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castle of Brave  作者: 転々
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1.転移

 

「皆さん、今日の同盟戦もお疲れさまでしたー! いやー、相変わらず上位陣はやばいっすね。援護するだけでも精一杯ですよ」


 俺の眼前にはSFでありきたりな、半透明な画面がいくつも浮かび上がっている。そこには、月に一度の同盟戦を戦ったメンバーたちのアバターが映し出され、今日の勝利を皆で喜び合っていた。


「それにしても、相変わらず芝犬さんの無双っぷりはすごいですね」


「いやいや~、俺一人が強くても同盟戦は勝つことできないって。援護が無かったら、俺だって飛ばされちゃうよ」


「でも、芝犬さんの火力チートみたいじゃないですか。って言うか、カンストしてる攻撃力なんて防ぎきる人ほぼ居ないでしょ」


 俺と今話しているのは、二足歩行の人型柴犬のアバターをした盟主の芝犬(しばいぬ)さんだ。この人はこのゲームが始まった初期に超課金をしてトップに立ってた人なんだけど、元々は盟主じゃなくて雇われ幹部という特殊な立場だったんだよね。

 でも、前盟主が引退しちゃったからそれを引き継いで頑張ってくれているトッププレイヤーの一人だ。


 ゲームをしながら良く寝落ちをして、「消えたぞ! 」とか「また寝落ちだ!」とかよく言われている。

 みんな意外と頼りにしながら良くからかっているけど、そういったことについては怒ったりしない出来た人だ。


「いやいや、他同盟のあの二人なら一撃は防ぐって。フェスティバルは強い人も弱い人もいっぱいいるけど、他の所と違って弱い人でも同盟戦に参加してくれる総合力が高いから勝てるんだよ」


 同盟フェスティバル――元々は複数同盟同士が合併し出来上がった現在最強の同盟。

 しかしその内実は、やる気がある人なら同盟の定員まで受け入れ、強者と弱者が混在する特異な同盟だ。

 ワールドトッププレイヤー達は皆廃課金者で、芝犬さん筆頭に同盟には数名在籍しているが、廃人の人数では実は他の同盟の方が多かったりする。

 

 しかしフェスティバルが未だに最強同盟を名乗れるのは、同盟定員限界まで常時在籍して皆がやる気があるからだ。

 同盟戦は基本的には総力戦になるのだが、フェスティバルは無課金者であってもそれなりの戦力があり、この総合力でかなりの確率で勝ちを掴んでいる。


 それは、上位プレイヤー達が下位プレイヤーの育成を熱心にしており、何よりみんなが楽しめる雰囲気づくりを幹部たちが作っているからだ。

 そうしたことを続けている間に、最初は中小同盟だったころ人柄でみなを集めた前盟主に、強さで皆を引っ張る芝犬さんや幹部達のおかげで今では最強同盟と言われている。

 幹部の人達も色々な雑用をしてくれたり、他の同盟との揉め事の折衝など色々と動いてくれる。

 この同盟が安定しているのは、幹部達のおかげなので言葉にはした事はないがとても感謝している。

 

「それじゃあみんなも願い事決めてから落ちようねー、前回の俺みたいに寝落ちするとランダムで決定されるからお気を付けをー、それじゃあ寝る! 」


「盟主お疲れっすー」

「って、芝さん願い決めてから落ちたのかな?」

「あーやらかしてそう(笑)」


 等と皆が雑談しながら芝犬さんの話をしている――相変わらず最後に笑わせてくれる人だ。



 願い事とは、同盟戦に勝利した同盟が得られる特典で、同盟戦後の一週間様々な特典が提示される。


 そもそもこのキャッスルオブブレイバーと言うゲームは、非常に珍しく城の育成ゲームにあたり、(ストラテジー・)VRヴァーチャル・リアリティ(・マッシブリー)MO・マルチプレイヤー・オンラインと言うジャンルになるらしい。

 普通のVRMMOだと本人がアバターに入り込んで戦うものが主流だが、このゲームは少し特殊で城を育てて兵士を強化して、その兵士を統率するものとしてプレイヤーが存在しているのだ。

 通常はアバターでなのだが、戦闘になると英雄と言うアバターに乗り換えて兵士を指揮して戦う珍しいゲームだ。

 ただし、英雄として参戦して兵士たちの強化などバフをかけることが出来るが、メインでの戦闘はNPCの兵士達だ。

 一応英雄で戦闘は可能ではあるが、数十万以上の数の暴力を一人のプレイヤースキルで対処するのは不可能なので、基本的には最後尾でマップを開きながら操作するしかない。 


 そして同盟戦という特殊な戦いがあり、ワールドに一つだけ存在する天上の塔を取り合うと言う物で、いわゆる陣取り合戦みたいなものだ。

 時間になると一斉に塔へ向かい全員で兵士を投げつけ、兵士が生き残っている同盟が塔を確保することが出来る。

 その後は永遠と塔へ兵士を送り込み、どれだけの時間塔を維持できるかが決め手となる。

 しかし、英雄を率いていけば戦力バフが掛かり強くなるのだが、その代わりに城のバフが消失して弱体化されるのだ。

 それを補ってくれるのがトップメンバー以外のプレイヤーで、攻撃して戦力が低下しているの城に兵士を送り込み防御を固め、他のプレイヤーからの攻撃を防ぐための戦力になるのだが……ここで無課金プレイヤーの登場である。


