12.メイドと情事
現実世界ではかなり久しぶりで、この世界では初めての柔らかな女性らしい手に引かれ、連れられて先は――なかなかどうして、悪くない浴場だった。
まあ無駄に広いのは仕方がないのかもしれないが、見た感じ温泉旅館の大浴場といった感じだ。
さっきの場所と比べるとかなりシンプルのように思えるが、普通に考えればかなり豪勢なのは変わりない。
しかし、温泉旅館などでもそうだが普段と違い特別な場所に来ているという感じがして、俺は結構好きかもしれない。
そんなことを考えていたのは、全裸メイドに視線を向けないようにするためなんだけどな。
彼女たちはまったくもって気にしていないようだけど、こちらとしては目のやり場に困ってしまうんです――はい。
視線だけ動かして横を見ると、そこには美しい二つの――っていかんいかん! NPCではないとわかっているんだ、彼女たちは仕事でやっているだけ――あれ? だったら少しくらい見ても――あぁあああどうしたらいいんだ!?
え?なんでそんなことを考えるのかって?そりゃ当たり前でしょ?
こんな様々な美女が一糸まとわぬ姿で俺の手を引いてくれるんですよ?
しかも一人ではなく複数人。
そんな状況下で普通にしていられるわけないじゃん!
この状況下で普通にしていられる人なんて、不能の人か女性にまったく興味がない人しかいないと思う。
悶々とそんなことを考えているとメイドの足が止まり、はっとして思考をやめて眼前を確認すると――洗い場についただけだった。
「陛下、おかけください」
「う、うむ」
促されて腰を掛けたのは、旅館や銭湯でよくある椅子――をさらにグレードアップさせたようなものだった。
木でできていると思われる椅子に腰を掛けると、メイドたちが何やらごそごそとしだした。
二人ほどこの場から離れ、隣の蛇口からお湯を桶に入れているようだ。
ほかの三人は桶に何かを浸したかと思ったら、手に持っていたものをそれとこすり合わせた。
ああ、石鹸を泡立てていたのか。
手に持っているのはスポンジ状のもので、それと石鹸をこすり合わせ泡立てていいる。
「失礼いたします」
俺はコクリとうなずいた後、どうにでもなれという思いで身構えたまま瞳を閉じる。
すると、ふよん――というかふにょんといった感触が背中に伝わってきたと思ったら、同時に両腕にも同じような感触が伝わってきた。
「っ!?」
感触から何が行われているかわかってしまい、俺は全身を硬直させながらも本当にそれが行われているか確認するために薄目を開けた。
(か、確認のためなのだ。そう、本当にそういったことが行われているのか確認するために必要なことなんだ!)
そう言い訳をしながら開けた目に映ったのは――肌色の世界だった。
体を体で洗うという行為――それを確認したしまった俺の息子が反応しないわけもなく――徐々に何かが集まってくるのを感じた。
(ま、まて! ここでそんなものが起動しようものならいろんな意味で取り返しがつかなくなるぞ!? 耐えろ! 耐えるんだ俺の息子よ!)
しかしメイドたちの攻勢は止まらず、腕から次第に脇へ――そして胸へと移って行き――そんな攻撃に耐えきれず息子は元気いっぱいになってしまった。
(あ――終わった。絶対メイドたちに変な王と思われた。またバジルからくどくど言われるのかな。はぁあああどうしたらいいんだよ! ってか無理だろこんなのに耐えるのなんて……はぁ……)
いろんな思いが混ざり合い顔がかなり熱くなっているのは感じるのだが、さすがにこの状況から逃げ出すわけにもいかず全力で目を閉じ羞恥に耐えていたのだが。
「陛下。ご足労ではありますがお立ちになっていただけますか?」
「――あ、ああ! 」
やった! ついにメイドたちの攻勢限界点に達したんだな! そうだよ、そこから先はさすがに問題あるよね!
――と、心の中で喝采をあげていたのもつかの間。
「失礼します」
え、おい、ちょ、ちょっとま――!?
