13.カミネーロ領
翌朝――眠っているアリシアを残し、身だしなみを整えた後朝食を手早く済ませる。
ちょうど朝食が終わったタイミングでバジルが入室し、俺の側にまでやってくる。
「陛下お呼びでしょうか」
「ああ、お前に聞いておきたい事があるが――それは移動しながら話す」
「わかりました。それで、どちらへ向かいますか?」
「それはな――」
俺の言葉に納得して頷いた後、バジルと共に目的の場所へと向かう。
道中俺が昨日から気になっていたことを幾つか確認していると、目的の場所までたどり着いた。
そこでは屈強な身体をした男たちが朝から汗を流している兵舎――を通り過ぎ、その先にある堅牢な作りの司令部があった。
司令部の入り口にはフル装備の兵士が二人立っていたが、俺が近づくと二人は儀仗兵の様に綺麗動作でに剣を捧げた。
いきなりそんなことするからビビったけど、覚えてないが確かこういったことをすると治るはずだと思い、軽く手を上げたら二人は元の立ち姿に戻ってくれた。
内心(よ、よかった~。あってたよ)と思ってはいるが、今はバジルが居るから表情には出さない様頑張った。
因みにこの司令部は、有事の際に他の同盟員全員と作戦会議をする際に使われ、ここでの内容は他の同盟ん全てが見ることが出来る施設だ。
そう、作戦を練る為には必要な物がほぼそろっている場所だ。
俺はそのまま奥に進み、いつも使っていた大会議室のに向かって歩く。
そして見えて来た扉の上には【作戦会議中】と書かれた掲示板が赤く点灯していた。
入り口に立っていた兵士が俺を見つめたあと、扉を開いたので俺とバジルはそのまま入室する。
この部屋は大学の大教室の様な作りをしており、正面には超特大モニターが設置され普段であれば作戦目標のマップ等が表示され、普段なら席には皆のアバターが思い思いに座っている――はずだった。
今現在席に着いているのはこの国の兵士たちで、焔蜥蜴や村娘の護衛と盗賊の護送、そして焔蜥蜴から聞いた話を確認するため、この国に訪問する者達を護衛する会議をしていた。
この広い大会議室には二十人程の人が集まっており、一人は壇上でモニターを使って何やら説明をしている。
俺が入室してきたことに気が付いた一同は一斉に立ち上がった後、姿勢を正し付き礼を俺にしてくる。
屈強な兵士たちが礼をする姿は――ちょっと優越感の様な物が芽生えそうだったが、流石に会議の邪魔をするのはいかんよな。
「よい。会議を続けろ」
「「「っは!」」」
全員が息を合わせて返事をし、直ぐに会議は再開された。
現在会議で話している内容は、昨日の事前偵察の際に現れた魔物の種類や数、そして道中ある危険な場所の確認などだ。
モニターに映し出されているマップは俺が今現在表示できるマップと同じで、昨日索敵した情報がそのまま更新されている。
どの程度まで閲覧できるのか少し気になるが――今の所は特に制限する理由も無いかな?
少し心配ではあるが、どの道索敵は兵士たちが行っているので隠すことは出来ないから仕方ないな。
そのまま会議は進んで行き会議が終わりそうになった頃、バジルが俺に耳打ちをする。
「陛下。そろそろです」
「わかった」
壇上に立っていた兵が下がるのを確認し、俺は徐に立ち上がり壇上へと向かって歩いて行く。
俺の動きを確認した兵士たちは直ちに立ち上がり、姿勢を正したまま俺が壇上へ立ち何を言うのか緊張した面持ちでこちらを見つめている。
「休め」
俺の言葉を聞き一斉に安めの姿勢をする兵士達。
(流石に少数とは言え、恰幅のいい男達に凝視されるのは中々緊張するな。それに、偉そうにするのってなんでこんなに疲れるんだ?)
