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No.06「エゴのカタチ」

今回のお題は



(お題)

1「何度でも」「プライド」

2「呆気ない結末」「夢見心地」

3「あなたを形作るもの」「英雄」





 これで345回目……



 何度も何度も繰り返しても……彼女を救うことが出来ない……



 オレは2年前に自分の存在していた日常とは異なる世界へと飛ばされた……



 ここでは西洋のおとぎ話のように剣と魔法が支配し、モンスターやドラゴンだっていた……



 そして数多くの出会いや別れを費やし、とうとうこの世界で虐殺と略奪を繰り返す暴君と対峙することとなった……



 そう、オレは言うなればその暴君を倒す「勇者」としてこの世に呼ばれたらしいのだ。



 そして激闘の末、オレは暴君を倒し、この世界に安寧が蘇ると予感したが……ここで予想外の出来事が起きた。



 暴君が最後の力を振り絞り、仲間の一人を巻き添えに自爆を図ったのだ……



 その仲間は……この世界でオレと永遠の愛を誓った妻だ……



 世界が救われても、彼女がいなくては意味がない……オレはここで自身に携えられていたとある能力を咄嗟に発動させた。



 それは、時間逆行の能力。



 オレには時間を動画の逆再生のように戻すことが出来た。そしてそれにより妻が死亡する数分前まで時間を戻し、今度こそ暴君によって妻を殺されないように、未来をやり直すことにしたのだが……



 それが、どういうワケか……何度違う行動をとっても、妻が爆死してしまう運命を避けることが出来なかった……



 それを345回繰り返し……345回妻の体が四散してしまう光景を目の当たりにしたオレは……とある決意を腹に決めることにした。



 それは……正義というプライドを木っ端微塵に砕いて便所に流すような……腹黒い決意だった。



「正気か!? 」

「何を考えてるの!? 」

「思い直して! 」



 ああ……オレの仲間達は、パンの中からモグラが飛び出してきたかのような、信じられない光景を今目にしているのだろう……



「悪いがオレは本気だ……今までありがとうよ……ここまで信じてきてくれてな……」



 オレはそう捨てぜりふを吐いてから、仲間達を剣で切り裂き、魔法で砂に変えた……



 そう……妻以外の仲間達をだ……


「これは一体どういうことだ……? 血迷ったのか勇者よ? 」



 暴君ですらその光景に動揺していたようだ。無理もない……自分の強敵が一転……味方へと変わったのだから……



「オレはあなたに忠誠を誓います……あなたに楯突くものは全て消します……破壊します。だけど一つだけ条件があるのです……」



「ほう……言って見ろ、元勇者よ……まぁ、大体の見当はつく……その娘を生かしてほしい……そういうことだろう? 」



 暴君は飲み込みが早かった。その通りだ……オレは妻さえ生きていれば……この世界の全員を敵に回したって構わない……



「……そんな……どうして……

? 」



 妻は腰を抜かして震えてオレをじっと見据えている……こんな状況でも、僅かにオレを信用している……そんな瞳だった。



「スマン……オレにはこうするしか方法が思いつかなかった……君が塵になる姿はもう……」



「どうしてもっと早くしてくれなかったの? 」



「……え? 」



 今の台詞は……彼女が言ったのか? ちょっと待て……何て言った……? どういうことなんだ? 


「345回……何度も爆発するのはさすがにキツかったよ……勇者様……そこまで悪の側につくのに躊躇してたってことだね……でも、そんな真面目なキミだから……私は結婚したんだよ」



 耳を疑うという言葉は……今この時の為にある……そう思った。



「お前……もしかして……」



「ピンポーン! 」



 軽い調子でそう言った彼女が指をパチンと鳴らすと……今さっき忠誠を誓った暴君が一瞬で砂となり崩れてしまった。



「暴君は……君だったのか……」



「アタリ! キミが忠誠を誓った相手はただの砂人形……全部私が影で操ってたの! 」



 彼女はそういってオレに抱きついてきた。狂気の沙汰の狭間で、彼女の髪から発せられる花の匂いに気を取られてしまう。



「ねぇ……勇者様……告白するとね……私もキミと一緒の世界に住んでいた転生者だったの。だから、キミと同じ時間逆行の能力を持ってるの」



「つまり……オレが戻していた時間は……実はキミが戻していたと……? 」



「その通り! で、何でそんなコトをしたかって言うとね……あのままキミが暴君を倒した勇者になってもね……ロクなコトなんてないからなんだよ」



 オレはそのまま彼女の話を聞いた。



「キミが街に戻るとね……仲間もろとも迫害されちゃうの……王様がね、勇者達に政治的な権限を握られることを恐れてね……だから私、そうならないように時間を戻して……こうなるまで何度もやり直したの」


 彼女はオレと軽くキスを交わし……再びパチンと指を鳴らすと、さっきまで禍々しい塔の中にいたハズが、一気にその壁面を崩れさせ……高所からこの世界が一望出来るようになった。



「ねえ勇者様……もうさ……こんな世界壊しちゃおうよ……私とキミの時間操作能力を組み合わせるとね……新しい世界を作りだすコトが出来る、創世能力を発動出来るの」


 スケールの大きな話だった。そして……あまりにも自分勝手な話だった。



 自分と恋人……二人だけさえいればいい……そんなエゴに満ちた発想だ……



 でも……自分もついさっき、妻の為に仲間を皆殺しにした身分だ……


 ブラックホール級のエゴイスト同士……オレも君……お似合いのカップルなのかもしれないな……



「いいよ……やろうか」



「……ホントに? 勇者様! ホントなの? 」



「ああ……壊しちまおう……そして作りなおしちまおう……このロクでもない世界を……元いた世界よりももっともっと……すてきな世界に……」



「うれしい……」



 オレと妻はそのまま深い口づけを交わし……創世の力を発動させた……



 隕石が落下し……世界が闇に包まれ……時間があっという間に過ぎ去った……



 あまりにも呆気なく……あまりにも夢のような心地で……



 この世界は結末を迎えたのだ……








「おーい! 起きろー! 」



「ん……うるせえなぁ……」



 オレは耳をつんざくような甲高い幼なじみの声で意識を現実に戻した。



「おはよー! ホラ! さっさと起きて! 学校に遅刻しちゃうよ! 」



「え……おいマジかよ! もうそんな時間か! お前もうちょっと早く起こしてくれよ! 」



「幼なじみがわざわざお越しに来てやってるだけで感謝してよ! 」



「いいから! 部屋から出ろよ! 今着替えるから! 」



「はいはい」



 けたたましい喧噪の中、幼なじみの女子高生は、一人思いにふけっていた。



 キミが覚えてないのが残念だね……あの時……勇者としてキミは暴君の私を信じて、異世界を破壊する決断をしてくれた……



 そのおかげで、数多くの異世界に放り込まれた人間の魂が、この世界に戻ることが出来た……



 全部キミのおかげ……



 あなたを形作る……巨大なエゴが……こちらの世界の人間を救った……



 英雄なの……キミはね……



「お待たせ! 」



「うわスゴい寝癖! そのまま行くの? 」



「しょうがねえだろ! 何度も何度もやり直したのに! 」



「345回も? 」



「へ? 」



「冗談! 行こう! 学校に! 」




THE END

 執筆時間【59分】


 この話はもっと練って書きたかったかも(^^;)

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