銀髪の少年のプレリュード
第三部「輪廻の協奏曲」
銀髪の少年のプレリュード/
俺はミティア。ただのミティア。
名字はない。なるほど。
ノギクの糸を通して知ったところによると、名字はその人間の歴史を示すものらしい。
となると、歴史がない、作り物の世界の作り物の俺にはなかったということか。
ノギクが六日ぶりに聖女と糸を繋いだ時に理解したことが、俺にもある。
分かってしまったんだ。俺は、無意味だったんだって。
作られた世界の、作られた人間。偽物だったんだって。
銃という人を殺すために生まれたもので撃たれた。たくさん血が流れている。痛い。
遠くで、大竜が咆哮をあげている。
色とりどりの風船が宙を舞い、あらゆる存在の土台が壊れ始めている。
何度も、見たことがある気がする光景。
世界の終わりの光景。
炎が、人を、竜を、モンスターたちを焼いている。
どこかで、知っている。間もなく、大竜の大火炎の第二射が放たれる。それで、本当の本当に終わりだ。
しょうが、ないのさ。
今まで、一度だって助かったことなんてなかったんだから。
どこかに、幸せで笑っている人がいて。
その分どこかで、痛みの中で消えていく人がいる。
俺が、この世界が、後者の側だったというだけの話。
もう。目を閉じよう。
どこかの、誰か。幸せの側にいけた誰か。せめてあなたたちだけは、俺とイナの分も生きてほしい。
空を見上げた。
終わりの空を見上げた。
終わりのはずの空を見上げた。
……
何かが、おかしい。
光だ。
光が、天から舞い降りてきている。
今まさに、最後の大火炎を吐きだそうとする大竜めがけて、光は降ってゆく。
二対の光は相補い合いながら、舞うかのようで。
この光を知っている。
俺は、この光を知っている。
一つは聖女――ヴェドラナって人の癒しの雨の光で。
もう一つは、糸を繋いでいた女子。ノギクの心の光だ。
伝説を思い出した。
「世界が終わる時、相似の天使が舞い降りて、万物の魂を天に還す」
伝説っていうのは、古い時代から伝わっている話のことだろう?
なんで、歴史のないこの世界に、伝説はあったんだ。
その理由は、今はイイ。
ただ一つ確かなこと、
舞い降りる二つの光、
――ノギクとヴェドラナは、その時天使のようだった。
ノギク。ノギクだ。なんで、空から?
聖女もいっしょだ。聖女は、なんか「箱」を手に持っているぞ?
聖女が、大竜めがけて拳を握りしめた。
あのヴェドラナってノギクの友だちの人の拳、俺もくらったけれど、強いんだ。
でも、いくらなんでも、大竜に?
強い意志を携えた瞳で。
ためらわずヴェドラナは大竜の顔に拳を撃ちこんだ。
わずかに、大竜がぐらつく。
大火炎の第二射が、止まった?
大竜は首を振り抜いて、空中のノギクとヴェドラナを薙ぎ払う。
ノギクは糸でクッションを編んで大竜の攻撃のダメージを吸収しながら、こちらにも一本糸を飛ばしてよこした。
俺は、糸を握りしめてグっと引っ張る。
糸がギュっと縮んで、ノギクとヴェドラナは大竜の近くから一気にこちらに飛んでくる。
再びノギクが糸でクッションを編んで、橋の上に着地した。
俺は、滅びることに慣れ過ぎていたのか。二人を見上げて、バカなことを聞いてしまったよ。
「優しい、フツウの世界に帰ったんだろ? どうして、この世界なんかを助けに戻ってきたんだ?」
ああ。ノギクだったら、こう答えるに決まっていた。
ノギクとヴェドラナは二人で一瞬だけ顔を合わせた後に、ノギクが掌を右目に、ヴェドラナが左目にかざしてから、ノギクは右腕を、ヴェドラナは左腕を横に振り抜いて、それぞれ体をちょっと斜めにした。
そのポーズ、中二病だったか。
大仰なポーズをとって、ノギクとヴェドラナは俺に向かって声を重ねた。
「「人助けに、理由が必要なの?」」
/銀髪の少年のプレリュード・完
第三十一章へ続く




