第十二章「セイレキ二〇〇八年~気仙沼」
第十二章「セイレキ二〇〇八年~気仙沼」
ヴェドラナと出会う前の頃。
わたしは、お母さんのことでいじめられていた。
自分で自分に自信がなかったのも。自分で自分にダメ出しばかりしていたのも。思い返せばいじめられていたのが原因かもしれないわ。
ある日。
近所の公園で、わたしはイジメっ子たちに囲まれて。
イジメっ子たちのボスの男の子がわたしを嘲笑しながら、
「おまえの母ちゃん。歩けないんだってな」
って言ったわ。
なんてヒドイ!
ボスの男の子は乱暴にわたしの髪をつかんで、わたしの藤色のリボンをむしり取った。
お母さんが編んでくれた大事なリボンなのに。
なんてヒドイ!
なんとか取り返そうと思ったんだけど、力では男の子にかなわなくて。
いじめって、相手が抵抗した方が楽しいらしいわ。必死になるわたしをみて、イジメっ子たちはテンションを上げていったの。
わたしは許せない気持ちを感じて、グーを握った。
暴力で戦ったって、貧弱なわたしが勝てるわけなんかないのにね。
こいつを殴ってやる。わたしが暴力をふるうって決断しようとした、まさにその時。
べつに颯爽とした感じでもなく、ごく自然に。
――言史くんは現れた。
ボスの男の子の胸ぐらをぐいっとつかんで。
「入り江の方からぬらっと参上!」
って言ったわ。
誰!? って思っちゃった。
気仙沼には生まれた時から住んでいるけど、あんまり入り江の方って行ったことがなくて、その時まで言史くんのことは知らなかったの。
「正義の味方・十条言史だ。覚えておけ!」
絹の黒髪を潮風に揺らして。まっすぐな瞳をしていた。
深い紺色の、カンフー着を身につけた男の子。
でもね。言史くんは、ヴェドラナやミティアくんとちがって、弱かったわ。
「ちょっとうまくいってない者を、さらに追いつめるような者を、俺は許さん!」
そう叫んでボスに向かって拳を振り上げて突撃して。そして、その、返り討ちにあっちゃったの。
イジメっ子たちも何だか呆れ顔で、「調子くるうな」って言って、わたしをいじめるのをやめて帰っていっちゃった。
わたしの方も気がぬけて、相手を許せない気持ちとか、どっかに行っちゃって。
言史くんは、なんとか取り返してくれた藤色のリボンを握ってくれていたのだけれど、地面につっぷして、完全にダウンしていたわ。
大きいことを言うわりに弱くて、言史くんのこと、最初はちょっとイタい人だって思っちゃったわ。
同族嫌悪って言葉は知ってる? 自分と似てる人のことほど、つい嫌いになっちゃうって感情のことよ。
そう。わたしと言史くんは同じタイプだったの。運動したり戦ったりは全然ダメだけど、頭を使うのが得意なタイプ。
のちに、言史くんは日本で一番難しい大学にトップで合格したわ。勉強は、めちゃめちゃ得意な人だったのよ!
/第十二章「セイレキ二〇〇八年~気仙沼」・完
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