そう言ってメイド達は躊躇なく、俺の全身のすべてをキレイにしてしまった。
――いろいろされてぼーっとした意識の中、そのまま一人で風呂に浸からされ――再び強制的に着替えをさせられて部屋まで連れて行ってもらった。
俺はバフンと音がしそうなほど勢い良くベットに倒れこんだ。
「――っ! あぁああああああ! なんであんなことになってるんだよ! 」
一人さっきまでのことを思い出し、いろいろと悶々と考えてしまう。
現実の時から考えれば数年ぶり、この異世界に入ってから始めて女性と手を繋いだよ!
手を繋いだというか、ある意味それ以上の事をされたんだけど――久しぶりにこんな嬉し恥ずかし上体になるとは思っても無かったよ。
そりゃね、元の世界では家族は亡くなっていてそれをいいことにゲーム三昧で、結婚しろとか言われなくなったからそういったことから逃げてましたよ?
普通に女性は好きだよ? だけどね、ゲーム大好きでそればかりやっている俺を好きになる女性なんてそうそういないんですよ!
稼ぎがいいとか顔がいいとかなら出会いはあるかもしれないけど、そこまで大きな会社でもなく見た目もフツメンで、そもそも会社が男性のみの会社で早々出会いなんてないんだよ!
まあ、同じ会社の人はみんな結婚してるし友達たちも結婚してたから俺が動かなかっただけなんだろうけど――やっぱりゲーム面白いじゃん? どうしてもそちらへ行ってしまうのは仕方がないと思うのよ。
ごろごろしながら考え事をしていたが数分経って少し落ち着き、今度は別の事が気になりだした。
「――はぁ、それにしてもこの体は一体どうしてしまったんだ」
風呂場で見た俺の顔は、元の世界の者と一緒のようだがどう考えても若返っている。
コンソールを操作して手鏡を取り出して覗いてみると、まあ完全には一緒ではなく多少イケメン化している感じはしたが、ベースは確実に俺自身だろうと言う事はわかった。
ただ、元の年齢は三十○歳だったけど今はどう見ても二十代前半だな。
それにこの身体つき――あの弛んでいた体が嘘のように引き締まっている。
「これは転移と言うか転生と言うかのか……いや、どちらかと言うと再構築された感じなのか?」
元の体をベースに新しく体を作り替えた様な違和感を感じない体。
年齢も若返って体の反応もオッサンだったころと比べて色々と良くなりすぎているんだよな。
「ま、こんなわけわからない世界に居るんだからそれは有難いんだけど……若いって色々大変だな」
再び先程までの事を思い出してしまい、体のある部分がムクムクと反応している事に―喜んでいいやら悲しんだほうが良いのかよくわからなくなってきた。
「それにしても、王様って設定はマジで役得だな。あんな美人に囲まれて洗われるなんて、現実世界じゃ考えられなかったよな」
俺の世話をしてくれたメイド達五人は、元の年齢からしたら確実に全員一回り以上下だけど、今の俺の体からしたら皆恐らく同年代か年下だろう。
でもあの子達からしたら俺の世話なんてただの仕事なんだろうな……と言うか、あんなに美人なのになんでこんな仕事してるか不思議でしょうがないわ。
「はぁ……あんな子と結婚出来たら良いのにな~」
思い浮かべた子はメイド達に指示を出していた女性の事だ。
年齢は今基準で恐らく同い年位、茶色の髪を後ろで束ねたキャリアウーマン風の雰囲気を漂わせた美人。
ちょっと気が強そうな感じはするけど、あんな子なら俺をうまく掌で転がしてくれそうな気がするんだよな。
まあ、王様とメイドとの結婚なんてものはあり得ないだろうから無理なんだろうけどね。
現実的ではない事を考えていても仕方がないから寝てしまおう。
寝る前にコンソールを開いたら通知が来ていたことに気が付いた。
それは兵士達倒した魔物達が解体小屋へ収納されたという通知だった。
結構な数の魔物達だったので全部買いたいが終わるまでには時間がかかるようだし、今の所使い道が良くわからないからまた暇な時でいっか。
そう考えて眠りに付――こうとしていたら、扉をノックする音が聞こえた気がした。
こんな時間に? と言う思いはあったが、バジルなら伝える必要があると思ったら来るんだろうなと思い、一応の身だしなみを確認した後入室を許可する。
「――失礼いたします」
入室してきたのは初老のバジル――ではなく、先程妄想していたメイドだった。
さっきの事もあり一瞬たじろぎそうになったが(王様ロールプレイ、王様ロールプレイ)と心の中で何度か唱えて心を落ち着けた。
その間にメイドは俺のベットの脇にまで歩いて来ており、俺からの何か待ちっぽいので用件を聞いてみる。
「ふ、ふむ。こんな時間に何用か」
「陛下の夜伽に参りました」
「…………ウェ?」
メイドの言葉に意味の分からない言葉を返してしまった。
ヨトギ――よとぎ――夜伽!?
