表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/38

裏・裏エピローグ

裏・裏エピローグ~いつかどこかで


 その日も、雪が降っていたわ。


 家を出て。


 わたしは、入り江の方へ向かって駆け出した。


 行かなくちゃ。


 大事な人が、待ってる気がする。


 逢いたくて。


 逢いたくて。


 街路樹に挟まれた、(もり)の舗装路。


 こんな場所、気仙沼(けせんぬま)にあったっけ?


 やがて、辿り着く。


 辿り着く。


 舞う雪の中で、そのヒトは待っていた。


 薄紫のローブをまとって。左肩に小さな白い(ドラゴン)を乗せている。手には錫杖(ロッド)を持っていて、艶やかな長い黒髪を風になびかせている。


 まるで、魔法使いみたいなヒト。


「へぇ、ヴェドラナと出会わなかった『わたし』、か」


 言葉の意味はわからない。


 今日、わたしが逢いたかった人とは違う。


 でも、なんだか、温かなヒト。


「ようやく、見つけた」


 お姉さんは。


 諭すように。


「伝えたいことがあったから、ね。ミティアくん達が『外』に出られたんだから、わたしも『外』に出られるんじゃないかって思って。幾星霜、事不思議、物不思議、理不思議、大不思議、大大不思議……と巡って、探しちゃった」


 祈るように。


「ねえ、乃喜久(ノギク)。この先で待っている『破綻的な出来事』に、どうか、負けないで。この(・・)宇宙のルールでね。全てを伝えることはできないんだけど。少しだけヒントを」




――そこで、終わりじゃないから。あなたも。世界も。




「なぁに? 何の、話なの?」

「これはね、応援、かな。これから物語を始めなくちゃならない、あなたへの」


 妙なことを言う。初めて逢った人に、応援してもらうのは稀有なことだ。


 わたしは、尋ねた。


「どうして? どうして応援してくれるの?」

「それはね。コトフミくんと約束したんだ」

「お兄ちゃんと?」

「うん。あなたのお兄ちゃんと、同じではないけどね。そうだなぁ。あなたもわたし(・・・)だから、言っちゃってイイよね」


 お姉さんは、こう言葉を紡いだ。


 わたし。ノギクの十二の秘密のうちの一つ。これは蛇(つか)い座の秘密。




――わたし。フジミヤ・ノギクは本当の世界ではもう死んでるって。実は自覚してた。




 一陣の風が吹いた。


 お姉さんの右眼が輝き出す。


「さあ。仇討だよ。わたし達を、亡くしてしまった世界に。いっしょに。愛という武器を手にとって」


 お姉さんの右眼の光は、(くら)い空に浮かぶ星アカリのよう。


「わたし達は、この宇宙に全員分の居場所をつくる復讐をとげて。わたし達を亡くした世界を許すんだ」


 やがて、お姉さんの右眼と呼応するように、無数の星明りが周囲で煌めき始める。


「そんなことが、できるの?」


 お姉ちゃんの言ってることは分からない。ただ、舞う雪明りの中で輝くお姉ちゃんは、いつかアニメで観た魔法魔王少女みたいでカッコいい。


「できるさ。だって――」


 お姉ちゃんは、力強くわたしに言葉を伝えた。


「この世界には、ヒミツがあるんだから」


 花だった。


 星の光、雪の光だと思っていたものは。


 華だった。


 舞う花びらのそれぞれに、光が、世界が反射されているのだ。


「舞う宝相華(ほうそうげ)


 この不可思議な世界で。




――補い合う華だけを、あなたに。




 言葉を残すと、お姉さんはいなくなっていた。


 雪は確かにあったのに、人の肌に触れてあっという間に消えてしまったように。


 本当に存在していたのかどうか、もはや確認することができない。


 お姉さんがわたしの意識から消滅すると。


 代わりに、わたしの胸に宿った気持ちがあった。




――癒したい。




 これは、わたしの気持ちじゃない。


 いつかどこかで出会った、大事な人の気持ち。


 思い出してる。


 「糸」を繋いでいた、「たましい」の奥底にあった気持ち。


 『約束』を交わした、女の子の気持ち。


 いつかどこかで、わたし達はこの気持ちを抱いて何かをなした。


「行かなくちゃ」


 わたし――乃喜久(のぎく)はここにはいない赤髪の少女を見つけようと空を見上げて目をこらした。


「わたしを、待ってる人がいる」


 けれども、彼女の視力が及ばないのか。この世界の仕組みの中ではそもそも(ユメ)は見つけることができないのか。少女の瞳にヴェドラナは映らない。


 気がつけば(ヴェドラナ)は見つからないまま、歩き慣れた気仙沼の路傍(ろぼう)に乃喜久は立っていた。


 肌に触れる白の感触で、自分という存在がここにいるんだと明瞭に気づき直す。




――そう。




 今日も。


 実体であるとも幻であるとも判別がつかないような。


 美しい幽性の雪だけが、少女を包み込むようにしんしんと降り続けていた。



  /裏・裏エピローグ~いつかどこかで・完

 『少女輪廻協奏曲』・始

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