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castle of Brave  作者: 転々
14/24

14.領主と王女

 俺が再び目覚めたのは昼前だった。

 

「やばっ! 通知は――今の所なしか」


 焦ってコンソールを呼び出すが、今の所戦闘をした通知のは来てはいなかった。

 戦闘以外の通知は来ていたので確認するが、魔物の解体が完了した位しか通知は来ていない。

 魔物の解体結果は適当にインベトリへ収め、マップを開き行軍状況を確認する。

 

「予定より遅れている感じはするな……」


 早朝に会議の時に聞いた予定出発時刻は朝の七時で、現在は既に十時を回っているが道程の半分ほどしか到達していない。

 少し気になって兵士とリンクしてみると、今は山の中腹程で休憩している様だ。

 

「――なるほど、そう言う事か」


 休憩しているのは主に村娘達で、兵士達は周辺経過を行っている。

 村娘達はかなり疲労している様子で、その世話を焔蜥蜴がしてくれている。

 彼女たちは兵士や冒険者ではないので体力が無いし、そもそも女性と言う事を考慮していなかった俺の責任だな。

 どうしたものかと悩むと、見覚えのある一人の兵士がこちらへ駆け寄ってくる。


「――陛下! 申し訳ございません!」


 俺がリンクしている鎧に勢いよく頭を下げてきたのは、この部隊の指揮官を務めるライマーだ。

 彼は予定より大幅に遅れている行軍について謝罪しつつも、彼女たちに無理をさせないようにこまめに休憩を取って居ることなどの報告をしてきた。


「――ですので、予定の三倍程の時間がかかってしまう恐れが……」


「これはお前の責任ではない。我が行軍基準を貴様らで計算したのがそもそも間違いだったのだ。彼女らと焔蜥蜴の保護は最優先事項であるから、お前の判断は正しい――のだが……」


 どう対処していい物かと考えながら辺りを見渡すと――数台の荷車が目に留まる。

 

「そうか、あれを使えば――」


 今思い付いたことをライマーへ伝えて検討させた後、実行させる。

 荷車――それは、千人以上の部隊が出撃した場合に部隊に付属されていると言う輜重用の荷車だ。

 ゲーム時代でもされてはいたが、戦力としては反映されずただのゲームのエフェクトの様な物だと思っていたのだが、今の様に現実になったのであれば必ず必要になる物だ。

 俺が考えたのは荷車で運んでいた物資を書く部隊百名で分散して持ち、その空いた部分に村娘達を乗せて運ぶと言う事だ。


「ふむ。これである程度行軍速度は確保できるな」


「予定より多少遅れる事にはなりますが、昼過ぎには街道へ辿り着けるものと思います」


 残り半分ほどなので通常行軍なら二時間もかからないが、いくら魔導兵でも荷物を持っているからもう少しかかる――って、それだとまた休憩なしになるな。

 

「よろしい。但し、無理をするなよ。多少遅れたとしても夕刻までに焔蜥蜴達が街にたどり着ければ問題ないのだからな」


「陛下のご指示承りました!」


 ライマーは実直な指揮官ではあるので、俺の指示を正確にこなしてくれるだろう。

 それに、指示を出さなくても休憩をこまめにやっているのだから、あまり心配する必要もないかもしれないけどね。


「それでは行軍を再開せよ!」


「っは!」


 彼が指示を出しに行くのを確認した後、俺はリンクを切って意識を元に戻す。

 

「ふぅ。とりあえずこれで問題なく街へと行くことが出来るだろう。まあ、帰還は明日以降になるだろうけど――まあ問題ないだろう」


 その後もマップで確認していたが特に問題なく行軍を進め、一時間ほどで丘の頂上に到着して休憩に入っていた。

 彼らの休憩に合わせ俺も昼食を軽く済ませて部屋に戻り、再びマップで状況を確認しつつコンソールを操作する。

 ライマー達は午後三時頃には街道付近の森へ到着した。

 丘を下り始めたあと数回小規模な戦闘があったが、兵士達が問題なく処理をしていた。

 流石に相手が弱すぎて装備の特殊効果の確認はできなかったけど、最優先ではなかったから問題はないだろう。

 