いやいや、流石に国王とは言えメイドがそんなことするわけないじゃん!
そ、そうか、夜伽とは寝ずに俺の守ると言う方の言葉だろう、そうに違いない……そうだよね?
ま、まあ、そうだと思うけど一応確認しておかないと――。
「よ、夜伽とは寝ずの番の事で合っているか?」
「いえ、陛下のご寵愛を頂くことにございます」
「(ファーーーーー! 包み隠さずご寵愛とか言っちゃってるよこの子!)」
驚き過ぎて口が顎が落ちたかのように開きっぱなしになってしまった。
役得と言うには流石に行き過ぎだし、いやまあ興味と言うか――ごにょごにょしてみたいけど、流石に無理やりそんな事させるのは問題が――あるよね?
うん、よし、流石に状況も分からないしバジルからの差し金かもしれないから、頑張って帰ってもらおう。
「ど、どうしたのだ? バジルに言われて無理やり来たのであれば気にすることは無い、部屋に戻って良いのだぞ」
「いえ、これはの義務です。陛下は今後他国の貴族などとお会いになる機会はございます。そして、我が国と何らかの繋がりが欲しいと言う事になった場合、一番効率的なのが陛下の正妃もしくは妾になる事になります。そして、陛下が女性の扱いが適切な行いが出来ないと言う言葉漏れた場合、我が国に対して途轍もない損失になります」
言わんとしていることは分からなくもない。
他国と友好関係を結ぶ場合その国と付き合って利益があるならいいが、特になかったりどちらともいえない場合身内の情を使うのが有効と言う事もわかるのだが。
俺がもし結婚していたとして、奥さんの実家が何かしら問題が起こって協力してほしいと言われたら――無い様にもよるけど無下には出来ないだろうからな。
それに、子供でも出来た日には両家の繋がりはさらに強くなり――まあ、そう言う事だよな。
「だが――しかしだな……」
「陛下がご病気などを気にされているなら問題ございません。私は生娘でありますし、もし私が陛下のお目に叶わないのでしたら他の者が代わりに陛下のお相手をさせて頂く事になります」
ははは――はぁ……この子を断っても結局他の子が来ると言うのであれば、結局逃げることはできないのだろうな。
向こうも仕事、こちらも仕事として割り切るしかないのか。
表向きそんなことを思ってはいるが、内心よっしゃ! こんな美女とイチャコラできるぞ!と、色々と盛り上がっていたりもするのは内緒だ。
「わかった。そこまで申すなら構わぬ」
「陛下のご慈悲に感謝を致します」
スカートをつまみ淑女の礼をするメイドは、どことなく品がある所作をしていた。
そして彼女はメイド服を脱ぐと、下は現代と変わらない感じのショーツを付けていたが、上は何もつけておらずその美しい二つのモノが視線に飛び込んでくる。
その様子に「……ほぅ」と声を漏らしてしまったのは、夜の月明かりに照らされた彼女がとても神秘的に見えたからだろう。
「失礼いたします」
そう言いながら俺のベットの上に乗り、俺の目の前までやってきた。
覚悟を決めて彼女に――あ、そう言えば名前を聞いていなかった。
「そなたの名前は何というのだ?」
「私は陛下の家臣でありますケード伯爵家の長女、アリシア = ケードでございます」
伯爵令嬢とはまた――いや、それ以前にやっぱり俺の国にも貴族ってのが居るのだな。
ふぅむ、その辺りもまたバジルに確認する必要があるのだが――いまは……目の前の彼女に集中せねば。
「ではアリシアよ、こちらへ来い」
「はい!」
アリシアは嬉しそうな笑みを浮かべた後、俺の元へゆっくりと――……。