15.訪問者達
明日に備えて早めに体を休めようとしていた矢先、派遣していたライマーから王女も訪問してくると聞いた俺は急遽バジルたちを呼び出して緊急会議を行う事にした。
「陛下集まりました」
「うむ」
バジルの言葉に頷き、俺は眼前に集まるこの国の責任者達に目を向ける。
俺は部屋に呼び出したバジルと相談し、責任者達をこの会議室に集めて話し合いをする事にしたのだ。
軍務大臣や内務大臣などのクラスから、旅館の女将まで様々な人が集められている。
夜も遅い時間に悪いとは思いつつも、この国の今後の事を考えれば必要な事だと割り切ることにした。
そして、俺席から立ち上がり全体を一瞥した後今後の対策について話始める。
「皆者良く集まってくれた。皆は現在我らが国に起きていることはある程度知っていると思うが、先日保護した者達の一部を街へと送り届けた際にこの国を訪問したいと連絡があったのだ」
席に着いている者達は静かにうなずきながら真剣な表情で俺の話を聞いている。
「訪問してくる者達は、その街の領主並びに保護した冒険者達が加入しているギルドの者――現在我が国の隣にあるデルシア王国の第四王女とその側近と言う事だ。そのことについて皆に検討をして貰う」
そう言って俺は下がってバジルと交代する。実務的な事であればバジルに任せてしまった方が無難だからね。
俺の発言にさっきまで静かに聞いていた者達がざわめき始める。
そりゃそうだよね。普通こんな第一種接近遭遇の様な状況に国のお偉方――と言うか、お姫様がわざわざ来ると言うのはあり得ない話だ。
偶然辺境伯の所を訪れていたにしても、何故その国の姫がわざわざやってくるのか不思議で仕方がない。
まあ、第四王女と言う時点でかなり立場は低いのだろうしそれなら何かをなして――と考えなくも無いだろうが……いや、相手の性格などが分からない以上これを考えても仕方がないな。
「ここからは私が代わりに説明させて頂きます。現在我が国と繋がる街道はなく、山林を徒歩で来ていただくかグリフォンなどでお迎えする必要があります。ただ、今後の事を踏まえ何かしら検討しておく必要があると陛下は考えておられます。それと、来賓の対応をする人選や諸々の調整をする必要がありますので、そちらの検討もお願いします」
バジルの言葉を発端として、室内は二つの塊に分かれて話し合いが始まった。
一つは先に話したこの国へ来賓を安全に連れて行くための話し合い。
もう一つは、来賓を接待や身の回りの手配をする話し合い。
先の話し合いは軍務大臣が主体となり、鍛冶の屋や建築の取りまとめの者達が。
後者は内務大臣とバジルが主体となり、女将やメイド長などが参加している。
まあ、内務大臣は時折軍務大臣に呼ばれたりもして両方の話し合いに参加している。
「(はぁ……とりあえずはこれの件は彼らに任せるとして、俺が出来そうなことを再度確認しよう)」
コンソールを開いて何か使えそうな項目が無いか再度確認する。
しかし、コンソール内の項目はゲームの時とほとんど変わらず、やはり城の中の設備にしか操作は不可能の様だ。
他に方法としては……今から兵士達を駆り出して木の伐採をする? でも切り株の処理方法とか分からんし、出来たとしても残り一日も無い状態じゃ道は出来ないな。
そうなると、魔法兵や竜兵で焼き払ったりする方法はあるけど、火災の影響がどこまであるか分からないし色々な物に影響が出るから無理っぽいな。
「うーん、装備品を渡したとしても数に限りがあるしその程度じゃどうにもならないだろうし……あー地形罠を作る様に何かできればいいん……だけ……ど? 」
独り言を呟いていると、何故か地形罠の事が急に思い出された。
地形罠とは、他の城と戦争をする場合に戦闘区域付近に先立って罠を作る行為だ。
それを行うには魔導書と呼ばれるアイテムで特定の魔獣を召喚する必要があるのだが、魔導書にはランダム魔導書と特定魔獣召喚魔導書があり、前者は無課金者でも大量に確保可能だが後者は基本的には課金アイテムセットに含まれる。
