パラノーマル
ある姉妹のうち、妹が最初の兆候に気付く。自分が眠っている間に、机の上にあるノートが動いたと姉に話す。話を聞いた姉はまたなのと呟く。よく妹は物を無くすのだ。そしてまたそのことについて姉は自分が知るよしもないことを聞かずに嫌がる。なんでまた、そんなものを無くすのだと姉は思う。そして実際に言う。
仕方ないじゃん。だってほんとのことだし。姉は自分の部屋に寄るついでにさっと机の上を見た。確かにノートはなかったが、ベッドの中に潜りこんだか、本棚のどこかにでもあるのだろうと見ていた。それから姉はもう仕事行くからねと言った。そんなことに使う時間などはなかった。妹には学校があるし、自分には仕事がある。両親がここにいるなら、どちらかが探してくれただろう。でも今は二人暮らしだ。
何年か前のことだ。姉は実家を出て、一人暮らしをしていた。それから近くに妹が通う学校があるというので、こちらから通うようになった。今年の三月から初めて、まだ一ヶ月くらいしか経っていない。今度のゴールデンウィークには両親に会う約束をしていた。この新生活が始まってから、何か変わったことはと言えば、決まって姉は妹が物をよく無くす癖のことを話した。それ以外には、妹には恋人が出来たかもしれない。まだどんな相手かもわからないと話した。しかし妹のSNSなどを見れば、相手のことはそれとなくわかった。
その朝は、結局ノートは見つからなかった。二人は家を出て、それぞれ職場、学校へと向かった。夜、妹が家に帰ってくるとノートはあった。少なくとも彼女はそう主張した。元あった場所に、日記帳として使っていたノートは見つかった。しかし一ページだけ、ノートは破り取られていた。そこに何が書かれていたのか、妹は上手く思い出せなかった。当然、姉に聞いてもわかるはずはない。しかし姉は妙なことだと考えていた。昔から妹は、ノートのページを切り取るにしても、いつも丁寧に切り取り、シュレッダーにかけていた。姉にしても同じで、それは姉妹の中で共通することだった。こんな食いちぎるような破り方をするのは強いて言えば、父親ぐらいだが、父親はノートのことなど知るよしもない。それに日記帳を見たが、書かれたのは四月になってからで、そもそも妹以外、ノートの話を彼女がし出し、初めて姉は妹が日記を書いているのだと認識したぐらいである。何かの拍子で破けたのだろうと思い、その日は眠った。
だが今度はノートに知らない男の文字で、俺はまた、やる、と書かれた文字と赤い鍵が添えつけられているのを妹は見た。妹は魂が抜き取られていくような、深い静けさを感じた。姉も流石に不審がった。しかし警察に届けるにしても、話を聞く所以はない。なら、祈祷師でも呼ぼうかという話にはなったが、来るのは明日の朝になるという。従ってまずは自分たちの態度を明確にする必要があった。妹のデジタルカメラと姉のタブレット端末を使って、妹の部屋を監視することにした。もしかしたら寝ている間に、不審な男が忍び込んできているかもしれない。そう妹と話し合った。次の朝、妹は絶叫と共に目を醒ました。左腕に赤い痣が、ぴったりと寄り添っていた。普段は冷静な姉もこれには動揺し、頭を抱えた。しかし妹を守ってやらねばならないとそれから抱きしめた。気になって、二人はノートを読んだ。日記の余白に描かれた天使の羽が、濃い赤い文字で、塗りつぶされていた。そのわずかな痕跡が二人には見て取れた。祈祷師はその日の午後にやってきて、任じられた仕事をこなした。しかし全く効果はなかった。
その二日後に、妹は行方不明になり、またその同時刻に姉も行方不明と断定された。後日、両親と警察と部屋の管理人が部屋を見たが、彼女たちが何か事件に巻き込まれたと特定出来るものは何一つとしてなかった。ノートの切れ端が部屋に残されており、それをパズルのように組み立てると以下のようになる。
俺はまた、やる。
左腕よ、私たちの大事な指輪をどこへやった?
二人の天使のなりそこないが、天使に至るとき、奇跡は起こる。真夜中に虹が架かる。その橋を渡り、私たちはやってくる。そしてまたあの男もやってくる。




