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No.09「盲目剣士ミック・カインドの告白」

今回のお題は



(お題)

1「再起不能」「伝説の正体」

2「足りない」「明日も明後日も」

3「同居」「寝癖」



 「それではお話を聞かせてもらえますでしょうか……盲目の伝説剣士……ミック・カインドさん……」


 一人の記者がペンとメモ帳を手に中年の男とテーブルを挟んで対峙していた。



「伝説はよしてくれよ……それにね、盲目ってのも今はやめてくれ」



 ミックと呼ばれた中年男は、そう言って黒塗りの眼鏡を外し、ウグイス色の瞳を記者に向けた。



「やっぱり……見えているんですね……」



「バレちまったもんはしょうがないな」



「ミックさん……あなたは10年前にこの街を脅かしていた魔物を倒し、その代償に視力を失って再起不能になったとされていましたが……嘘だったんですね……」



「ああ……嘘だ」



 それは偶然だった。数日前に記者が何気なく街を出歩いていたら、突然突風が吹き、とある女性のスカートがめくれてしまうという出来事に出くわしていた。



 その時、少し遠くでその女性の下着から咄嗟に顔をそらしたミックの姿を目撃したのだった。



 目が見えなければ、女性のスカートがめくれたことなど気がつかないハズ……それをタネに記者はミックにつめより、とうとうこうして一対一の対談にまでこぎつかせたのだった。



「あなたの生真面目さが仇になりましたね……」



「女性への免疫力が低くてね……まぁ、それもどうでもいい。さっさと本題を聞いたらどうだ? 」



 ミックは記者を威圧するようにまっすぐと見据えた。記者もそれに臆することなく、落ち着いた口調で質問する。



「ミックさん。まずは……なぜそんな嘘をついたのかを聞かせていただけますでしょうか? 」



 記者の質問に、ミックは少しだけ黙って頬をポリポリとかいた後、大きく息を吐き出して答える。



「まず……第一に身の保身だ」



「身の保身? 」



 記者はどういうことか? と思いつつも、そのワードをメモ帳に書き記す。



「身の保身……つまりだな。政治的に上位の人間……市長や、国王による圧力を受けることを、俺は危惧したんだ……どこかの国でもあったろう? 暴君を倒した勇者が、王によって迫害されたとう話だ……それが恐ろしかった」



「なるほど……目が見えない。となれば、あなたの力は物理的にも政治的にも低下する……確かに実際、あなたに対して大きな圧力をかける組織はありませんね」



「その通りだ……そして二つ目に、生活の為。いかに魔物を退治した勇者となろうとも、安泰した生活を何年も続けられるハズもない。俺は元々学の無い荒くれ者だ。就職だって難しい。そのうち明日も明後日もメシが足りるか不安になってしまう日が来ることは分かっていた」