 無課金プレイヤーは強力な英雄も居ないし、強力な装備も無いのだが、攻撃陣の城への防衛のための兵士を送り出す役目が発生する。

 そうして、上位の人も下位の人も一緒に戦争に参加することが出来、上位陣が攻め込み下位陣が防衛に回るといった仕組みが上がる。

 どちらが欠けても勝利することが出来ないのだ。

 俺の様なそこそこ上位な課金者は、他同盟の塔への戦闘を仕掛けているメンバーに攻撃して、上位陣を援護することが主となる。

 とはいっても、所詮は微課金勢と呼ばれる中堅プレイヤーなので、嫌がらせ程度の攻撃しか出来ない。

 しかし、その嫌がらせも人数が増えれば兵士の回復する時間も無くなり、上位メンバーの城を落とすことが可能になるのだ。

 

 この同盟戦は勝ち負けだけの意味があるわけではなく、最大の報酬は願いという特殊な効果が発生する事なのだが、他にも参加した同盟の順位によって課金で手に入れることが出来る素材が出る宝箱が配布されるのだ。

 これにより、無課金メンバーはやる気を出して参加してくれるし、上位陣は願いを獲得することが出来て双方ともにメリットがあるのだ。

 その相乗効果でフェスティバルの勝率がかなり高く、上位陣も下位陣も皆仲が良い。

 だってさ、上位陣の人達が塔を攻撃する際に敵から攻撃を集中され負担が大きすぎないか? といった話が出た時「アタッカーはそれも踏まえて立候補してるから気にしなくていい」とカッコいい事を言ってくれる人もいた。

 その言葉を聞いた人たちは、やっぱりこの同盟で良かったなと皆と話していた。


「さて、今回の願いは一体何があるのかな? 」


 同盟戦に勝利して皆と騒がしく勝利の余韻に浸った後、俺は自分の報酬の宝箱を開けた後願いの一覧を確認した。

 ……因みに俺の宝箱は微レアのみだった。


「うーん、レアドロップ率アップに兵士増強ボーナス、大体いつもと同じか……ん、んん?なんだこの願い!?」

 

 俺のコンソールに表示されている願いは四つで、上から三つは大体いつもと同じ内容だったのだが、最後の四つ目が【????】といった表示になっていた。

 

 今までこんな表示が出たことは無く、不思議に思いネットで検索してみる。


「ふむふむ、内容はランダムで良い願いもしょぼい願いも色々出たりするのか。……なんだこの、そのアイコンを選んだものはその後ログインしなくなるって、何処の都市伝説だよ! っていうか、レア願いと普通の願いが半々くらいで出るからねたんでるんだな! よし、今回はレアな願い出なかったからこいつにしよう! 」


 そして俺は……【????】のアイコンをタップした。


『願い【????】を実行します』


 機械的なアナウンスが流れ、俺の城がワープしていくのが感じられる。

 このゲームは城育成ゲームではあるのだが、城がいつも固定の場所に居る訳ではなく、ランダムでテレポートしたり任意の位置に転移したりすることが出来るのだ。

 まあ、そうでもしないと同盟戦したりアイテム獲得用の魔物討伐やダンジョン探索なんかが出来ないからね。


「お、ワープしたって事はレアフィールドに転移か? それともボーナスフィールドかな? 」


 レアフィールドは、その名の通り通常ではなかなか行くこと出来ないレアなマップで、課金アイテムかランダムテレポートをした際に極低確率で入る事の出来るフィールドだ。

 英雄と兵士の能力が向上しアイテム獲得できる魔獣の討伐が容易くなるのだけど、一番の目的フィールドにランダム発生する四天獣が討伐できる事だ。

 四天獣素材は、課金か願いの報酬など入手手段が少ないが強力な装備が作ることがきるのだが、俺程度の課金者では未だ装備は強化途中だったりする。

 

 そもそも万券一枚で素材一種類しかくれなくて、その素材が五十も必要とかどんだけ鬼畜なのか非課金微課金勢は大いに嘆いているのだ。


 そしてボーナスフィールドだが……これがマジでヤバイ。

 そもそも発生する魔獣の数がかなり多くなり、課金アイテムを購入することが出来るゴールドを低確率だが落とす魔獣や、レアフィールド同様に四天獣もポップする本当の意味でのボーナスなフィールドなのだ。