例外として、他の同盟員が課金した際に配られる箱から低確率で入手するか、イベントの上位報酬などでしか手に入れることが出来ない。
その魔導書である特定の魔獣――例えばマッドゴーレムであれば敵が攻めてくる方向に沼地を作ったり、ストーンゴーレムであれば防壁扱いをしたりする。
そしてレア魔獣のノームを召喚した場合、地下に巨大な空洞を作成してもらい一定人数が乗ったら陥没するようないやらしい落とし穴を作成できる。
「――そうか! ノームとウッドゴーレムを召喚できれば今日中に街道整備が可能だ!」
俺が一人で納得して声を出した結果――室内の会議しているメンバーから一斉に視線を向けられてしまった。
そして、歓待組はそのまま会議に戻ったが送迎の問題を考えていたメンバーがポカンとした表情で俺を見つめていた――そして一斉に俺へと詰め取ってきた。
「へ、陛下。それは誠にございますか!?」
「おいバカ、陛下が適当な事を言う訳ないだろ! 陛下、どのような方法があるのかもしよろしければお教えいただきたいのですが」
「ノームやウッドゴーレムと申されましたが、それはあの伝説の召喚書を使われるのでしょうか!?」
「「「陛下!?」」」
こちら側は暑苦しいオッサンばかりだったので、詰め居られてかなり腰が引けて椅子から滑り落ちそうになった。
それにしてもこの食い付きようは予想外だ。
「わ、わかったから――ん、んん。説明をするからまずは皆の者落ち着け。」
「「「っは!」」」
内心ためため息をつきつつも、気を取り直して街道整備の可能性について説明する。
「必要なのは魔導書にてウッドゴーレムとノームを召喚する事だ。ウッドゴーレムに山までの木々を脇に避けさせ、ノームを使い山の反対側までトンネルを作らせれば問題ないだろう」
まあ、実際にはかなり問題ありありなんだけどね。
ウッドゴーレムはランクが低いからランダム魔導書でしか召喚できない。
最悪何十回と使わないといけないが、よっぽど召喚する事が可能だ。
ただし、ノームの場合は最高ランクの魔獣扱いになっているからランダムでは低確率でしか出ないので、特定召喚魔導書を使う必要が出てくるんだよね。
一応ある程度は持っているが、この世界で補充する算段が取れないので本当は使いたくはないんだけどね。
言ってしまったこともあるので、仕方なしに城の外で試しに魔導書を使ってみる事になった。
先程俺の周りに集まったメンバーと一緒に城の外へ行き、コンソールを操作して魔導書を出現させる。
「それでは始めるぞ」
俺はそう言ってから魔導書を開く。
そこには俺では読むことのできない不思議な文字が書かれており、実際に意味があるのか分からないその文字へ俺は念じながら手を置く。
すると、魔導書は仄かに赤く光を発したと思ったら、俺の包み込むように幾重にも魔法陣が浮かび上がる。
「おお! これが陛下のみが使えると言う魔導書……」
「何とも言い難い美しさだ」
周りの雑音が少し気になるが、俺はウッドゴーレム出ろウッドゴーレム出ろと心の中で念じる。
そして魔法陣は俺から離れ地面の上へと移動していく。
俺の視界には『魔導書発動位置を決定してください』と言う言葉が出て来たので、森と城との間の空間に魔法陣を移動さる。
「我との契約を元に友なるものよ――顕現せよ!」
少しかっこつけて魔法陣へと手を伸ばしながら叫ぶと、魔法陣はバチバチと電気の様な物を発してその中心から召喚されたものが現れる――これは……マジか。
ギャラリーと化している者達からもざわめきが起こっている。
「じゃっじゃじゃーん! あれ? 久しぶりだね。元気にしてた?」
魔法陣から出てきたのは、体長十五センチほどの緑色の三角帽子をかぶった髭の生えた小人――ノームが現れた。
内心ガッツポーズを決めながらも、冷静にノームと会話をする。
「久しぶりだなノーム。 今日はお前に頼みたいことがあるのだ」
俺はそう言いつつ、コンソールを操作して茸セットを取り出してノームへと渡す。
