだった。


 皆が慌てながら受け入れ準備をして居た頃、カミネーロの街からある一団が出発していた。

 最前列を歩くのは案内を任されたライマーと焔蜥蜴、その後方には装備がバラバラの者達が続く。

 そして更に後方では、馬車と馬車を守るように大勢の人間で囲んでいる。

 最後尾にはまた装備がバラバラの者達と荷車が数台続いている。

 傍から見ればてんでバラバラな一団なのだが、これには色々理由がある。

 先頭の案内人としてライマーと焔蜥蜴はわかると思うが、その後ろに居るのは冒険者達である。

 冒険者達は兵士と違い対魔物に特化した狩人とでもいう存在で、先頭集団は索敵や戦闘に特化した者達だ。

 その後方の馬車と兵士たちだが、注目すべきは馬車三台のうち一台の他の物と違い装飾の施された豪華な馬車だ。

 これには辺境伯と第四王女が同乗しており、その護衛として周囲に辺境伯の私兵が百名ほどいる。

 他の馬車一台は王女の世話係達で、もう一台はギルドの幹部メンバーが乗車している。

 そして最後尾の冒険者と荷車だが、荷車は村娘達を運ぶための物で冒険者達は実力は低いがその護衛と言う事になっている。

 冒険者達は周りの仲間たちと会話しながら歩いているが、兵士達は私語は無く黙々と金属鎧を鳴らしながら歩いている。


 周りが静かに歩く中、飾りの付けられている馬車内では男性一人と女性四人が同乗しており、その中の一人の女性が男性に話しかけている。


「叔父様。今回の転移城は一体どのようなお城なのでしょうね」


「ふむ。使者殿が言うにはこの城は一般的な城と聞いている」


「もう、叔父様! そう言う事ではありません! どんな人たちが居るんでしょうって事です」


 一人は明るい茶色の髪をした見目麗しい女性。

 もう一人は顔に幾重にも深いしわが刻まれた、一見頑固で強面の様な感じの初老の男性だ。

 男性は女性の言葉を聞くと口の端を上げ僅かに笑う。


「わかっている。使者のライマー殿と話をした感じでは、中々優秀な王とその側近たちが居るようだ」


「むぅ! 叔父様はわざと言ってますよね!」


 頬膨らませながらプンプンと怒る女性を見て、男性は堪え切れず笑いだす。


「いやいや、すまない。その反応なのが昔の妹にそっくりでな。少々からかってしまった」


「お母様にそっくりなのは当たり前です! だって娘ですから」


 女性は少し寂しそうな表情をしながら言葉を返しながら、遠くを見つめるような視線を馬車の外に向ける。

 小さく息を漏らした男性は目を閉じで何かを考えていた。

 車内に沈黙が続くかと思ったが、その沈黙を女性が破った。


「お母様の時はあのようなことになってしまいましたが、今回はそのようなことにはさせません」


 力強い目をした女性が男性を見つめる。

 それに男性が一瞬目を見張る。


(やはりこの子はあいつの娘だな。あいつはどんな時でも常に前を見続けたからな)


 一瞬思いに耽る男性だが、すぐに取り繕いまじめな話をする。


「おそらくこの国の王は善政を敷いているだろう。そうでなければあのライマー殿のような者を送り出してくることはないだろう」


「そうですわね。我が国も元は転移城の末裔、あちらの王と話が合うかもしれませんわね」


「そうだな。いや、そうでなければまたあのような……」


 男性はある国のことを思い出す。

 強力な軍を持ち、大陸中央部で恐れられるその国のことを。


「叔父様大丈夫ですわ。私がそんなことはさせません」


 昔の妹を思わせるその強い意志を宿らせる瞳に安堵しつつ、彼女の未来について考えてしまう。


「……すまない」


「それが私に課せられた役割ですから」


 少し寂しく笑う姪の笑顔に己の力不足を実感しつつも、今回の対話は成功させなければと男性は強く思うのだった。

 馬車の中にいるほかの者たちは二人の会話に耳を傾けつつも、誰も彼らの話に口をはさむことはなかった。


 馬車はそのまましばらく街道を走り、森の近くまでたどり着く。

 森に沿って街道は左右に向かっているが、彼らが向かう先はこの森の奥。

 先頭を歩く冒険者達はこの森の危険性について十分すぎるほど熟知しており、彼らは周囲に敵対的な気配がないか気を張っている。

 

「ここから先は危険地帯だが、本当にこの奥に向かうのか?」


「はい。そこの間道の先にある広場のあたりに私共の部隊が待機しております」


 ライマーが示す先には馬車がギリギリ通れる道があり、それは冒険者たちも知っている道だった。

 そして、その広場と呼んでいた場所は冒険者たちが森に入るときの野営地として使われている場所で、そこに十分な人数が待機できることも知ってはいた。

 しかし、その十分な人数というのは冒険者の言う十分であって、無理矢理入っても百人程度しか入れないことを彼らは知っていた。

 ライマーの言葉に首をかしげながらも、先行偵察として冒険者の一部がライマーたちと一緒に間道を進んでいく。

 

 鬱蒼とした人の手で管理されていない森は昼でも薄暗く、間道を外れたらどこに迷い込むかもわからない。

 そんな森からいつどんなものがやってくるかわからない状況に、冒険者たちは緊張を強いられる。

 先頭を歩くライマーと魔導兵の背を見つめながら、徐々に広場へと近づいていく。


「な、こ、これはいったい……」


 冒険者の一人が驚きのあまり叫び声をあげる。

 本来であればその行為に周囲の冒険者達は注意をするのだが、他の冒険者達も彼と同じように驚き固まってしまっていた。


 彼らの目の前にはいつもの広場はそのままだったのだが、その先に幅十メートル程の道ができていたのだ。

 これは昨夜オベロンによって森の木々をずらした結果であったが、冒険者たちにとってはいつの間にかできた道は奇妙としか言いようがなかった。

 そこに整然と居並ぶ魔導兵達。

 そして、彼らに守られるように広場でくつろぐ娘たち。

 その異様な光景に冒険者たちが驚くのは仕方のないことだった。

 焔蜥蜴の面々はそれを見て苦笑いを浮かべていた。


 驚く冒険者たちを無視して、一人の兵士がライマーのほうへ駆け寄ってくる。


「ライマー百剣長」


「どうした」


「大臣のほうから――」


 兵士が何か耳打ちをするとライマーは頷いた後、冒険者たちに向き直る。


「まずは皆さまここまでご苦労様でした。今しがた国のほうから皆様の受け入れ態勢が整ったと連絡がありましたので、これから皆様を城へとご誘導させていただきます。それと、彼女らの保護をお願いします」


「わ、わかりました。後続の者たちに連絡いたします」


 冒険者たちのリーダーらしき男がほかの冒険者たちに指示を出す。

 その声にハッとし、何人かがそのまま走って森の外へと駆け出して行った。

 駆け出して行った冒険者たちを眺めながら、リーダーの男は心の中で叫び声をあげていた。


(おいおいマジかよ! これだけの軍勢が目で見つけるまでに見つからずに待機しているだと!? そんな奴らが迎えに来るやばい国に行くのか俺たちは!)


 周囲の冒険者たちも同様に考えていたようで、目が合ったほかの者たちも全員血の気の引いた顔で力なく笑っていた。


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