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少女輪廻協奏曲 ノギクとヴェドラナの愛  作者: 相羽裕司
第二部「世界の秘密と真犯人」
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第十三章「異国人として」

 第十三章「異国人として」


 それから二度、戦闘があったわ。


 一度目。わたしは地下のピアノを()いてスラヴィオーレの新たなる戦力――機械(きかい)竜たちを指揮して、帝国に押さえられていた国境の砦を奪還することに成功した。


 二度目は防衛戦。今度は奪還した砦を再び奪い返しにきた帝国軍を退けるために、戦った。


 この二つの戦い。現実世界の日本の歴史の、戊辰(ぼしん)戦争の時の第二次・第三次磐城平(いわきたいら)攻防戦が参考になったのは、ここだけの話。


 どちらの戦いでも、わたしはできるだけ味方・敵軍の両方を傷つけないように立ち回った。


 できればもう一度ヴェドラナと接触して糸で情報を交換したかったけれど、どちらの戦闘でもヴェドラナは前線には出てこなかった。


 でも、それは想定済み。


 両方の戦いで、戦闘終結のタイミングでわたしが信号弾を上げると、糸で伝えていた通り、三分後に竜騎士(ドラグナイト)、民を問わず出てしまった負傷者の傷を治すために癒しの雨が降りはじめたの。


 遠方にいながらも、ヴェドラナが「究極の魔法」を使ったんだわ。


 これでさらに二回使ったことになるので、ヴェドラナが「究極の魔法」を使えるのはあと三回ということになるわ。


 それにしても、「究極の魔法」はすごい。有効範囲も、わたしの糸の半径一キロほどよりもそうとう広いことになる。


 まるで、ヴェドラナの「癒したい」という強い願いがそのまま魔法になってしまったみたいな……。


 さて。


 わたしは今、スラヴィオーレを流れる川の河川敷(かせんじき)で考え事をしている。


 スラヴィオーレには一本大きい川があってね。清流が穏やかに流れているんだ。


 わたし、水が流れる音を聴いてると、なんか落ち着くんだよね。思考もクリアになる感じ。


 仙台(せんだい)にいた時も、よく広瀬川(ひろせがわ)の流れを眺めながら考え事をしていたわ。


 空に目を向けると、小さな複数の点が舞うように動いている。ミティアくんが、自分の竜騎士部隊の部下に稽古をつけているの。


 連日、戦闘が続いているのだけれど、ミティアくんも騎士たちも休みなく動いている。


 ミティアくんとしては、これまでの戦いを参考にして、少しでも騎士たちの生存率を上げるように訓練しているのだと思う。


 努力家の男の子。やれることは全部やっておこうという姿勢は、わたしも大事だと思うわ。


 しばらく川のせせらぎに意識を向けて過ごしていると。


 何かが、閃きそうな気がしてくる。


 ヴェドラナは、地下に何かがあるということを伝えてきた。


 スラヴィオーレの地下には、不思議なピアノがあった。


 ということは、ユーステティアの地下にもピアノないし、それに準ずる何かがある。けれど、ヴェドラナから伝わってきた記憶によれば、ヴェドラナ自身がピアノを弾いているわけではない。


 ユーステティアの方で、ピアノを弾いているのは?


「ノギク」


 そこまで考えたところで、後ろから声をかけられた。


 振り返ると、ミティアくんだった。萌黄(もえぎ)色の服を着ているだけで、鎧もつけていないし盾も持っていない。訓練は終わったということだろう。けっこう、時間が経っていたみたい。


「あれ? わたし、糸をオンにしたっけ?」


 どうして、わたしがここにいるって分かったんだろう。


「空から、ノギクが見えたから」

「おお。気にしてくれてるんだね」


 訓練中にわたしの方を見てるなんて危なくないかなとも思ったけれど、おそらくわたしを見ていたというより、竜に乗ってる時のミティアくんは視野が広いのだろう。


 それにしても、会いに来てくれるなんて。


「なんていうかさ。ノギクは遠くから来た人で、この世界だと浮いてるわけじゃん」


 やっぱり、気にはかけてくれてるんだ。ミティアくんって気づかいの人で、たとえばそう。小さな孤独とかを、見過ごさない人。


 そうか、今はわたしが異国人なんだ。


 こういう風に、他人の立場というのをリアルに想像したことってなかったかも。


 一年間糸で心を繋いでいたヴェドラナでさえ、遠い国から日本にやってきて、どんなことを感じていたのか、わたしは深いところでは理解してなかったかもしれない。きっと悲しいこととか、つらいこととか、わたしが想像する以上にあったんだよね。


「うん。ミティアくん、気をつかってくれてありがとうね」

「これから家帰ってイナと夕飯食べるけど、ノギクもくる?」


 そして、誘われている。高校に入った頃、最初はクラスメイトたちが放課後に食事や遊びに誘ってくれてたものだったなぁなんて思い出す。お断りしてたうちに、そのうち誘われなくなったのだけれど。


「東の塔のノギクの部屋。ちょっと監獄(かんごく)みたいじゃん。あそこで一人で夕飯食べてるの、心に、わるそう」


 なるほど。何となく東の塔の部屋の中にいるより、外で川の音を聴きたくなったのだけれど、わたし、自分でも無意識のうちに外に出て気分転換したかったのかもしれないわ。


「じゃ、ごいっしょさせて頂こうかな。イナちゃんとも、会いたいしね」



  /第十三章「異国人として」・完

 第十四章へ続く

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