野生の作家を拾ったら
あなたが近所の公園や、森の小道などを散歩していると、時々野生の作家が木に実っているのを発見できるでしょう。
作家というのは不思議なもので、生物であるのですが、ほとんど植物のようです。
特に木に実っている作家は休眠期に入っているため、呼吸以外のことをせず、放っておくと栄養補給もせずに死んでしまうので、もしあなたが作家という生き物に興味があれば、丁寧に枝からもぎとり、家に連れて帰って、活動的になるようにサポートしてみるのも、夏休みの宿題として面白いかもしれません。
さて、あなたは今、公園で一人の野生の作家が実っているのを発見し、もぎとり、家に連れて帰ってきました。
一人に慣れる空間を用意し、水と食べ物と、あなたが人生で一番面白いと思っている本を与えて様子を見ましょう。
もし、拾ってきた作家が本に興味を示し、それを食べたら、次は原稿用紙とペンと消しゴムを与えてみます。
本当はノートパソコン等のほうが良いのですが、コストがかかりますので、最初は原稿用紙とペンで様子を見るのがよいでしょう。
与えたものをすべて食べ終えると、作家は数日で作品を産み落とします。
それを見て、あなたが少しでも「よいな」と思ったら、それはあなたにとってベストな作家ということになります。
さらに好みの書物を与え、たくさんの原稿用紙を与えてみましょう。
ちなみに、原稿用紙などは一日もすればなくなってしまうかもしれませんが、ノートパソコンなどは、一度与えると数年ほど原稿用紙系の餌を必要としなくなります。
長期的にその作家を飼育しようと決めた段階で購入を検討しましょう。
ここで注意しなければならないのは、物を与えすぎてはいけないということです。
とくにネット環境などは「あたえたほうがよい作品を生むかな?」と思いがちですが、与えた瞬間にその作家は作品を産まなくなる可能性がたかくなります。
また、作家が生んだ作品が少しもあなたの心に響かなかった場合、それはあなたにとって何の価値もない作家といえるでしょう。
間違っても罵ったり、叩いたり、自分の好みの作品を生むように圧力をかけたりせず、もといた場所に戻して木からぶら下げておきましょう。
ひょっとしたら、また誰かが拾ってくれるかもしれません。
あなたが幸いにも相性のよい作家を拾い、休眠期だった作家を活動期まで移行させることに成功したとき、あなたは作家が生んだ作品を、ほかの人にも自慢したくなるかもしれません。
けれど、これはとても危険なことです。
前述の通り、作家の生んだ作品は相性によって良い悪いの評価が大きく分かれますので、あなたが最高に面白いと思っても、ほかの人にとっては駄作かもしれません。
ですから間違っても、作家の目の前で、別の人に作品を読ませるのはやめましょう。
作家はあなたとあなたの友人の言葉を理解しています。言葉にしていなかったとしても、細かな表情を読み取って敏感に思考を読み取っています。
せっかく活動期に移行していた作家が、あなたの友人の言葉で、再び休眠期に戻ってしまう可能性もあるのです。
さて、作家の生んだ作品が、ある程度溜まってきました。
それは雑然とした紙の束であったり、USBの形で産み落とされたデータであったり、今一つ統一感がありません。
作家を飼育している人は、作家の生んだ作品を本の形にまとめることが多いようです。
本の形にしたものを作家に与えると、作家はさらに活動的になるでしょう。
あなたが愛情深く作家に接すれば、作家は命の限り作品を生み続けてくれます。
けれど、ここからはとても悲しいお話です。
作家の寿命はとても短く、一年程度で命を落としてしまう個体も少なくありません。
あなたがどれほど愛情を注いでも、作家の命はある日突然終わってしまうのです。
作家は死体を残しません。
昨日まで元気にしていたかと思うと、ある日突然、部屋から消えているのです。
愛していた作家を失った飼育者は悲しみにくれ、飼育していた作家に似た個体が木に実ってはいないかと、森や公園の枝を探すようになりますが、これは多くの場合悲劇を残します。
どれだけ似ているように見えても、同じ作家は二人とはいないのです。
拾ってきた作家の個性を認めず、過去の作家の面影を求めて叩けば、せっかく拾ってきた新たな作家の寿命を早めることになるでしょう。
そう、作家を長生きさせる方法はいまだに研究が続けられている段階ですが、作家を早期に死なせる方法ならば、数えきれないほど判明しているのです。
それでも、どうしても諦めきれない。
あなたは飼育していた作家がそうしていたように、本を食べ、原稿用紙を食べ始めるかもしれません。そして、もしかしたら作品を生み始めるかも。
ですが多くの飼育者は、自分が望んだ作品を生むことができません。
もうお気づきですね?
そうした飼育者は、公園や森の木の枝に実り、そして誰かがもぎ取るまで――あるいはそこで消えるまで、静かに風にゆられているのです。
ホラーではないきがしてきた




