最新技術
「仕事はもういいの?」
「うん。あたしは米軍基地とか興味ないし観光もしたいとは思わないから、さっさと終わらせて帰ってきちゃった」
明るい印象と大分違うと思う。いっそ観光を全力で満喫するタイプかと思った。
訓練室を出て、休憩がてら施設内を歩く。
「一つ聞いていい?」
ふと、思ったことを聞いてみる。
「ん? なに?」
「千紗は、何のために戦うの?」
「……あたしはさ、少し前に同級生を四人殺したことがあるんだ。そのときに碧さんに助けられたんだ。それからはしっかり仕事して、境界世界に行くまで暮らしてる。…………軽蔑した?」
「別に。俺だって犯罪者なわけだし、そもそも千紗が無差別に人を殺すなら訓練の時に死んでると思うし」
冗談めかして言う。
「そう言ってもらえると、本当に助かるよ」
真面目なトーンで言う。
「『フレイヤ』のメンバーはあたしみたいな経験をした人も多いからさ、君みたいなこと言ってくれると、ありがたいよ」
「あ、蓮くん。帰っていいよ」
訓練が終わり部屋で寝て、次の日の朝。司令室に行くと、一番最初に言われたことがそれだった。
「……クビ?」
そう返すと、端の方で優雅にコーヒーを飲んでいた千紗が盛大に吹き出した。
「違う違う。一時帰宅許可。ちゃんと帰ってきてよ」
シャレになってない眼力で睨まれながら忠告を受ける。
「逃げる気はないよ」
「それはよかった。色々準備に手間取ってしまってね。君の帰宅の準備とかその他いろいろ」
怪しげに蓮に近寄る碧。逃げ道を塞ぐように、他の職員に後ろを塞がれる。
「蓮くん、右手出して」
かなり怪しかったが、取り敢えず右手を前に出す。
――プスッ
一瞬の隙に白衣のポケットから大きい注射器を取り出し、右手甲親指と人差し指の間のところに突き刺す。針の穴が見えるほど大きい分、かなり痛い。
「はい。おしまい」
「……何を?」
「今のは君の個人情報とかの入ったチップを埋め込んだんだ。ここに入るときとかにも使うよ」
それなら言って欲しかった。
「さて、外までは送るよ」
司令室の横。普通の扉を出てまっすぐ進む。最新式のエレベーターを使って上へ登る。
駆動音がほとんど聞こえない。駆動音どころか昇っているという感覚すらない。最新の技術はすごいと思う。
「これ、使わないとは思うけど、一応持っておいて」
エレベーターの中で渡されたのは、黒い小型の機械。
「これは?」
「通信機」
実にわかりやすい一言。
「と言ってもほとんど受信専用。君から駆けてくることはないだろうからね」
確かにそうだ。事務連絡すら一言で終わらせる自信がある。