4話 通りすがりの赤の他人を助ける社会、助けない社会、いろいろあるけど、そういうのは過去の積み重ねなので異世界人は何もコメントしません
「いやー買った買った、1ピンも倒せなかったってぐらい」
僕とギチムさんは、買い物帰りにてくてくしていた。
「ふぅ、本当は献立を決めて買い物するなんて主観的なこと、傍観者にすぎない俺には向いてないんだ」
「そうなの?ギチムさんの料理おいしいけど?」
「ありがとう。だが、それは俺ではなくレシピが凄いんだ。俺はそれにただ従うだけ」
「いいレシピのチョイスだねー」
「ふふっ、どうも」
そんなこんなでもうすぐ家に帰るって時に、
「うぇぇぇん、我が母ぁぁぁ、我が父ぃぃぃ」
女の子がべそべそ泣いていた。
「なんだろう?」
「ほおっておけ」
ギチムさんは淡々と言った。
「あの子供にはあの子供の物語がある。そこに俺らが関わることはない」
「でも、両親と解釈できる人は見つからなさそうだよ」
きょろきょろしてみるけど、みんな大人がおろおろしている。
「……はぁ、まったく」
ギチムさんはため息をひとつつくと、僕の買い物袋を持ち上げた。
「え?」
「おおっ……とぉ、」
「だ、大丈夫ギチムさん?ふらふらしてない?」
「ち、力のかけ方が分からないだけだ。俺は汎用性を求められる傍観者故にぃぃ、個別のルールへの知識がっ、浅い。そこをっ突かれたっとてててて」
「ギチムさん!?」
「いけよ、レーギ」
ギチムさんは汗をかきながらも、ニヒルに笑った。
「助けるんだろ?」
「うん!じゃあ、行ってくる!」
「行ってこい!」
僕はギチムさんの声に背中を押されるように、駆け出した。
「我がぁぁぁ……」
その女の子は、まだ泣いていた。
「君、大丈夫?」
女の子は僕の方を見ると、
「ゲコッ!」
変な声をあげた。
「ん?」
「不審者!」
女の子は涙をためた目で僕を睨み付けると、僕を指さした。
女の子は地球で言うなら小学校低学年ぐらいだろうか。ランドセルも無いので一度家に帰ったのかな。
「こらー、不審者も指で指しちゃいけないんだぞー、じゃなくて、不審者じゃないよ、儲かる審者だよー」
「我が母も我が父も、警戒は大事って言っていた」
「うーんまぁ、確かに警戒は大事だなぁ」
「だから誰も私を助けられないんだ、うわーん!」
「ええぇぇ」
どうしよう、どうしよう
プルル、プルル。電話の音が女の子の方からした。
「我が母からだ!」
女の子はピッピッと操作した。
「もしもし!」
『もしもし』
聞こえてきたのは機械的な音声、というかこの子、操作間違えてスピーカーになってるね。
「我が母!」
『お前の両親は預かった。返して欲しくば、チョコレート・フレンドの設計図と交換だ』
「我が母!随分機械的な声だ!私が嫌いか冷たいぞ!」
『だから、お前の両親は預かった。お前が設計図を持ってこなければ、2人の身は保証しない』
「よく分からんが我が母はスマホの使い方大丈夫か?変なボイチェンしてるぞ?」
『だから……』
僕はたまらず電話を取り上げた。
「あー!」
「もしもしお電話変わりました」
『なんだお前は』
「赤の他人です」
「返せ!我が母との魂の交流だぞ!」
女の子がわちゃわちゃと襲ってくる。
「いや、待って落ち着いて。これはちょっと一大事じゃ……」
僕はここでちょっとひといきつく。そうだ。ここでは僕が最年長なんだ。(周りの大人を除く)
「……ちょっと君のお母さんノドの調子が悪いみたいで、診断してみる」
「できるのか!?」
女の子のやいのやいのがピタリと止まる。
「え、えっとね、うん。あの、僕、医者……の、卵で!これぐらいぴぃすおぶえっぐだよぉ」
「ほぉぉ!! 」
女の子のキラキラした目が嘘つきには眩しい。
とりあえずまずスピーカーモードをやめにする。
「……それで、取引場所は」
『いや、だからお前何者だよ』
「だから赤の他人ですってば。縁もたけなわもありません」
『お前な、逆に考えてみろ』
「?」
『お前が誘拐犯だとしてみろ。んで、人さらって電話をかける先は、普通親族とかだろ?』
「そうですね」
『だよなぁじゃないと知らない人ですねバイバイですんじまう』
「でも今の僕は割と優しいので、見ず知らずの人にバイバイしたせいで売買されちゃったら悲しいです」
『でも100万は払えないだろ?』
「100万円!?いや、それは、うーん……」
『だろう?』
「うーーーーーん」
「おい不審者少年、困ってるのか?我が母に何か?」
「えいやぁ、ちょ、ちょっとノドの治療が大変だそうで……」
「ノドの治療!?我が母はノドが悪いのか!?」
「そ、そう。老化しちゃってね。うん、喉、喉で候」
『……もういい、嬢ちゃんに代われ』
「はーい……電話代わるね」
僕はちゃっかりスピーカーモードにしてから女の子に代わった。
「我が母!」
『これから言うことはただ1つ。……この電話のことは忘れろ。誰にも言うな』
「わ、我が母?」
『言っとくが、お前の両親の身柄は俺らが自由にできる』
「いやあなたは私の親だろう?」
『丁度近くに湖があるんだが……そこに沈めるのも、容易いんだぜ?』
「それって……」
僕は口を挟んだ。
「ぴぃすおぶれいくってこと?」
『うるせぇ』
電話が切れた。
電話は終わった。周りの人はみんな知らぬ存ぜぬアマゾンズって感じだ。
「……湖?」
誘拐だから距離はそう遠くないと思う。
湖なんてそう多くはない。
「……ねぇ」
僕は女の子に話しかけた。
「なんだ?」
「お母さんに会いたい?」
「当たり前だ」
「じゃ、」
僕はスマホを開いた。
「会いに行こっか」
僕は地図で湖を探した。あった。
「行くぞお医者さんの卵。我が母の元へ」
「ちょっと待って、仲間に連絡しなきゃ」
「早く。スクランブルにするぞ卵」
「もー、すぐ乱暴なこと言うなぁ」
とりあえず、僕1人じゃ誘拐犯倒してお母さん助けるのが関の山だ。
頼るなら、子守りが好きそうで得意そうな……
僕は電話をかける。
「……もしもし、ギチムさん?」