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第三十章「輪廻境界域・参~光の中へ」

 第三十章「輪廻境界域・参~光の中へ」


 ひゅーるるる。とくん。



 あなた。伝わっている?


 え。そういえば、最初にその糸が繋がる音を聴いたって?


 やっぱり、繋がっているのね。


 読者? 今は第三十章の最初の方だって? ごめんなさい。そのあたりは、こちらからはよく分からないわ。


 糸を、たどっていく。


 でも、あなたがそこにいてくれるのは伝わってきてるわ。


 心を、たどっていく。


 あなたが、中指の紫の糸の契約者ね?


 わたしの世界とあなたの世界は同じじゃなかったのかって?


 そういうことになるわね。


 伝わってくるわ。


 似てるけれど、違う世界。


 どこかで、違う歴史を辿った並行する宇宙。


 でも、あなたの世界にも東日本大震災があった?


 そう。日本で起こった二〇一一年三月の大災害を、そちらでは東日本大震災と呼んでいるのね。


 死者、行方不明者が二万人を超える大災害。


 それは、とても大変だったわ。あなたの世界のためにも、わたしは祈りたい。


 でも、やっぱりそれはわたしの世界とは違う。



――あなたの世界では、生歴(セイレキ)二〇一一年の三月に「半日本(はんにほん)壊滅(かいめつ)大震災(だいしんさい)」は起こらなかったのね?



 死者、行方不明者は三百万人を超える超大災害。破綻(はたん)的な出来事。


 こちらの世界では、日本の東側半分のほとんどが壊滅してしまったわ。


 仙台(せんだい)も半分は海に沈んで。東京も大きなダメージを受けたから、首都も京都へと移動した。


 そう。そっちの日本では、まだ東京が首都なのね。なんか変な感じ!


 去年は、東京でオリンピックまで開かれたですって!?


 なんて、徳が多い世界!


 何か、わたしの方の世界では忘れてしまっていた大事なものが、あなたの世界にはまだあったのかもしれないわ。心当たりがあったなら、それを忘れないでね。


 こちらの世界の日本はこの十年間、政治は混乱していて、経済もボロボロ。大変だけれど。


 それでも、生きてる。わたしは、生きてるわ。


 あなたに何ができるかって?


 それはね、祈ってほしいの。


 ミティアくんが、リュヴドレニヤの二万人の人たちが、助かりますようにって。


 わたしの世界とリュヴドレニヤが繋がることができますようにって。


 ひいお祖父(じい)ちゃんが言ってたわ。祈りは、本当に力になるって。


 わたしの世界とあなたの世界も、少しだけ繋がることができたのだから、奇跡は宇宙にあると思わない?



乃喜久(のぎく)!」



 言史(ことふみ)くんの声で、わたしの意識はわたしの世界に引き戻された。


「誰と話している? 『あなた』っていうのは誰だ? おまえ、ついに頭がおかしくなったのか?」


 わたしは、首を横にふった。電波が悪い状況でのスマートフォンやラジオのように、伝わったり伝わらなかったりはおぼろげだけど。



――わたしの左手の中指の糸は、ちゃんとあなたと繋がってるからね。



 光が、ちらつきはじめる。


 粉雪みたいに、(またた)き始める。


 光を乗せて、優しい風がわたしとヴェドラナを包み始める。


「なんだ? 俺の能力じゃないぞ?」


 日付が、変わったわ。


 雪明りが、クリスマス・イヴの仙台の街の片隅に満ちていく。


 奇跡は、あるんだわ。


「これが、森羅万象(しんらばんしょう)世界を繋げるわたしの『究極の魔法』。名付けて――『宝相華(ほうそうげ)糸模様(いともよう)』」


 奇跡の糸は、きっとミティアくんとリュヴドレニヤのみんなを引っ張り上げてくれるわ。


「そんなことが、あるのか?」


 わたしは、言史くんに微笑みかける。


「やはり偽善、だよ。上手くいったとして、千九百九十八回までのリュヴドレニヤはもう切り捨てられてしまったんだから」

「それは、そう。でも今、助けられるかもしれない。助けたいっていう自分の気持ちを裏切りたくない」


 これが、あの時わたしを助けてくれた「あの人」の気持ちなのかもしれない。


「千九百九十八回目までの人たちのことも、いつかどうにかできるようにこれから考えるわ。だから」


 これから何回、何人助けられるかなんて分からないけど。本当にわたしとヴェドラナの「約束」が訪れる日がくるのかも分からないけれど。まず目の前の一回、一人に手を差し伸べられたならって思うの。


「今は、わたしが信じたフツウの気持ちを大事にしたいの」


 言史くん。


 けっこう、ヒドイことされちゃったけどね。


「わたし、子どもの時、言史くんがわたしのために戦ってくれたことずっと覚えていてさぁ」


 わたしは、肌身はなさず持っていたピンクの手帳をジャケットの内側から取り出して、えいって言史くんの胸元に押しつけるようにして渡した。


「まだ言史くんのこと、信じてる」


 じゃあ。わたしたちは、行くからね。


 わたしとヴェドラナは手を繋いだ。


 光の道を歩いてゆく。


 ありがとう。わたしを見てくれていた、どこかの世界のあなた。


 いつかこの糸が途切れても、この恩は絶対に忘れないからね。



  /第三十章「輪廻境界域・参~光の中へ」・完


  【/輪廻境界域・完】



 いこう。いっしょに。


 空想が負った傷を、縫いにいこう。



  第三部(最終部)へつづく

 第三部へ続く

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