 しかも通常レアフィールドでは一回しか発生しない四天獣だが、ボーナスフィールドなら三時間湧きするという全員が待望のステージだったりもする。

 ……だけど、数年このゲームをやっているが同盟員ではいまだに一人しか到達した人は居ないかなり厳しい設定らしい。


 俺は期待を胸にワープが終了するのを待ち、暫くすると急に周囲の景色が変化しワープが終了した。

 俺はコンソールでワールドマップを表示するが、ワールドマップは自分の周囲しか表示されておらず、それ以降はグレー表示されていた。


「おおお! これってボーナスフィールドじゃね? レアフィールドなら前にも来たことあるから、マップ表示ナシなら――ボーナスフィール確定だな! 」


 俺はコンソールを何度か操作してマップ全域を確認したが、表示されているマップはすべてグレー表示になっていた。


 ワールドマップは、自分の所持する兵士たちを送り込んだ先か初心者用課金パックにしか入っておらず、行ったことが無い場所ではグレー表示される。

 通常マップは買ってあるし、レアフィールドもある多少は踏破してあるから、この殆どグレーマップなのは確実にボーナスフィールドのマップだ!


 俺はウインドウを操作して、現在いる玉座の間から城壁の上へと転移する。

 城壁の上に転移した俺を強風が襲うがそんなことも気にする余裕もないほど、目の前の光景に目を奪われた。


「これが、ボーナスフィールドか! 滅茶苦茶広くないかこれ! 」


 転移した場所はうっそうとした森の中で、周囲に平原などは見当たらないが遥か彼方に天を貫くように聳え立つ山脈が見える。

 そして、この緑豊かな森特有の匂い……ん?匂いがする? そんな機能このゲームにはなかったはずだが……それにさっきから風が吹いているし、このボーナスフィールドはもしかして新しいアップデート用のテストマップとかなのかな?


 もしそうであれば、今までとは戦略とかも変わってくるんだろうな。砂漠地帯のダンジョンに潜るにしても特定の装備が必要だとか、雪原地帯や山脈越えにも何かアイテムが必要になるかもしれない。

 


「ふふふふ、これはいい! えーっと動画記録設定は……あーオフになってる、流石に情報を持ち出させてはくれないか。それじゃあ同盟ロビー……も使えない、あれメール機能も使えなくなってるぞ! もしかしてこのフィールド出るまで使えなくなっているのかな? 」


 再びコンソールを開き色々と試してみるが、基本的に外部連絡をする手段が全てグレーアウトしており、スクリーンショットや動画撮影機能もすべて使えなくなっていた。


「でもそっか、直接チャットとか出来れば色々確認できることも増えるだろうし、新フィールドのβテストに当たったんだからそう言った情報規制も入って来るんだろうな」

 

 この時、皆と連絡が取れない事に少しの寂しさを覚えたが、そんな事よりも初めて体験するリアルに近いバーチャルに俺は胸を躍らせていたんだ。


「まあいっか。とりあえずは……これとこの部隊を使って周辺索敵っと」


 再びコンソールを開き、いつも使っている索敵用部隊に周囲の偵察に向かわせる。

 マップはコンソールから確認することはできるのだが、何処に魔物が存在するかやダンジョンなどは索敵部隊を送らなければマップに表示されない。

 そのため、常時プリセットには索敵用の固定人数を設定して索敵の手間を減らしているんだよね。 



「お、おお! こんな演出もあるのか! ますますリアルとバーチャルの差が無くなって行くな」


 俺が出陣要請をすると、パッパラッパーと効果音が鳴った後城門まえの広場に続々と兵士が集まってきて城門を開き兵士たちが出陣していく。

 今までであれば、城門が開いたりすることは無く即座に兵士たちがワープしたかのように一斉に出陣して行ったのだけど、わざとタイムラグを作ったり城門を開けて防御が薄くなったりする演出を追加するって事は、やっぱり大型アップデートがあるのだろう。


「いやーいいねいいね! 先行テスト万歳! 戻ったら同盟のみんなに自慢しよう! まあ、出るときに守秘義務がどうのこうのって話も出るだろうかあんまり話せないかもしれないけど、このアップデートはかなり楽しみだよってくらいは良いよね!?」


 戻った後に色々変更点を確認しておくために、コンソールを開き元居た玉座の間に戻ってから、変更点などをメモして行った。


 そして数分後、偵察に出した部隊が何かと戦闘に入ったと表示が出た。

 これが俺がこの世界に来て初めての戦闘になった。



 初めましての方は初めまして、前作を読んで頂いている方はありがとうございます。

 転々と言う趣味小説家ですが、今後ともよろしくお願いいたします。

 短編小説を書くのが苦手で、長編ばかり書いていますが誤字脱字が激しいと良く怒られますが、もし見つけましたらこっそり教えてください。


 さて、今作は召喚失敗勇者の連載が二年経過したこともあり、新しく書いてみたいと構想していた物を少しずつ書き連ねていた物になります。

 プロットは既に完成しているのですが、いつもその予定がずれて作品を作って行ってしまう癖があるので、頑張って最後まで書いていきたいと思いますが長い旅路になりそうな予感がします。


 長々と書かせて頂きましたが、もしご興味がありましたら今後とも読んで頂ければ幸いです。


 

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