 街道まで焔蜥蜴を護衛した後、焔蜥蜴とライマーが街へと向かっていった。

 何故ライマーまで街へ行くのかと言うと、表向きこの転移城の事を領主へと説明させると言う事だが実際には――。


「兵士が歩いた範囲はマップ更新されるから、街までのルートは確認しておかないとね」


 ライマーが焔蜥蜴達と一緒に街道を歩いて行くのだが、予想していたよりもマップの更新範囲が広い。

 森の中を部隊で進ませたときは半径五十メートル程だったのが、ライマーは半径百メートル程の範囲が更新されている。


「これは……ライマーが特殊技能を持っているのか? それとも剣を持たせたのが影響しているのか? 」


 何が違うのだろうかと考えたいたのだが、結果は簡単な話だった。

 

「――なるほどな。まあ、そう言われればそうだよな」


 森林の中では視線が通り辛く、街道の様な場所では見通しが良い為索敵範囲が広がったのだ。

 これは途中索敵範囲が減ったり増えたりしたため、その辺りに何かあるかと確認したらわかったことだった。

 

「これはこれで、良い事が分かったな。さて、あとは焔蜥蜴とライマーが上手くやってくれるといいが」


 出発前にバジルからライマーへ、領主相手への指示や焔蜥蜴との打ち合わせをして貰っているからよっぽど大丈夫だと思う。

 多分俺が話をするよりもよっぽど彼等の方が上手く話が出来るだろう。


「果報は寝て待てってな……まあ寝ないけど」


 先鋒との折衝は彼らに任せて、こっちはこっちで色々やらなければならない。

 俺は相談相手を呼ぶ机にあるベルを鳴らす。


 暫くすると扉をノックする音がしたので、入室を許可する。

  

「お呼びでしょうか」


 入室してきたのはバジルだ。

 

「わかっていたから近くで待機していたのだろ? さて、打ち合わせを始めようか」


 朝に顔を合したときにバジルに、兵達が彼らを送り届けた後打ち合わせをすると言う事を伝えてあったのだ。

 打ち合わせを始めようとした時再びノックの音が聞こえ、バジルが扉を開けて彼女を入室させる。


「失礼いたします。お飲み物をお持ちいたしました」


 入ってきたのはメイドのアリシアで、恐らくバジルが指示して用意させたのだろう。

 持ってきた物を机に置いて退出しようとしていたので、この爺――バジルと二人っきりで相談も嫌だったので、アリシアにも参加してもらった。

 俺に呼び止められ少し戸惑っていたようだが、バジルが頷いて許可を出したのでそのまま参加してもらった。


 相談した無い様と言うのは、現状の施設状況及び人員についてだ。

 施設状況に付いてはバジルが把握していた。


「現在、防護壁が使用不可の状態にある事は既にご存知かと思いますが、他の施設を調べた結果テレポート機能も異常がある事が発覚しました」


「どの程度の異常だ?」


 テレポート機能とはそのままの意味で、城をマップ上の任意の位置に移動させたりランダムで移動させる機能だ。

 テレポートは、ゲームで戦争する場合はこれを使って皆で相手を囲んだりダンジョン横に移動するために使用する。

 ランダムテレポートは、その名の通りランダムでマップのどこかへと飛ぶのだが、城周辺の魔物を倒したあと違う地点で魔物を狩る為に使う機能だ。

 テレポートを使った方が良い場所にピンポイントで行けるのだが、ランダムの方がコストがかなり安いので皆そっちを使っているんだよね。


「ランダムテレポート機関が消失しておりました」


「なに!?――ふむ、本当だな」


 慌ててコンソールを操作すると、機能一覧からランダムテレポートが消えてしまっていた。

 もう一つのテレポート機能は残っているが、何故かグレー表示になっている。


「その影響でテレポート機関の不具合が発生しており、現在城を移動させることが出来なくなっております」


「修理にはどの程度かかるのだ?」


「技師を招集してみませんと分かりませんが、数ヶ月は掛かる物かと……」


 今現在の状況的には数ヶ月城が動かなくても問題ないんだけど、いざという時に転移が出来なくなっていると言うのは中々厳しいものがあるな。

 だけど、いきなり襲い掛かってるく国家なんかはよっぽど無いだろうから、当分修理出来て居なくても問題ないだろう。


「テレポート機関の修理の手配をさせておけ。他には何かあったか?」


「陛下が新しく建てられた施設以外に異常はございません」


 俺が新しく建てた施設を異常と言い切るバジル。

 今まで建築する事が出来なかった施設が急に建てば異常なのだろうけど、それを堂々と言うのはどうかと思うぞ?