「流石わかってるじゃん! それで、今日は何をするんだい? また大群相手に落とし穴? それとも進路妨害の擁壁でも作るのか?」
「いや、今日頼みたいのはあの山の麓から反対側の麓までトンネルを作って貰いたい」
「いいよー。大きさとかはどうする? 人が通れるくらい? 馬が掛けれるくらい? それともドラゴンが通れくサイズ?」
「ふむ。今回は高さ三メートルで幅十メートル程で頼む。ああ、トンネルが当分壊れないようにしっかりとした作るにして欲しいのと、数メートル間隔で燭台が置ける程のスペースと作ってくれるとありがたい」
「ダイジョブダイジョブ! 地震とかが来ない限り壊れないような頑丈なの作っておくよ! じゃあいってくるね~」
「ああ、頼んだぞ」
そう言ってノームは猛烈な勢いで俺が指示した方向へと駆けて行った。
ノームの端の速さは人の数倍はあるから、恐らくそんなに時間もかからずに開通させてくれるだろう。
トンネルは問題なく開通できそうだし、ちゃっちゃとウッドゴーレムを召喚しちゃかね。
「……我との契約を元に友なるものよ――顕現せよ」
魔法陣がバチバチと音を立てて現れたのは……人と同じ様な大きさの背中に蝶の様な鮮やかな羽根を持ったオベロンと言う精霊王だった。
ステンドグラスの様な色彩をした半透明な羽根がとても美しい美青年だ。
「よ、ようやく……予定してたものとは違ったと言うかそれ以上の者が出て来た」
「やあ、久しぶりだね。にぎやかなようだけど、今日は僕にどんな用事があるのかな?」
穏やかな物腰の中にも気品の様な物を感じさせるオベロンをみて、俺は何とも言えない感情が沸き上がる。
俺の周囲には既に十数体の召喚体が存在し、これまでの失敗の数が伺える。
「オベロンよ、ここからあの山の麓にあるトンネルまでの樹木を避けるようにして欲しいのだ」
「ああ、なるほど。君は無駄に木達を切らずにどいてもえらる様に僕を呼んだんだね。良いよ、自然を愛する君の為に皆には少し移動してもらうよ」
オベロンはふわりと数十メートル程浮かび上がったあと、トンネル方向に向かって軽やかに飛んで行った。
彼が羽ばたくと虹色の鱗粉の様な物が舞い、それが木々に触れると木が生きているかのように動き出し、じわじわと森と山までの街道が出来上がっていった。
「ああ、君に言われていたことじゃなかったけど、トンネルの先に居た君の部下たちの辺りまで皆には移動してもらっておいたから。それじゃあまた何かあったら呼んでね」
数十分後、何故か戻ってきたオベロンはそう言いながら薄れて消えていった。
トンネルからここまで街道が出来ればいいやと思って忘れていたことを、オベロンが気を利かせてやってくれたようだ。
いやはや、ゲームの頃とは違い本当に自分の意思で動いていい方向へ持って行ってくれるのは、嬉しい誤算だった。
「それと……あとこれをどうしようか……」
俺の周りにいる失敗した召喚された個体達。
ワイバーンの二体は既に野営している兵士達を護衛するため向かわせ、ストーンゴーレムにアースゴーレムはまだ使い道があるけど……さて、他の者達はどうしたものか。
リザードマンやレッサーデーモンなんて普通に雑魚狩りにしか使えないし、ラージホーンブルなんてでかいし森に入る事すら出来ない大きさだし……どうしたものかな。
「まあ何かやれることはあるだろうから、まずは道の改良と洞窟内の灯を設置しないとな」
「へ、陛下。この時間から街道の整備をなさるのですか?」
俺に声を掛けて来たのは、ギャラリーと化していた初めに召喚をした時に騒いでいた内務大臣だった。
「ああ、召喚した者達の活動時間の問題もあるから今から行わなければならない。それに、彼等は召喚した私の言う事しか聞かないであろうから私が行うしかあるまい」
「左様ですか。それでは迅速に作業を進めるために――まずはなにから行いましょう?」
これで内務大臣かよと内心がっかりしつつも、俺は石材と光石の手配をして街道整備に当たるのだった。