第十一章「歴女と少女」
第十一章「歴女と少女」
わたし。フジミヤ・ノギクは歩いている。
ミティアくんと並んで、スラヴィオーレの街路をテクテクと。
これが、お城がある中心部から郊外の方まで伸びてる一番大きい道ね。
道の両脇にお店が出ていて、色とりどりのフルーツが並んでいたり、焼きたてのパンの匂いがしていたり、休憩用の長椅子で歓談する人たちの声が行きかっていたり。
戦時中とはいえ、街はにぎやかだった。
お城の方。スラヴィオーレ軍は、いまとてもわいているわ。機械竜という戦力を思わず手にしたことで、雰囲気が盛り上がっている。ついに、悲願のユーステティア帝国からの独立がなるかと、戦う人たちは士気を高めている感じ。
でも、そんな戦時中の高揚から離れて、わたしは今地面を踏みしめて、この国のフツウの風景を眺めながら、街往く人々の中を歩いている。
戦略会議ばかりで辟易としていたところを、ミティアくんがわたしの心が戦争にないことを察して、街に連れ出してくれたの。
王様、さすがにわたしを軟禁するのはやめてくれたわ。
機械竜たちを制御できるのはわたしだけだったし、「究極の魔法」を使えることにしちゃったし、ぞんざいには扱えなくなったってことよね。
わたしの糸の本質能力のことは、ミティアくん以外にはまだ秘密。
ミティアくんも王様たちがブローチの魔法石のことをミティアくんに話していなかったことに不信感を持って、わたしとミティアくんが糸で繋がれていることを秘密にしておくことに同意してくれたわ。
メインストリートから細い道に入って、ゆるやかな坂道を登っていくと、白い、石造りの家が見えてきたわ。ミティアくんは、ここで妹さんと暮らしているんだって。
玄関のドアを開けると、銀髪をサイドテールにまとめた小さな女の子が出てきたわ。萌黄色のエプロンをつけてる。
少女はわたしの方を凝視して、開口一番、
「お兄ちゃんの、恋人?」
って尋ねたわ。
おませさん!
ああ、でも。糸を繋いだ時、ミティアくんはあまりにも一生懸命に生きてきたせいか、周囲に同年代の親しい女の子なんかもいない人だというのも知っていた。
そんなミティアくんが突然同年代の女子を家に連れてきたら、そう捉えたくもなるかな。
「ふっふ。お姉さんはね。ミティアくんのマスターよ」
「なんだそれ」
「従者の騎士を使役する者、みたいな」
「ええ? 俺、ノギクはそういうんじゃないと思ってた」
興味深いことを言うわね。
「じゃあ、わたしのこと、どう思ってるの?」
って聞いてしまったら。
「友だちかと思ってた」
って返ってきたわ。
友だち! 何でそうなるのか、男の子の考え方ってよく分からなかったけれど、友だちという言葉の響きには、ちょっとテンションが上がるものがあったわ。
ヴェドラナ以外の、友だち! もしかして、男の子の友だちは初めてかもしれないわ。
わたしとミティアくんのやりとりに安心したのか。
少女は、
「イナだよーう」
と両手を広げてあいさつしてくれたわ。
わたしもとりあえず、
「ノギクだよーう」
と同じポーズで自己紹介しておいたわ。
昼食時だったので、イナちゃんはミティアくんの分だけじゃなくて、わたしの分のお昼も作ってもてなしてくれたわ。
作っているのはパスタだわ。リュヴドレニヤにもパスタがあるのね。鼻歌を歌いながら、体と比べると大きな鍋で、グツグツとパスタをゆでてくれているわ。
「イナ、今日は顔色いいじゃん」
並んでフルーツを切り分けながら、イナちゃんに向けるミティアくんのまなざしは優しい。そうだった、妹さん病弱だったんだよね。
「あのね。聖女様の光が、ここにも少しだけ届いたの。優しい光でね。なんだか、ここ数日調子がいいんだ~」
いっしょにお昼を食べながら、色々な話を聞いたわ。
ミティアくんとイナちゃんは、イナちゃんの治療のために、沿岸部の故郷コぺリアからスラヴィオーレの中心部に出てきたんだって。
「コぺリアは、海がきれいなんだよ。お姉ちゃんにも見せてあげたい」
「海! ほうほう。わたしも、海の近くで育ったんだ」
わたしも、ミティアくんとイナちゃんに気仙沼の海を見せてあげたいわ。
それはそうと、リュヴドレニヤには海もあるのね。東方に京都があるという話もあったわ。一度、地理に関してミティアくんに聞いてみないとね。
イナちゃんは、お兄ちゃん、お兄ちゃんと、とてもミティアくんに懐いていた。
ミティアくんは老若男女に丁寧に接する人だったけれど、イナちゃんに向ける態度はまた特別だった。
温かくて。そして、この子を守るという強い気持ちが土台にある。
ミティアくんの、一番大事な存在。
ちょっと羨ましいわ。
でも、お兄ちゃん。そう、お兄ちゃんね。
そういえば、親しい男の人だと、友だちじゃなくて、わたしにもお兄ちゃんはいたわ。
もっとも、本当のお兄ちゃんではなくて、近くに住んでいた年上の男の人のことなんだけど。
わたしと、コトフミくんは、けっこう親しかったの。
コトフミくんっていうのはね……。
/第十一章「歴女と少女」・完
第十二章へつづく




