10.変化
焔蜥蜴と村娘達との会食は……沈黙の中で続いていた。
皆緊張した面持ちで少しキョロキョロしながら食事をしており、どう考えてもゆったり会話をしながら取る食事風景ではなかった。
俺が何か話しかければいちいち手を止めて会話に付き合ってくれるが、焔蜥蜴の面々間まだマシだが娘達の方は完全に顔が固まってしまっているからね。
……はぁ、流石にこの場で情報収集は難しいだろうな。まあ、俺も緊張はしているがそれ以上に俺が彼らの立場なら、いつ話しかけられるか分からず味も良くわからないだろう。
彼らを呼んだバジルは先ほどまでとは違い俺の後ろに控えてはいるが、異様なプレッシャーを俺に向けてくるのは家臣としてどうかと思うのだが。
そんなことを考えながら食事をしていると、いつの間にかデザートも食べ終わり、食後の飲み物が出されていた。
流石にこのままじゃいかんよな――何かいい手は無い物か……あ、あそこならまだ良いかも。
先程コンソールをいじって居た時に思い出したあの場所へと皆を誘導する事にした。
だけど、その前に……
「どうだっかね食事の方は。口に合ったかね?」
「は、はい。とても美味しかったです。私共の様な冒険者では食べることのできないような逸品ばかりでした」
俺の言葉に一瞬皆がビクッとした後、皆の視線が焔蜥蜴ファビオに集まりそれに気が付いて皆の代わりに答えてくれたようだ。
「それは良かった。して、皆に色々聞きたいことがはあるが、流石にこの場ではあれであろうからバジル」
「ッハ!」
バジルを呼び寄せた俺は耳打ちをして、とある部屋の準備をさせに向かわせた。
人前なので変な態度はしないが、バジルはちょっと不服そうではあった。
そしてしばらくした後、バジルが戻ってきて「部屋の準備が出来ました」と言ったので皆でその部屋へと向かって歩いて行く。
食堂からしばらく歩いた先にあるその部屋の入り口にはメイドが二人程既に控えており、扉には【遊戯室】と書かれたプレートが付いている。
ぶっちゃけ、遊戯室と言うのは名目上だけなんだけどね。
俺達が近づいて行くとメイドが扉を押し開き、皆で中に入りそこにあった物は……。
「ここはいったい……」
「な、なんかキラキラ光ってるニャー」
「こ、こら、フラン大人しくしなさい」
ファビオ達が目を丸くして見つめている先にあるのは、ゲームセンターの様な場所だ。
かなりレトロなテーブル一体式のゲーム筐体から、格闘ゲームやスロットゲームまで様々な物が置いてあった。
ここにある物は普通に遊ぶことが出来るので、本来であれば遊戯室として使える場所なのだが――本命はこの奥にある部屋なんだよね。
「付いて参れ」
俺は一言だけ言ってそのままゲームセンターの中を突っ切り、奥にある重厚な扉を開けて中に入る。
そこにあるのは部屋の中心に一人掛けのソファーとテーブルがあるだけで、ほかには一切何もない部屋なのだ。
まあ、これから色々変えるんだけどね。
「ふむ、この人数なら――ここをこうして……あれとあれをそこに置いて……こんなものか」
コンソールから既に設置されている物を一旦収納して、室内マップに切り替えて五人掛けソファーを二対とテーブル、そしてさっきしまった一人掛けセットを再び設置した。
「一体何が起こって――」
「わお! 椅子と机が消えて新しいの湧いて来たのニャー!」
「「「「ッ!」」」
ファビオとフランシーヌは反応したが、他の人達は流石に驚き過ぎて固まっているように思える。
まあ、猫人族のフランシーヌは物怖じしない性格なのか、俺がその程度では怒らないと見抜いているのか分からないけど、この状況を少し楽しんでいるようにも見える。
「掛けたまえ」
俺は一人用のソファーに腰を下ろした後、皆に席に座る様に促した。
恐る恐る皆が座る中、フランシーヌだけは「フカフカなのニャー!」と言って今にも飛び跳ねそうだったので、他の女性冒険者二人に両サイドからがっちりと腕を抑え込みながらこちらにペコペコと頭を下げていた。
「さて……ふむ――いやこれにした方が良いか。あ、みんな楽にしてくれていいよ」
部屋の入り口が閉まりシステムが稼働したことのを確認した後、コンソールから装備をいつも着ている服に変更して、いつもの口調に戻して話しかける。
「「「!?」」」
「いやーやっぱり普通に話すのが一番だな。ああ、この部屋は外から完全に遮断されてるから普通に話して大丈夫だよ。会話を他の人に聞かれる心配は無いし、あのうるさいバジルもここには入って来れないしね」
そう、バジルいない! と言う事は、俺は自由だ!
