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骸の夢  作者: 虎走かける
8/11

のっぺらぼう


 最近、いつも同じ夢を見る。

 私は長い廊下を走っていて、後ろからは何かが追いかけてくる。

 廊下の左右にはたくさんのドアがあって、そのどれも鍵がかかっていて開かない。

 私はやたらに左右のドアをガチャガチャとやりながら、後ろから迫る軽快な、ハイヒールでスキップでもするような、妙に軽快な足音に怯えている。


 カン、カン、カン、カン。


 足音が近づいてくる。

 私はついに、廊下の突き当りの部屋に飛び込んだ。

 中には粗末なベッドが、無数に並んでいる。

 鉄のフレームに、白いシーツにくるまれたマットレス。掛け布団は茶色い毛布が一枚きりで、すべてのベッドにのっぺらぼうの人形が横たわっている。

 病院の大部屋よりも殺風景で、軍隊か何かの簡易宿泊施設のようにも見えた。

 私は部屋の一番奥のベッドの下に滑り込んだ。

 心臓が破裂しそうなほど激しく脈うっていた。

 走っていたせいで呼吸は荒い。

 私がどうにか呼吸を整えるのとほとんど同時に、部屋のドアが開いた。


 カン、カン、カン、カン。


 ベッドの下からじっと目を凝らすと、針のようにとがった二本の脚が見えた。

 硬質なそれが床を叩くたび、カンカンと軽快な音がする。

 ズボンをはいているように見えた。

 少し視線を上にあげれば、ベルトのようなものすら見える。

 あれは人間なのだろうか。

 ではあの、するどくとがった円錐の脚は。

 見れば足の先端は血に濡れている。

 ソレが歩くたびに、床には赤い血が滴った。

 近づいてくる。

 こちらに。

 食いしばった歯の隙間から、少しずつ少しずつ息を吐く。

 できるだけ音をたてぬように、両手で口を覆っている。


 ――そろそろ、目が覚めるころだ。


 私はこれが夢だと知っていた。

 この部屋に逃げ込み、アレが部屋まで追ってきて――。


「ギャァアァアァッァ! ギャァアアァアァ!」


 甲高い悲鳴が上がった。

 金属のベッドがガタガタと騒々しい音を立て、私ははっと息をのむ。

 ベッドの下からじっと目を凝らしていると、三つ先のベッドの下に、ポタポタと滴る液体が見えた。

 血だ!

 私は戦慄した。

 悲鳴はなおも続いている。

 ついに、ベッドの上から、血まみれののっぺらぼうの人形が転がり落ちた。

 

 目が、あった。


 顔のない人形と、血を流す人形と、確かに目があったと感じる。

 人形は、救いを求めるように私の方に手を伸ばした。

 その人形の頭が、円錐形の足によって貫かれる。

 人形はビクンビクンと痙攣し、ついに動かなくなった。

 私は気を失いそうだった。

 おかしい。

 もう、目を覚ましていてもいいはずだ。

 いつもなら、あの人形と目が会ったところで目が覚めるのに、今回はその気配すらない。

 次の瞬間。

 がばりと、人形を殺したソレが床に這いつくばった。

 血を流し、死んだ人形に覆いかぶさり、その死肉をむさぼり始める。

 私は胸郭をせり上がり、喉を押し開きそうになる悲鳴をどうにかして飲み込んだ。


 人間のような形をしていた。


 両手も足と同じく円錐形で、這いつくばっている様子は一見して虫のようにも見える。

 頭は不気味なほど長く肥大しており、その顔の半分を、縦に裂けた口がしめていた。

 ソレは口を大きく左右に開き、人形の肉を力任せに食いちぎる。

 私にはその様子がはっきりと見えていた。

 ベッドの下の空間を通して、その食事風景が、飛び散る血の飛沫まで。

 それならば。

 きっと。

 向こうにも、私の姿が――。

 

 ひとしきり食事を終えたソレは、ぐるりと私の方に顔を向けた。

 顔の上部に一つだけ存在する、顔から半分ほどせり出した丸い眼球が、しっかりと私の姿を捕えている。

 私は目を閉じた。

 目を覚ましてくれ、早く、早く。

 そればかりを祈って、ガチガチと震えながら、動くこともできずにベッドの下で丸まっている。

 そんな私の耳に、音が。


 カン、カン、カン、カン。


 カツン。


 私は目を開ける。

 ソレの目には、私が――ベッドの下でふるえて丸まっている。のっぺらぼうの人形が映っていた。





夢は無限に恐怖のるつぼ

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