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少女輪廻協奏曲 ノギクとヴェドラナの愛  作者: 相羽裕司
第三部「輪廻の協奏曲」
32/38

銀髪の少年のプレリュード

第三部「輪廻(りんね)協奏曲(きょうそうきょく)


 銀髪の少年のプレリュード/


 俺はミティア。ただのミティア。


 名字はない。なるほど。


 ノギクの糸を通して知ったところによると、名字はその人間の歴史を示すものらしい。


 となると、歴史がない、作り物の世界の作り物の俺にはなかったということか。


 ノギクが六日ぶりに聖女と糸を繋いだ時に理解したことが、俺にもある。


 分かってしまったんだ。俺は、無意味だったんだって。


 作られた世界の、作られた人間。偽物だったんだって。


 銃という人を殺すために生まれたもので撃たれた。たくさん血が流れている。痛い。


 遠くで、大竜(グランドドラゴン)咆哮(ほうこう)をあげている。


 色とりどりの風船が宙を舞い、あらゆる存在の土台が壊れ始めている。


 何度も、見たことがある気がする光景。


 世界の終わりの光景。


 炎が、人を、竜を、モンスターたちを焼いている。


 どこかで、知っている。間もなく、大竜の大火炎の第二射が放たれる。それで、本当の本当に終わりだ。


 しょうが、ないのさ。


 今まで、一度だって助かったことなんてなかったんだから。


 どこかに、幸せで笑っている人がいて。


 その分どこかで、痛みの中で消えていく人がいる。


 俺が、この世界が、後者の側だったというだけの話。


 もう。目を閉じよう。


 どこかの、誰か。幸せの側にいけた誰か。せめてあなたたちだけは、俺とイナの分も生きてほしい。


 空を見上げた。


 終わりの空を見上げた。


 終わりのはず(・・)の空を見上げた。



 ……



 何かが、おかしい。


 光だ。


 光が、天から舞い降りてきている。


 今まさに、最後の大火炎を吐きだそうとする大竜めがけて、光は降ってゆく。


 二(つい)の光は相補い合いながら、舞うかのようで。


 この光を知っている。


 俺は、この光を知っている。


 一つは聖女――ヴェドラナって人の(いや)しの雨の光で。


 もう一つは、糸を繋いでいた女子。ノギクの心の光だ。


 伝説を思い出した。


「世界が終わる時、相似(そうじ)の天使が舞い降りて、万物の魂を天に還す」


 伝説っていうのは、古い時代から伝わっている話のことだろう?


 なんで、歴史のないこの世界に、伝説はあったんだ。


 その理由は、今はイイ。


 ただ一つ確かなこと、


 舞い降りる二つの光、



――ノギクとヴェドラナは、その時天使のようだった。



 ノギク。ノギクだ。なんで、空から?


 聖女もいっしょだ。聖女は、なんか「箱」を手に持っているぞ?


 聖女が、大竜めがけて拳を握りしめた。


 あのヴェドラナってノギクの友だちの人の拳、俺もくらったけれど、強いんだ。


 でも、いくらなんでも、大竜に?


 強い意志を携えた瞳で。


 ためらわずヴェドラナは大竜の顔に拳を撃ちこんだ。


 わずかに、大竜がぐらつく。


 大火炎の第二射が、止まった?


 大竜は首を振り抜いて、空中のノギクとヴェドラナを()ぎ払う。


 ノギクは糸でクッションを編んで大竜の攻撃のダメージを吸収しながら、こちらにも一本糸を飛ばしてよこした。


 俺は、糸を握りしめてグっと引っ張る。


 糸がギュっと縮んで、ノギクとヴェドラナは大竜の近くから一気にこちらに飛んでくる。


 再びノギクが糸でクッションを編んで、橋の上に着地した。


 俺は、滅びることに慣れ過ぎていたのか。二人を見上げて、バカなことを聞いてしまったよ。


「優しい、フツウの世界に帰ったんだろ? どうして、この世界(オレたち)なんかを助けに戻ってきたんだ?」


 ああ。ノギクだったら、こう答えるに決まっていた。


 ノギクとヴェドラナは二人で一瞬だけ顔を合わせた後に、ノギクが(てのひら)を右目に、ヴェドラナが左目にかざしてから、ノギクは右腕を、ヴェドラナは左腕を横に振り抜いて、それぞれ体をちょっと斜めにした。


 そのポーズ、中二病だったか。


 大仰(おおぎょう)なポーズをとって、ノギクとヴェドラナは俺に向かって声を重ねた。


「「人助けに、理由が必要なの?」」



  /銀髪の少年のプレリュード・完

 第三十一章へ続く

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