俺はそんなことを思いつつも、俺を見つめる兵士達を一瞥した後話始める。
「諸君、現在我が王国はこれまでにない未曽有の危機に直面しているのは知っているだろう」
兵士たち一同は小さく頷き力強い瞳で俺を見つめ、続きの言葉を待っている。
もし俺がここでくだらない事を言ったらどうするのだろうか――考えてしまったが、そんなことをして兵士達に逃げられたり謀反を起こされたらひとたまりもないので言うことは無い。
「同盟の国々と連絡が取れず、未知の場所にいる我が王国は孤立無援と言っても過言ではない。そして、原因不明な事だが防護壁が展開不能と言う危機的に陥っている」
壇上から見渡しながら話をすると、一部の兵士の表情がピクリとうごくのが確認できた。
その者達はこの中でも立場が上の者で、現状を良く把握している者達なのだろう。
ゲームであった頃であれば城の外には普段防護壁と言う名のシールドが張られ、それはどんな相手にも破られない最強の盾を基本的には展開している。
だが、現在防護壁は展開されておらず、敵に攻められる心配が出てきてしまっている。
それは、現在その防護壁を展開するアイテムは――一部使用不能の状態になっていたのだ。
「そんな状況下、我が国に保護を求めた者達が居た。そして、彼らからの情報で様々な事が分かったのだが、それはおいおいバジルから説明が行く。今回の作戦に関することのみ伝達するが、我が国の周囲には他の国家がいくつか存在し、保護した者達の近隣国のひとつであり、諸君らは彼らをその国送り届けてもらいたい」
今の少ない言葉だけでも何となく察している物も居るようだ。
そう、この国とデルシア王国との橋渡しをさせるための重要な仕事をこれから皆が行うのだと言う事を。
そして、言及していない他の国――ヴィンクラー帝国とは敵対する可能性が在ると言う事も。
「その後諸君らは街道付近で皆には待機し、我が国に迎える来賓の護衛しつつ帰還してもらう。魔物の跋扈する危険地帯を少数で護衛しながら向かい、そして来賓再び護衛しながら戻る。過酷な任務であろうが、諸君らならやり遂げられると信じている!」
「「「っは!」」」
「よろしい! この護衛部隊の指揮をする者は前に出よ!」
「――っは!」
急に呼ばれて驚いた仕草をした後、緊張した面持ちで前に出てきたのは二十代後半の若い兵士だった。
服装は皆と同じ服で、腰から下げた剣はバジルの事前に確認した所普通の鉄剣らしい。
服はアイテム制作や課金アイテムで変更可能なのだが、ゲーム時代その辺を全くいじって居なかったので、兵士達は立場関係なく初期の服装をしているので見わけが付きにくいんだよね。
この場には十代後半から二十代前半の者が他に九名と、他はそれなりに年の言った者達。
前者は恐らく彼の指揮下に入る隊長クラスで、他はそれよりも上の将軍的役割の者達だそう。
若い兵士は俺の前まで来ると膝を付き、俺に対して頭を下げながら自分の名前を名乗った。
「この度の作戦で指揮をとる事になりました、魔導剣兵部隊百剣長のライマーと申します」
百剣長と言うのは、百人の剣兵を部下に持つ者の階級で、軍隊で言う所の中隊長クラスに相当する。
「此度の任務は危険な任務であり、そして失敗は許されない重要な任務であることは分かっているな」
「っは、はい!」
ガチガチに緊張していて声が上ずっているのが可愛そうになってきたが、これも威厳を保つために必要な事なんだと心の中で謝りつつも、コンソールを操作しある物を手に出現させる。
「よろしい。では、ライマーよこれを持って此度の任務を成功させるのだ」
「っは! 必ず成功させます」
「よろしい。期待しておるぞ」
「っは!」
俺から剣を受け取ったライマーは、大事そうに剣を抱えたまま元居た席まで戻って行った。
ライマーに渡した剣はゲームでは序盤で製作可能な【ガーディアン】と言う剣で、剣なのに攻撃力よりも防御力を上げる防衛用の剣だ。
まあ、今でインベトリの肥やしになっていた物なのだが――バジルと相談した結果、ある事を確認するために彼に渡したのだ。
「皆の健闘を祈る! 」
大仰な身振り手振りで言った後「後の事は任せたぞ」とバジルに伝え、俺は転移で自室へ戻った。