 バジルだから仕方ないのか。


「色々試行錯誤する必要があると思ってな。それに、まだ城内にはスペースがあるのだから有効活用しなければならない」


「かしこまりました。ですが、出来れば先にどのような施設を作るのか教えて頂いた方が後々問題がございませんので」


 いちいち面倒だなと思ったが、俺が建てた貴族屋敷の扱いについてちょっとゴタゴタがあったそうだ。

 王が新しく建てた屋敷に誰が入居するのか?

 今後も増えるのであれば順番はどうするのか?

 そう揉めながらも、わざわざ建ててくださったのだから早く住まない不敬ではないのかと誰かが言いだし、結局宰相が入居して問題は解決されたとの事だ。

 

 まあ、そんなことがあったのだから異常と言いたい気持ちもわかり、次からは気を付けると言ってこの話は終わった。


「では次に、来賓を迎える人員についてだが……」


 これについてはバジルに丸投げしたい気持ちになりつつも、この国にどの様な人が居るのか確認するために話をしたのだ。

 俺が王として君臨するのは――まあいいんだけど、その配下についてはゲーム内ではあまり言質されておらず、初期の説明NPCの一部しか覚えていない。

 流石にそれではまずいと思い、わざとこんな事を言ってみたのだ。


「どの程度の者が来るかによりますが、カミネーロ領の領主であれば辺境伯とお聞きしておりますので、陛下と文官数名、それとある程度の知識のある貴族を――なるほど、ケード伯爵をお呼びするのが良いでしょうな」


 ケード伯爵を呼ぶと言われアリシアは一瞬驚いていたが、これはバジルが俺の思惑をよくわかってくれた采配だ。

 ケード伯爵はアリシアの父親で、宰相補佐官兼国務大臣と言う地位に付いている実務的な所では最高位の地位に居るので、俺が彼女を気に入っていますよと伯爵に言外に伝えることが出来るためだ。

 因みに他の文官も基本的には貴族であるのだが、そこまで地位が高くなかったり若輩者だったりするとの事だ。

 相手が王族などだったら宰相や長官を呼ぶ必要があるらしいが、よっぽどそんな事にはならないだろう。


「人員はそれで問題ないだろう。場所は王城の食堂になるだろうから、城内の者達にもその旨を伝えておけ」


「そのように手配させておきます」


 その後も細々とした打ち合わせをした後、バジルとアリシアは各々仕事へ戻って行った。

 打ち合わせをしている間にある程度時間が経って居たので、食堂で夕食を食べた後――昨夜と同様に風呂に入っていたら通知が来たので手早く済ませて部屋に戻る。


 通知はライマーが俺に送ったもので、どうやら街道の部隊の所まで戻っている様だ。

 コンソールを操作して魔導兵にリンクすると、それに気が付いた兵士達がライマーを呼びに行った。


「夜分遅くに申し訳ございません。至急連絡が必要な案件がございまして」


「かまわぬ。それで、一体何があった」


「ッハ。それが……」


 焦った様子のライマーを見てまさか領主がこちらに攻めてくるとか、俺が保護する村娘達の事で難癖をつけに来るのかと身構えていたが――それを超える情報に俺は絶句してしまう。


「――と言う事なのですが、いかがいたしましょう」


「……それは誠か?」


「はい。焔蜥蜴の案内でギルドと呼ばれる所に向かい、そちらで領主を呼んで頂いた際にその第四王女も一緒に来られました。明日の帰還同行するのは、領主とギルドの幹部数名と、その王女とそのお付きとの事になりました」


「そ、そうか。わかった、こちらで対応を検討する。明日の朝再びこちらから連絡を入れよう」


「わかりました。それと――私は本日街で宿泊してほしいと先方から言われたのですが、私の部隊の兵を街まで同行させてもよろしいでしょうか?」


 なぜ部隊の兵士を連れて行くのかと言うと、ライマー自身では俺に通知を送ることが出来ないからだろう。

 俺のコンソールに通知を送る事が出来るのは魔導兵を通してのみであって、人間であるライマーから直接は出せないのだ。

 この辺りの事も既に確認してあったので、俺は迷わず許可を出してまた何かあれば連絡するようにと言ってリンクを解除する。

 

「はぁぁぁああああああ……マジかよ。何でそんな事になってるんだよ、そんな事俺一人じゃ対処出来ねぇよ!」


 想定外の爆弾発言に独り言ちたあと、バジルを部屋まで呼び明日の対策を練るのだった。

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