「だから、目が見えないフリをしてど同情と義援金をせしめ、悠々自適な生活をしていたと」



「ご名答。少し申し訳ない気分になってしまうが……これも自分自身が生き残る為だ……いたしがたない」


「いや、いいんです。あなたが毎年大量の供物と生け贄を要求して人々を困らせていた魔物を倒したことに、違いはありません。それはそのことに対する報酬として……」



「それが違うんだ」



 ミックは記者の言葉を遮るように、語気を強めてそう言った。部屋の空気がビリビリと震え、百戦錬磨の記者も思わずたじろぐ。



「どういうことなんですか……それは……」



「俺は魔物を倒してなんかいない……俺が祠に強襲した時には……すでに魔物は死んでいたのだ! 」


「え……ええっ!? つまり……」


「そう……俺は伝説の剣士なんかじゃないのさ……ただのペテン師ってことだ」



 魔物を倒したフリをし、さらには両目の視力を失うという演技まで徹底して世間を欺く……伝説の正体はあまりにも人間らしく……尊敬の対象にはできないモノだった。



「ミックさん……あなたは、そこまでして名声が欲しかったのですか? みんなを騙し……下手な演技を続けてまで……」



 記者のトゲのある言葉に、少しも屈することなくミックはテーブルを指でトントンと叩く……そして目の前の若い記者を飲み込むような不敵な笑みを浮かべた。



「記者さん……俺は名声だとか、そんな理由でこんな手の込んだことはしない……もっと別の理由があったんだ。それを今話そう」



「理由……もしかして……魔物に生け贄と捧げられていた少女のことでしょうか? 」



「ふふ……察しがいい」



 生け贄の少女とは、ミックが祠へ魔物退治に赴いた際、そこに一人でいたところを保護された当時5歳の女の子のことである。名前はパメラ。



 パメラは魔物の生け贄として捧げられていたが、どういうワケかミックが訪れるその日まで生存していて、彼はその子を保護して街に帰った。



 パメラの両親は彼女を一度生け贄に捧げることに了承した罪悪感から、再び帰ってきた彼女を家族として招き入れることが出来ずにいた。


 そこに保護者として名を上げたのがミックだったのだ。



 盲目の人間に彼女を育てられるか? と周囲から不安視されていたが……今となってはそんな不安など初めからなかったのだ。彼の視力は全快なのだから。



「そのパメラちゃんが、あなたをペテンに駆り出させる理由なのですか? 」



「そう。そして、まずは一つさっきの話を訂正させてくれ」



「訂正……? 」



「俺が乗り込んだ時には、魔物はすでに死んでいた……と言ったが、実はちょっと違う……本当は、その時……まさにパメラが魔物を殺していたのだ……」



 記者は衝撃の告白に、メモをとることも忘れ……ただただ唾を飲み込むコトしかできなかった。



「5歳の女の子が……どうやって? 」



「信じられないだろうが、あの子にはとんでもない魔力が秘められている……彼女の両親がパメラを生け贄に捧げた本当の理由はそれだ……その圧倒的な力を恐れ、やっかい払いをしたワケだ。まぁ……実際はその想像を遙かに越える結果になってしまったのだがね……」



 室内は緊迫した空気が支配し、記者はこの先どういった質問をすればいいのか分からなかった……それどころか、今この事実を知ったことを激しく後悔していた……なぜなら……



「ミックおじさーん」



 ドアを叩くノック音と共に、鳥の鳴き声のような声が響き渡る。



「おお、パメラ。今日も元気のいい声だな」



 そう。件の生け贄の少女が……今なお同居している15歳のパメラが、ミックと記者が対談している部屋に入り込んできたのだ。



 パメラは今まで昼寝をしていたようだ……寝癖がついたままの頭が、妙に愛らしく見えた。しかし記者にはその寝癖が、悪魔の角のように見えて仕方がなかった。



 そして彼女はミックと軽いハグを交わし、その真っ青な瞳を記者へ向けた。ミックはいつの間にか黒眼鏡をかけ直して「盲目モード」に戻っている。



「おじさん、このお方は? 」



「えと……その……」



 パメラに見つめられて、しどろもどろになる記者を助けるように、ミックは「友達さ」と適当な嘘をついてこの場をやり過ごさせた。



「そうだったんですね! 初めまして! パメラです」



 無邪気に差し出されたパメラの手を、記者は恐る恐る、まるで真っ赤に焼けた鉄のコテを触るように握って握手に応じた。



「さて……そろそろ夕食の時間だ……どうだね? キミも一緒に」


 パメラの頭を優しくなでながら、記者をディナーに誘ったミック。その姿は、外から見れば仲むつまじい親子にしか見えず、記者にとってはそれが逆に不気味だった。



「いえ……僕……これから用事があるんで……せっかくですが……この辺で帰らせていただきます……」



「そうか。それじゃあお気をつけて」



 二人に見送られながら、記者はミック邸を後にする。そして帰り道を歩きながらメモ帳にペンを走らせ、こう記した。



『ミックは自ら盲目の身となり、パメラに自分のサポートをさせて生き甲斐を与えた。そうすることで彼女の魔力は表に出ることはなく、平穏な暮らしを送ることが出来る。つまり、彼は世間を騙しながらもなお、この街の平和の為に戦っているのだ。魔物以上に恐ろしい、小さな悪魔を相手に』



 記者はそう書き殴ったページを荒々しく破り、粉になるかと思うほどに細かくちぎって川に捨てた。



 記者にはその時、帰り道に照らされた夕日が、いつも以上に綺麗に見えた。





THE END

 執筆時間【1時間18分】


 だんだんと時間内に収められなくなってる……(^^;)

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