「――ブハァ! つ、疲れたー。うちの兵士ちょっと体鍛え過ぎで怖いんですけど! いやね、今の所は皆指示通り動いてくれているし問題ないんだけど、もし反乱でも起こしたら俺速攻やられる自信あるわ。というか、アリシアから色々聞いて兵を労っておこうと思ってやったけど、もう当分やりたくないな。」
室内に誰も居ない事を確認した後、ベットにダイブして人りグチグチと呟く。
昨日アリシアと夜を共にした時、彼女のわかる範囲で国の状況を聞いてみたのだ。
その時に、兵士の事を聞くことがあったのだ。
魔導兵は兵士一人に付き魔導鎧が九体がきほんとなっており、この国の兵士の数は実際は十分の一しかいないと言う事。
兵士指揮官として魔導鎧を操作し、戦闘は魔導鎧が行うと言う事だ。
それならば兵士があそこまで鍛える必要はないのでは――と思ったが、兵士が行えない動作は魔導鎧も出来ないそうで、逆に兵士が強ければ魔導鎧もそれ相応の実力を発揮すると言う事だ。
因みに俺が視覚リンクし足り出来ているのは、どれも魔導鎧との事だった。
「ま、とりあえず、これで士気は上がるだろうからよっぽど問題ないだろうけど、一応通知だけは注意しておこう」
そんなことを考えながらゴロゴロしていると、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。
まあ、朝が早かったというか、夜が遅かったと言うか――色々あったからね。
俺が去った後、バジルが兵士達と昨日焔蜥蜴達から聞いた情報を共有していた。
まあ、実際には兵士達と言うか、剣、槍、弓の将軍と直接話して補佐達は内容を記録している。
「――現状わかっていることはこんな所ですね。あとは、お客様をお送りした際に新しくいらっしゃるお客様より、より詳しい情報を頂けると思います」
「なるほどな。中々難儀な状況ではあるな。防護壁が発動していない事から何かあったと思ったが、想定以上にまずい様だな」
「ふむ。しかし周辺の魔物達のランクはかなり低く、外壁の上から見渡した限りでは建造物は見えぬのだから、そこまでの危機と言う事ではあるまい」
「そうじゃの。聞くところによるとそれなりの冒険者?とやらでこの森が危険と言う事であれば、ここに攻めてくるような者は余程いないじゃろうとも」
バジルと話しているのは三軍の長達で、慎重派の剣将軍の発言に他の二人が反論する。
三人の会話にバジルは参加せず、情報を求められた場合にのみ発言をしている。
因みに、三人ともかなり見わけがしやすい顔をしている。
剣の将軍は頬に一筋の傷があり、槍の将軍は重力に逆らうように上向きになった立派な逃げを蓄え、弓の将軍は――毛が無い。
年齢は槍が一番若く、次いで剣で最年長は弓の様だ。
「ともあれ、陛下の発言からして隣国と友好的に話を進める必要がありそうだな」
「それが妥当だな。国を治めている者達であれば余程変な者は居らぬだろうし、わざわざ他国を攻める必要性は今の所皆無だしな」
「まあ、その辺りも今後わかって来るじゃろう。それよりも――お主の所のライマーは羨ましいのう」
「あの剣は今回の任務が成功した暁には、正式に陛下より下賜されると言う事になっております」
二人の発言に皆の視線が今回の指揮官であるライマーへと注がれる。
今彼は他の兵達に囲まれ、俺から渡された剣を皆が見せてくれとせがまれていた。
魔剣ガーディアン――それは、プレイヤーである俺からしたら只の肥やしの様な装備の一つだが、出撃する以外の時は皆持っている剣は鉄製なので、将軍たちからも羨望の眼差しが注がれていた。
「そう言えば、陛下はそれなりの立場の者達に新たに装備をお与えいただけると言う事なので、追々お三方には届けられるでしょう」
バジルの言葉に皆喜んでおり、ライマーの話から新たな装備の方へ話は変わって行った。
この辺はここに来るまでの間にバジルと相談して、将軍たちの様な立場の者達には課金ガチャの外れ装備を与え、それ以外の将官たちには図鑑を埋めるためだに制作した装備を渡す予定だ。
ただ、図鑑を埋めるために作っただけなので一つしかないので、どの立場の者がどれだけいるのかと言う事を、バジルから将軍たちに伝えてもらってリストをもらう予定だ。
ゴーンゴーンと鐘が鳴る音が部屋に響き渡ると、ライマー達は頷きあった後部屋を退出していった。
そして十数分後――外壁手前の広場にはライマー達は完全装備で集まり、焔蜥蜴と娘達を護衛しながらカミネーロ領へと出撃していった。