とまあ、それは置いといて――流石に情報収集するのに相手が緊張していて話が出来ないんじゃ意味が無いから、皆をリラックスさせるためにこの作戦会議室に案内した。
これは俺がバジルと言う王様プレイを強要する奴から逃げるためではない――そう、これはみんなの為なんだ!
「……えっと……え?」
「まあそんなに畏まらなくていいからさ。そうだ――これでも摘まみながら話をしよう」
いきなりの事で固まっている皆の机に、コンソールを操作して茶と茶菓子をテーブルに置いた。
どうして良いのか固まっているようなので、少し時間を上げたほうが良いかなって思って俺は机に出した饅頭を食べながらお茶を飲んだ。
暫く小声で何か話していた焔蜥蜴とその成り行きを見守っている村娘達、因みにフランシーヌは茶菓子に手を出そうとして速攻で抑え込まれている。
「あの、国王様――」
「そんな堅苦しい言い方はここでは無しね。そう言えば自己紹介はまだだったね、燈遠=ランスロットだよ。ランスロットでもランスでもここでは好きに呼んでね。まあ、外でその呼び方だとちょっと問題があるから、バジルとか他の人が居ない所でね」
「は、はぁ。ではなく、ランスロット様とお呼びしてもよろしいでしょうか」
「様なんていらないんだけどねー。おいおいなれていけばいいかな? ま、なんにしてもここでは立場は無視して話す事」
皆は戸惑いつつも頷いてくれたので、本題に入って行こうと思う。
「それじゃあ――あ、焔蜥蜴の方は名前知ってるけど、そっちの子達も名前教えてくれるかな?」
「あ、あの、私はエティと言います。十七歳です」
「わ、私はアルテです。十五歳です」
急に話しかけられビックリしながらも、一応二人とも名前を言ってくれた。
この世界では成人は十五なので、一応二人とも成人済みだったようだ。
二人とも風呂に入る前はかなり酷い状況だったが、まともな格好をしているおかげでそれなりに見える。
エティは金髪の普通村娘っぽい感じだけど、アルテは赤髪で十五と言われたが見た目はもっと幼く見える。
「エティとアルテね。二人は国に戻らずにここに残りたいって話だけど、一応事情を教えてくれるかな?」
「あの、私は村を焼かれて家族は皆――盗賊に……」
「そうか。ごめんな嫌な事思い出させて」
エティは大丈夫と言っていたが、どう見ても顔が引きつっているのでやっぱり思い出したくない事を思い出させてしまったようだ。
「とりあえず、向こうの領主との話し合い結果次第にはなっちゃうと思うけど、出来る限りこちらで保護できるようには努める予定だから安心してくれていいからね」
俺の言葉に彼女は安堵した様子を見せたが、他には二人程同じ村の出身者が救出された中に居るらしく、彼女はその二人についても保護を求めて来たのでその二人の事も了承しておく。
この子、自分だけではなく同じ村の他の娘達の事もしっかりと伝えてきていることに好感が持てるね。
ただ、エティの場合は目の前で両親が亡くなっているのを確認してしまっていたらしいが、他の二人はどちらかはわからないそうだ。
なので一応保護対象として扱うが、もし家族が生きていれば返してあげたいトのことだったので了承しておく。
さて、もう一人のアルテのほうだが……彼女の場合や元々農村の貧困層だったのだが家族が兄弟が六人もいるらしく、食うに困って身売りして奴隷となったそうだ。
両親と兄と姉そして弟二人と妹という大家族のようだが、長男は跡継ぎとして残すことは確定しているし姉の方も同じ村内のものと既に結婚している。
未成年の奴隷売買は特例を除き禁止されている為、家族を助ける為に自分が売られたと言うことだ。
犯罪奴隷というわけではないので衣食住の最低ランクは保障しなくてはならず、どちらかと言うと奉公に行く感じだそうなのだそうだ。
しかも完全に無給と言うわけではなく、十年働けば一般に戻ることができるし、売った金額にある程度乗せれば買いなおすことも出来るらしい。
彼女の場合大銀貨二枚という金額で、田舎では大金だが都市部ではそれほど高値というわけではないらしく、一般の人でもその程度の借金を肩代わりすることが出来るみた。
売られた先で出会いをして借金を建替えてもらって結婚すると言うのは、よくある話みたいなんだよね。
それならそっちの方が良いんじゃないかと思ったんだけど、今の状況だとそれが少し問題らしい。
盗賊などにさらわれて救出された奴隷やその後奴隷になった者は、通常奴隷であることは違いないが傷物奴隷と言われてしまうそうだ。
他にも奴隷から解放されたとに再び奴隷になった者なども同様に傷物奴隷と呼ばれ、一般的な店では買ってくれることは無いそうだ。
