目覚め
調査隊の消失後、その危険性の認識は跳ね上がり、立ち入り禁止区域となった。そのせいか、監視カメラはおろか瓦礫の撤去すらされていない。あちこちに建物の残骸が落ちている。
柵の外は普通の風景だが、柵を越えた途端に風景が変わる。戦場跡のような荒廃した景色、ところどころに砂を被った動物の死体がある。
円形のクレーターのような地形の真ん中に、十数メートルの巨大な鏡がある。全体に施された装飾は、何らかの形をしているが、蓮には判別できない。
「うぉおお! やっぱ遠くから見るより迫力あるな!」
山本一行は、周囲への警戒もなしにパシャパシャと写真を撮りまくっている。
「あなたたち、何をしているの?」
百メートルほど進んだあたりで、突如、後ろから声をかけられた。
振り返ると、蓮と大して年も変わらないだろう少女が立っていた。金色の腰までとどく長い髪、青色と琥珀色の瞳。オッドアイというやつだ。明らかに日本の生まれではないだろう。
残念ながら、〝鏡〟を前に興奮しすぎて山本達は気づいていない。
「誰?」
蓮は、率直は疑問を投げた。本来、ここ周辺に人がいるはずがないのだ。
「答える理由はないわ。それよりもこっちの質問に答えて。何をしているの?」
「〝鏡〟に人が吸い込まれるって話を聞いたから、本当かどうか確かめに来たんだと」
「あなたは違うような言い方ね?」
「言い訳する気はないが、俺は連れてこられただけだ」
「そう。ひとつだけ、忠告しておくわ」
少女は、さほど興味なさそうに言う。
「なんだ?」
「今すぐここを離れなさい。そろそろ目覚めるわ」
「それは、どういう――」
次の瞬間、空間そのものが揺れた。少女は、特に焦った様子もなく〝鏡〟に向かって歩いて行く。
すれ違うように、山本達が駆け寄ってくる。焦っていてすれ違った少女にも気づいていない。
「おい倉見! お前、〝鏡〟に何かしたのか!」
山本が、責め立てるように言う。
「俺はなにもしてないぞ」
「嘘つけ! 俺たちだってなにもしてないんだ。だったら……〝鏡〟が動くはずないだろ!」
自分たちじゃないなら蓮だと。無茶苦茶な理論だ。理論にすらなっていない。
「そんなことよりも、今は逃げる方が先決じゃないか?」
「っ…………わかってる!」
そう言うと、山本は他の取り巻きをおいて全速力で坂を駆け上がった。
取り巻きもそれを追いかける。少女の方を見ると、〝鏡〟に受かって手を突き出している。ふざけているわけではないのだろう。事実、周囲の揺れはさらに強くなっている。ふざけていられるような状況ではない。
その少女のことを考える暇もなく、視界が真っ白に染まる。直後、すさまじい衝撃に吹き飛ばされながら、鼓膜が破れるほどの爆音と身を焦がすような熱が身体全体を覆う。
背中に焼けるような激痛が走る。吹き飛ばされたときに頭も打ったらしく、意識がはっきりしない。
「あら、生き残ったのね。すごいじゃない」
単調な声。何も見えてはいないが、鼓膜は無事らしい。
「……何が、起こった……?」
「あの〝鏡〟は生きてるの。一定の期間で今みたいな……って、聞こえてないわね」
そこからの意識はない。僅かに残った聴覚から、数人の足音が聞こえたが、それが何なのかまでは分からなかった。