エピローグ
エピローグ~生歴二〇二一年~気仙沼
声が聴こえる。この世界に、みんないる。
気がつくと、わたしとヴェドラナとミティアくんは、漁船に乗って浮かんでいた。
「ノギク。ここ、海、海だよな! 何でだろう。懐かしい感じがする」
ミティアくんはちょっとはしゃいじゃってる感じ。
大ケガしてるんだから、安静にしてた方がイイぞーう。
寄せては引く波に揺られている。
知っている潮の香り。ここ、気仙沼の海だわ。
「お兄ちゃーん。お姉ちゃーん。聖女様~」
ちょっと離れたところの船に、イナちゃんも確認。
船、船、船、リュヴドレニヤの人たち、みんないるわ。
少しだけ、不安がよぎったわ。
これからわたしたち、どうするの? って。
でも、杞憂だった。
わたしは、すぐに天空に煌めく気配たちに気がついたんだ。
来て、くれた。
機械の音。プロペラが旋回する音。わたしが子どもの時に聴いたことがある音。
今回は一つではなく、幾百幾千の、あるいは幾万の。
ヴェドラナが眩しそうに天に輝くたくさんの救助ヘリを見上げた。
「国連の救助隊。こんなにも、たくさん……」
「ピンクの、手帳……」
言史くんが、連絡してくれたんだわ。
ヘリコプターには国旗が塗装されていてね。日本の救助ヘリだけじゃない、歴女だからね、各国の国旗には詳しいわ。インド、中国、アメリカ、ロシア、もちろんスロヴェニアもあるわ。本当に、たくさん、たくさん。ちょっと、追いつかないくらい。
「ミティアさん」
ヴェドラナが口を開いた。
「この世界には、癒しの『究極の魔法』はないんです。でもいつか、人類はケガや病気を克服してみせますから」
「わたしも、もっと防災のこととか研究するわ」
世界中に息づいていた、善意の雨が降る。
わたしたちの世界は、あまりに大きな破綻的な出来事があったからこそ、防災と救助に関してはこの十年がんばったんだ。
二万人の、負傷した者や火傷を負った者をふくめた避難民が、船に乗って気仙沼沖に突如として現れるなんて空想めいた話を、世界は信じてくれた。
応えてくれた。
ヘリコプターからロープで降りてくる人たちはみんなこういう時のために身体を鍛えていた。信じられる? 「あの人」は世界に一人だけじゃないのよ。
救急隊員、医師、看護士、あまたの「あの人」が舞い降りてくる。
ただ、困ってる人を助けたいっていうフツウの憐みを胸に、彼・彼女たちは傷ついた人たちを抱きかかえる。起き上がれない人たちに、励ましの声をかける。
救急医療のネットワークが通信で瞬時に世界中に広がっていく。大丈夫、すぐに病院が受け入れてくれる。ケガをしている人も、やけどを負っている人も、もうちょっとだけ安静にね。大丈夫だからね。
海上には、皇帝さんも、王様もいるわ。
さらには、ドラゴンも、モンスターたちも、何だか不思議な生き物とかもやってきちゃったけれど、あんまり気にしないことにするわ。きっと、なんとかなるでしょう。
まずは、傷ついた人たちの手当てをしなくっちゃね。きっと色々忙しくなるわ。
できるだけ余裕を大事にしながら、丁寧にやっていきましょう。
ここは。
「究極の魔法」がないのに、戦争が、災害が、貧困が、病気が、悲しいことがたくさんある世界だけれど。
それでも。
この日降った慈しみの雨は優しかったから、わたしとヴェドラナは、この時だけは胸を張りましょうって思ったの。
陽が昇る。
光の中で。
前を向いて。
さあ。
いっしょに、顔をあげよう。
わたしとヴェドラナは、ミティアくんたちに手をさしのべた。
「「この世界へ、ようこそ!」」
/『少女輪廻協奏曲 ノギクとヴェドラナの愛』・完
裏エピローグへ続く