傷物専門の奴隷商に引き渡され劣悪な環境下で本当に最低限の者しか与えられない奴隷として扱われるか、そういった理解がある店に拾われるか娼婦としての道しかないそうだ。
奴隷側からは買い主を選ぶことは出来ないので、こうなると後は運次第でかなり厳しくなってくる。
ちなみに娼婦の場合はいろいろ手続きや契約が面倒らしく、見目が良いとか若いなら買ってもらえさらに少量ではあるが給金がもらえるが、まあ内容が内容だけに嫌がるものが多い。
で、彼女の場合通常奴隷としての人生だと思ったら盗賊に捕まって色々された上、傷物奴隷ということになってしまったのでわらにもすがる思いで女中さんに話したらしく、そしたらいきなり呼び出されて驚いたとのことだった。
おそらく女中さんからバジルに話が行って、俺が許可したからこの場に呼ばれたのだろう。
「傷物ね~ただの被害者なのにひどい世間だな。ま、とりあえずは心をしっかり休めた後、出来る仕事を探していけばいいよ」
「あ……ありがとうございます」
アルテは深々とお辞儀をして感謝の意を示してきたので「そんな畏まらなくいいよ」といって軽く流してあげた。
あと一応他にも保護希望の人がいた場合も受け入れたあげるからそれとなく聞いてみて、と二人に言っておいた。
「さてと、焔蜥蜴の人たちに聞いておきたいことが一杯あるんだけど、まず俺の城のことって何かわかってる?」
「ランスロット様の城ですか? 立派な城で防御もすばらしいものと思います」
うーん、そういうことが聞きたかったわけじゃないんだけど……わざと広く聞きすぎたかな?
でも流石に俺みたいな城ほかに知ってる? と聞くのもあれだしな……と俺が微妙な反応をしているとフランシーヌが「ハイハーイ」といって何か言いたげだったが、他の人抑えられていた。
「フランお前は少し考えてだな――」
「ああ、いいのいいの。さっきも言ったけど普通に対応してもらった方が俺もうれしいし。それで、フランシーヌは何かしってる?」
「ハイニャー!私は フランって呼んでほしいニャ。それでニャんだけど、この城って転移城って呼ばれてるお城ニャー」
焔蜥蜴の面々はあちゃーといった表情で、村娘たちはすこし顔が引きつっているようだ。
何でそんな顔してるかわからんが、それよりもやっぱり俺以外の人もこの世界に飛ばされているようだ。
どの程度の人がどんなタイミングで飛んでいるのかわからないけど、冒険者が知っているレベルで飛んでいるってことなのだろうな。
「転移城ね。それってどのくらいあるんだ?」
「えーとニャ、廃城も合わせると数百? はあるんじゃないかニャ? 残ってる城で稼動しているのはそこまで無かったはずニャ」
「廃城って言うのは?」
「えっとニャ、なんか最初の王様が亡くなるとお城の機能の一部が動かなくなっちゃうニャ。だけど何かするとそのまま残せるら良いニャ! 詳しいことは秘密みたいで知らないニャ」
ふむふむ、多分プレイヤーが最初の王様でプレイヤーがなくなるとコンソール操作が出来なくなるから、一部の操作が不可能になってしまうのだろう。
建物や城壁などはそのまま残ってるからけど重要機能が損なわれて廃棄される城だから、廃城って呼ばれているのだろう。
ただ、その機能を何らかの方法で残すことが出来るみたいだけど、その方法は完全に秘匿されているらしい。
そもそも城が落とされることなんてよっぽど無いだろうけど、主が死ねば動かなくなる城を動かせる方法があるなら無理にでも襲いに行くこともあるだろから、秘匿するのは当たり前のことだろうな。
「ふむふむ、じゃあ今残ってる城はどれくらいあるか知ってる?」
「うーんどうだったかニャ? 大陸の中央と北の方に有名なお城があるニャ。あ、あと東部の島に――むぐむぐむぐ!?」
「す、すみません。今のは聞かなかったことにしていただけませんか……」
ファビオは冷や汗を流しながらも少し腰が浮き上がらせ、いつでも動けるような体制をとっている。
東部の島にあると言う城のことはかなりまずかったようで、フランは強引に皆から口をふさがれ悪いと思っていたのか耳も垂れ下がっているように見える。
「最後の方は聞き取れなかったけど、中央と北部に有名な城があるんだよね?」
ファビオ達とはまだ仲良くする必要はあるし、その辺は聞かなかったことにしてあげよう。
……そうじゃないと、焔蜥蜴の面々が襲ってきそうなほどの雰囲気を出してるしね。
声が震えないようにすっとぼけてあげたあげたんだけど――焔蜥蜴が落ち着くまで少々時間がかかった。
「……ご配慮感謝いたします」
ふぅ、やれやれだぜ。
それにしてもフランさん、言っちゃいけないこと言ってはダメでしょうが。
俺も流石に怖すぎてコンソールで転移しそうになっちゃったよ。