白い部屋
目が覚めると、知らない天井があった。
窓もない、完全な立方体。その一角に、鉄でできた扉がある。脇にはタッチパネルがあり、外には出られないようになっているのだろう。
『目が覚めたようだね。倉見連くん』
壁に張り付いたスピーカーから響く機械の音声。若い男の声だ。
「…………ここは……?」
『そうだね……「ホワイトルーム」とでも呼んでおこうかな。こちらの事情で、そこで隔離させて貰ってるよ」
「ホワイトルーム……隔離されている理由を聞いても?」
『その前に、こちらの質問に答えて欲しいな』
「質問?」
『難しいものじゃない。意味がわからないものもあると思うが、どうか気にせず、率直に答えて欲しい。一つ目――――君は、我々に敵意はあるかい?』
「……ない。というか、身体を動かす気力がない」
『なるほど。二つ目――――君は、人が死ぬことについてどう思う?』
「特になにも。ただ、悲しいこととしか」
『そうか。最後に――――この世界に、「魔法」はあると思うかい?』
「あってほしいとは思ってる」
『……君のことは大体わかった。調べたデータとも一致している。どうやら君は、必要以上に警戒する必要はなさそうだね』
そう言うと、スピーカーの音は切れ、わずかに開いたドアの隙間から足音が近づいてくる。
「やあ、こうして会うのは初めてだね」
「……さっきスピーカーで喋ってた人か」
「そうだよ。名前は柏木碧。君の主治医だ」
「主治医……? 俺は病気なのか?」
「考え方によっては、そうとも言えるね」
「? ……意味がわからない」
「そうだろうね。だから、今は病気と考えてくれていい」
「わかった」
「理解が早くて助かるよ。まあ、今は詳しいことはなし。ゆっくり休んでくれていいよ」
「詳しい説明は後か」
「今一気に説明しても、あたまにはいらないだろう」
「確かに」
碧に言われて蓮は、自分が思っている以上に疲弊していることを理解した。
「あ、一つ忘れるところだった」
「なんだ?」
「君は、世の中の物事に興味が持てないんだろ?」
「……そうだな」
「そこで、僕から一つアドバイス。『まずは自分の興味を持て』だ」
「……どういう意味だ?」
「言葉通りの意味さ。それじゃあ」
そう残し、碧は部屋を後にした。
蓮は再びベッドに横たわる。急速にまぶたが重くなってきたせいで、先程のアドバイスを考える暇もなく、意識は飛んでいく。
翌日、知らない人たちに囲まれていた。
「何してるんだ?」
検査をしている職員らしき人ではなく、部屋に入ってきた碧が質問に答える。
「君は、病気のようなものだと言っただろう? だから、定期的にこうして検査しないといけないのさ」
事実、たくさんの機機械を持った人たちは蓮に危害を加えるような素振りはなく、ただモニターに映るデータと蓮を見比べているだけだ。
「さて、先に言っておくことがある」
「なんだ?」
「君の、立ち入り禁止区域への侵入の処罰についてだ」
蓮の気がかりがようやく晴れる。普通に考えて、何の理由もなくこんな待遇はあるはずがないのだ。ましてや蓮は犯罪者。だが、この好待遇も、碧の言う組織の上層部からの判断待ちだったのであれば納得できる。
「結果は?」
「君は――――ここに配属されることになった」
「…………は?」